自然はそこにいる。
「なぁ」
「どうしたの?グラン」
また時間が過ぎていく。
最初は本格化すると言っていたからすぐに始めると思っていたんだけど、そんなことは無いみたい。
「ちゃちゃ、そこ採れてなくない?」
「ああっ、悪い」
グランも、随分最近は大人しくなったというか⋯⋯隠れてコソコソしているのかな?
「そんな事よりよ」
「ん?」
「最近やけにトリスさんの訓練がキツくなってるのってなんでか知ってるか?」
⋯⋯僕は直接受けていないからなんとも言えないけど。
もしかしたら近いのかもね。
「戦いがあるのかも」
「エオでも知らねぇなら仕方ないか。
だがよ、ざっくり内容は知ってるけど、内戦の大きい感じってのは分かる。
だが勝てるのか?」
問題はそこだよね。
内戦にしろなんにしろ。
戦術書にも"数が戦いを制す"って書いてあるし。
一人強いのがいても、数人で叩き続ければ体力的にも持たないっていうのは僕でも分かる。
「今は準備期間でもあるんだろうね。
それでも全く追いつかない現状もあるんだろうけど」
「まぁ正直なところ、一手取るために必死になるから結果的に強くなってるのが分かるから文句が言えないのがムカつくところ」
「それなら良かったじゃん」
「⋯⋯はぁ」
隣で屈んで聞いていて、ふと思う。
文句が言えるってこう考えると贅沢だよね。
"選べる"ということなんだから。
⋯⋯素晴らしい。
「今日の農場はみんなやってくれてるんだっけ?」
「あぁ。
エオがいなくても回せるようにはした。
原理って奴が未だにわからんけど」
「それなら良かった」
*
そうしていつもの毎日を歩んでいく。
ご飯を食べて、訓練をする。
午後、家に帰る終わりの時間間際、僕は山に登っていつもの場所へと向かう。
「こんにちは」
意味があるのかはわからないけど、こうして沢山の木に挨拶をしていくと、なんだか風が吹いて挨拶を返してくれた気がするから、習慣ってやつになっちゃった。
「根元に失礼してっ⋯⋯」
本を読むのは僕の中で二つの意味がある。
それは主に知識を増やす為と応用の為だ。
普段行っている読書は様々な知識を叩き込む為だ。
言葉や常識、歴史。
今では僕を特別視してくれている子供たちが僕に倣って読書を始める事が増えた。
⋯⋯素晴らしい事だ。
僕はそう思う。
力も大事だけど、考える力っていうのも大事だし、知らないということへの恐怖も知るべきだと思っている。
みんな熱心で、わからない言葉をとにかく調べる。
この先、みんながどうなるか楽しみだ。
と、話が逸れちゃった。
そうして増やしていってたんだけど、もう一つ。
「植物に関しての本が少ないからなぁ」
病気と呼ばれる身体の異常。
ベルさん、サヴァン先生も一部罹っているらしい。
これは日々の中で増やしていく事をしていたけど、増やすだけでは難しいと僕は判断した。
その次の日くらいかな?
応用として、重点的に強化する事にしたんだ。
⋯⋯その結果、一日で行う読書時間が大幅に増えてしまった。
──ここまで言えばきっともうわかると思うんだけど。
つまり応用時間の大半をここで過ごしている、というわけだ。
「最近、色々となぁ」
そうだ。
病気というのは植物の葉をすり潰すという工程を踏んで色々な事をしていくと万病に効く⋯⋯というところまでは分かったんだけど、誰も本に情報を載せていない。
ベルさんに聞くまでは頭の中で疑問が多かった。
なんで残さないのか?
みんなどうしているの?って。
──答えは簡単だった。
"その情報はご飯よりも希少で、知っている者は全てを手にする可能性すらあるという事"だって。
盗られてしまう。
治されてしまう。
そんな事が当たり前の世界で、治し方を教える馬鹿はいない。
⋯⋯そう言われた。
確かに、考えれば分かることだ。
実際ベルさんの世代では、ある力を持った人間を治すことに成功した報酬で、一生困らない生活をさせてもらえるという"女の子"が居たくらい凄いものらしい。
女の子の立場でそれは確かに聞いたことがない。
ここにある本のどれにも、女の子が優遇された例がないからだ。
⋯⋯僕にもっと力が出来たら、女の子にも選択できるような立場を作れるようにしないと。
少なくとも、今のままでは駄目だ。
「やっぱり載っていない」
捲りながら僕は頭を抱える。
実は最近、ベルさんの咳込みと身体の異常がかなり深刻化している⋯⋯そうトリスさんは言っていた。
「このままじゃあベルさんはただ死を待つだけの存在になってしまう」
僕と会うまではまずいはまずかったみたいなんだけど、夜の注入があったからか、ドンドン日に日に体力が落ちてきているって。
嫌でも考えてしまう。
──"僕のせい"でって。
「治し方、考えないと」
毎日読んでいても、考えても。
何も浮かばない。
植物といっても、確かめようがない。
でも確かめなければ、分かりようもない。
⋯⋯でも、どうすればいい?
「んんー!」
バタンと倒れ込む。
「分かんなーい!!」
農場だって、たまたま気付いたからこそ出来た。
けど、今回のは全く別物だ。
横目に見える沢山の植物。
どれもなんの効果があるかなんて分からない。
「ふぅ⋯⋯」
頭を落ち着かせようにも、もうどれくらいの時間を眺めているかなんて考えられない。
それからしばらく見上げていた、その時だった。
「ん?」
近くに見たこともない植物が風に吹かれている。
一本だけ、変だ。
思わず起き上がって近付いてみる。
「なんだこれ」
近くに置いた沢山の本を捲ってみても、同じ植物は載ってすらいない。
効果は書いてなくとも、誰かが残した種類だけはあったから。
「⋯⋯全く知らない植物だ」
たまたま?
どういうこと?
そもそも前からこんな色の植物なんてあったかなぁ?
青くて凛としている伸び方。
なんて綺麗なんだろう。
「こんにちは、僕はエオって言います。
あなたは最近ここに出来たんですか?」
正直植物がなんでいるのかも分からないけど、でもいつもの癖で屈んで喋りかけてしまう。
「喋れないよね、ごめんね」
と、その時。
「っ?」
不自然に僕の前髪が浮く。
⋯⋯風?
今吹いていなかったよね?
ゆっくり、その植物を見下ろす。
「もしかして、風で教えてくれますか?」
勘違いでもいい。
聞いてみる!
「もし僕の言ってることがわかるなら、僕の髪を風で吹いてもらえませんか?」
⋯⋯そう。
僕の全身は。
──吹いた風によって鳥肌が止まらなかった。




