日々は過ぎていく
"日々が過ぎていく"──。
もしかしたら、普通の人にとってはこの言葉の意味が大した意味を持たないのかもしれない。
⋯⋯しかし。
僕にとっては毎日何も起こることなく過ぎていくということは、とても言葉では表せられない感情が全身を駆け巡るものなんだ。
「わー!
バズウがまたコケたー!」
子供たちが走って、バズウを追いかけている。
今ではウルやバズウも立派なお兄さんだ。
もう少しで大人になるらしい。
全員、あまり年齢は記憶にないみたいだけどね。
「「エオ」」
そんな隣で。
屈んで僕の隣で籠を持ってきてくれるもうデンデラのような存在になったグランとニバ。
「黄金⋯⋯かつて、陽の光のようだと言われたオコンがこんなにも広がるなんてな」
「えーとね!
オコンは⋯⋯穀物ってやつなんだって!」
「いや、知ってるだろ。
今それを言ったんだ」
「むっ!
いいでしょ!勉強してるの!」
⋯⋯仲がいいな。
二人は。
「黄金⋯⋯文字通り、光ってるように見えるね」
言葉にするなら、
"自然の風に波打つ黄金に垂れる箒"。
そう思う。
それがいっぱいに広がる景観。
僕が見ている景色。
これが、今の僕達の健康を支えている。
お腹が膨らむほど食べれて、みんなが笑顔になる食べ物。
──天が創った物。
オコン神っていうのがあるくらいだ。
神っていう表現が僕は未だにあまり理解できていないんだけどね。
神様という存在は見たことがないし、居たとしても見れないらしい。
⋯⋯ではみんな神様というのをどう信じているんだろうって。
「僕はみんな友達になりたい」
「「⋯⋯ん?」」
「ん?
みんなさ、疲れてるんじゃないかなって」
「戦いに?」
笑って。
僕は頷く。
「この間、お使いに行ったの覚えてる?」
「それ半年⋯⋯いや一年以上前のことじゃねぇの?」
「ふふ、そうなんだけどさ」
もうそのくらい前なのか。
時の流れは早いな。
「恵みだっ!
⋯⋯なんて言って、子供たちを追いかけ回していたよ」
「ある俺達の未来だったかもな」
確かにね。
小さく頷いて、僕はグランを見ながら続ける。
「うん。
猟犬だって、人間だ。
僕達だって仲が良い人に分け与えることはしたいと思っていても、知らない人に分け与えようとはしないと思うんだ。
この世界で」
「当然だな。
死に物狂いで取ってきた食いもんをおいそれと渡すわけには行かねぇわ」
「もし、みんなが友達だったら?」
「⋯⋯みんな分け与える!!」
僕とグランの間に割り込んでニバが大声で言った。
──そう。
「そういう事。
みんな、仕方なく働かせられている。
長い時間をかけて収穫できた食べ物も、頭達のような大人が取っていく。
結局は村と同じ。
それの大きくなって更に酷い未来が見える話。
だからそれを変えたい。
みんなが笑顔で、みんなが笑って過ごせるようにしたい。
けれど、現実を見なくてもいけない。
僕に力がないから、こうして農場を作ってどうにかするしかない。
バレたら奪われるから」
ポスッと僕の肩を叩かれた。
見上げると二人が笑って僕を見つめていた。
「俺らがいるだろ」
「そうだよ!
エオのソレいいよ!
みんな友達になれれば、みんな違う食べ物もくれるしあげられるじゃん!」
「そうだよね?
なんでみんな争うんだろうって」
──良い考えだね。
そう言って僕の背後に立っていたのは、少し顔色が良くなったベルさんだった。
「体の調子はどうですか?」
「あぁ。
エオの力のおかげでね」
あれからすぐに摘ませてもらって、色々試した。
あ、ちなみにエオランという名前にした。
しばらく対話を続けた植物さんたちが青い花の事を"ラン"と言っていたから、僕の名前とくっつけてエオランってことにしたんだ。
スッと心臓が軽くなったそうで、咳き込む回数も減った。
植物さんたちには何度も挨拶に行ったけれど、でも3回目以降はあまり反応してくれなくなったのはちょっと寂しくもある。
それでも、色々発見があったから、僕としては一歩前進だ。
「そんな」
「ふふ。
ところで興味深い話だ。
エオの話で私が思うにはね、争いというのは⋯⋯人間だからこそ起きる、そう思っている」
「「「人間だからこそ?」」」
「あぁ。
動物は本能なのか、それともそういう風に理解をしているのか分からないが、子供や母親を決して殺そうとはしない。
敵対行動をした時だけだ。
しかし人間は違う。
⋯⋯全部滅ぼす。
そしてそれ以上に。
人間には感情がある。
本能以上の物だ。
それは本来、人間特有のものであり、活かすためにあるものだが⋯⋯どれも残念ながら攻撃にしか使われていないのが結果だ」
「はい」
「嫉妬、憎悪、恐怖、復讐、怒。
我々があるのはこれくらいだ。
⋯⋯厳密にはもっとあるだろうけど。
これらは自分で止めようと思って止められるものではない。
これを持ち続ける限り、人間が争う事は未来永劫ないだろう」
「それはエオも?ベルさん」
「ニバはエオが好きなんだね」
「ち、ちがうよ!!」
それはそれで傷つくんだけど。
「エオは素晴らしい子だよ。
けれど、例えば、表に出たとして、沢山の女から言い寄られる。
⋯⋯現実的にかなり起こり得る話だ。
事実男とはそんな生き物だからね。
知識として入れておいても、実際起こったら迷うのが人であり、感情の根源だ。
不安から人を動かそうと思う。
愛情が支配に。
承認欲求が高ければそれは傲慢に。
エオは私の言ってることを理解できるだろう?」
「はい」
「あまりに強い悲しみがあれば、悲劇は生まれる。
生まれた悲劇は惨劇になり、より大きくなって更なる恐怖と支配による人間が多くなる。
実際、そうやって私達人間は歩んできた。
それはこの様々な構造によって成り立っている。
みんな友達という構造には、その人間らしさというものが入っていない。
⋯⋯エオ。
これから君が闘っていくものだ」
これから。
人間らしさ。
「私からしても、素晴らしい浪漫だと考える。
私もこの世界で"産まれて"からもうどれくらいかなどと覚えてはいないが、ここまで素直で、ここまで他人に寄り添える子を見たことがない。
けれど、それはあまりにも人間ではなさすぎる」
「人間ではない?」
「欲求だよ。
お腹が満たされたら⋯⋯次はもっと欲しくなる。
もっと欲しくなれば、自分の持っている畑だけでは育てられなくなるね?
⋯⋯となれば、どこからそれを持ってくるんだい?」
「それは土地です」
「そうだ。
これは四大頭の構造を言っている。
この根源から、広大なこの世界を分けた真実だ。
人間の感情に限界はない。
欲求、行動、感情。
あれを手に入れたら今度はアレが。
欲しい女が手に入れば、次はもっと自分に従う女がいい。
このご飯が食べられたら。
全員こうすればいい。
全てが欲求であり、際限がない。
エオが戦うものは、世界とそれに本能で動く人間そのものだ」
言葉を返せない。
確かに。
安心、食事、性。
どれも得られたからと言って、そこで終わりではない。
⋯⋯考えてもなかった。
これは僕の盲点ってやつだ。
「しかし」
見上げる。
そこには、鼻で笑い飛ばすかのようなベルさんの笑った顔があった。
「そんなもの──エオならきっと破壊するだろうと思っている」
「そうだよ!
エオならやれるって!」
「全員お気楽かよ」
道のりは長い。
けど、僕を信じてくれているみんなと、これからも進み続けよう。
「グラン、ありがと」
「⋯⋯うるさ」
「「「「ハハハハハハハ」」」」




