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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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初めてのおつかい<2>

 結構山って長かったんだなぁ。

 

 気付けばもう山の麓。

 僕の目の前には、紫色の空に照らされた、黒い街並み。


 本当、一年前までは全く、何もかも。

 考える事すら出来なかったよなぁ。

  

 「ありがとうございます」


 振り返って僕は深くお辞儀する。

 ベルさんやトリスさんとの出会いがなかったら、僕はどうなっていたかなんて考えなくても分かるからだ。


 「よし」


 僕二人分くらいの高さの門。

 柱となる部分がかなり年季が入っていて、叩いたらパキッと言いそうだ。


 壊さないように開けて、街に入っていく。

 

 「⋯⋯⋯⋯」


 あの時は何も感じなかった。

 いや。


 感じる余裕もなかった。

 

 「えーい!!」


 右側では樽の上に座って賭け事をしている男女の集団。


 ご飯の食べかすとか色々、散らばっていて、とても見れない。


 「んぉっ!ケグ、いいぞ!」


 あぁ。

 僕はすぐ目を背ける。

 そうだった。


 ⋯⋯これが"普通"なんだった。


 「おっ、おーい」


 「はい?」


 思わず呼ばれて、返事を返してしまった。


 「お前さん飯持ってねぇか?

 見た所結構実入り良さそうじゃねぇ?」


 あぁ、確かちゃちゃがあったような。


 「一つあるのでどうぞ」


 近付いて手渡すと、大きい男の人は嬉しそうに手を叩く。


 「ハハッ!

 今日の俺は──ツイてる!」


 あげた僕のちゃちゃを上に掲げ、これでもかというほど自慢をしている。


 周りの人たちも苦笑いだ。 

 何か事情がありそう。


 「おいおい、エリスに食いもんなんて渡すなよ。


 また賭け事をやらさせることになるんだぜ?」


 ⋯⋯え?

 賭け事?

 

 「悪いな、引き止めて。

 行ったほうがいいぞ?

 アイツ、飯3日食えてなくてよ。

 賭けで飯取られてばっか」


 肩を組まれ、僕より少し大人な人が耳打ちしてくれる。


 「わざわざありがとうございます!」


 「礼儀正しいな。

 この街は大事だからな。

 ⋯⋯気をつけろよ?特に一人はな」


 「はいっ」


 背中を軽く叩いてその人は戻っていってしまった。


 ⋯⋯なんだろう。

 みんな、どんよりしているのに、なんだか。


 まぁいいか。

 僕は役割を果たすだけだ!


 





 と、意気込んだはいいものの。

 

 「ハァ⋯⋯ハァ」


 僕達が恐れた街。

 ⋯⋯こんな所だったっけ?


 行けばそこら中で喧嘩という名の賭け事。

 女を賭けたり自分の取り分の食べ物を賭けたり、散々だ。


 なんなら女の人に食い物と交換にやらないか?


 なんて言われて、僕はどんな顔をしたのかすら記憶にない。


 なんでこんな事に!?





 

 そうして僕はふと思い出す。


 ──あの時感じた恐怖。


 それらは時間と共に流れたように感じた。


 子供から大人になるっていうのはこういう事なんだと。


 自分の立ち位置が変われば、こんなにも物の見え方っていうのは変わるのだと。


 "キルヤテ"


 そう書かれた看板の前に、僕はそんな事を思い出しながら、深呼吸をして立っていた。


 今なら分かる。

 この印はお酒で、キルヤテはお酒を飲むところで酒場だ。


 カランカランと鈴の音が鳴り、キルヤテの中へと入っていく。


 「おー、こんな時間にお客さんかい?」


 奥の方からやって来たのは、もう懐かしいという枠を超えた人。


 「おや」

  

 「⋯⋯先生」

 

 僕に、全てを教えてくれた⋯⋯恩人だ。


 「元気にしていたかい?」


 「──はい」


 先生は少し笑って、奥の方へと歩いていく。

 それに僕も続く。


 「どうだね、酒は飲むか?」


 「美味しいんですか?」


 「飲んでみないとわからんぞ?」


 「いただきます」


 椅子に座って、僕は先生の慣れた手つきを観察する。


 乱れない動きと見なくてもポンポンと次の工程に進んでいく正確さ。


 いつもなら何か聞こうとするけど。

 今日は違った視点で見れることに思わず、嬉しくて言葉は発せられなかった。


 「出来たよ、エオ」


 紫色の液体。

 水とは全く違う色。


 「ありがとうございます」


 「ケイオスランペルって言うんだ。

 味重視の一杯」


 聞きながら黙って一口飲む。


 「どうだね?」


 「⋯⋯はい。

 大人になった感じがあります」


 甘い。

 そして、甘さの隙間からちょっとだけ入り込んでくる⋯⋯苦さ。


 「まずはおめでとうと言っておこうか」


 「そうでした」


 あれから初めて会うんだから。

 

 「大人になった感想は?」


 そう言われてすぐに言葉は出ない。


 「────恐怖がありました」


 「恐怖?」


 「自分の無力さと知らない世界への道が目の前で開かれたような⋯⋯そんな気がします」


 「探究はやめたくなったかい?」

 

 「──いえ」


 それでも僕は、進むと決めたから。


 「全く」


 僕の目を見た先生は嬉しそうに頷いて、もう一杯注いでくる。


 これ結構強いってやつじゃないだろうか。

 大人はみんな飲めるのか。


 「エオの状態を見るに、恐らくどこかの大人にでも拾われたんだろう。


 何処に行ったんだ?」


 「先生がよく知っているところです」


 「⋯⋯ほう?」


 少しだけ雰囲気が変わった気がする。

 

 「これを渡してほしいと」


 トリスさんから貰った手紙を渡す。

 丁寧に切って、中身を読み出す先生。


 「ほう?

 これは思いがけない発見がいくつとあったようだね。


 ⋯⋯大役だ」


 と、僕を見下ろす先生。

 何が書かれてあるんだろう?


 「何かあったんですか?」


 「農地に夜、エオのことがこれでもかというほど書かれていてね、これからの予定なんかもある。


 ⋯⋯まぁ、恐らく今回の目的は、エオ⋯⋯君にこの街を一人で向き合うことが主な目的なのだろう」


 「一人で?」


 「エオの事だ。

 紙の通り進めてきたのだろうが、帰りはこの街を軽くでもいいから眺めてから帰った方がいい。


 その方が為になるだろうね」


 まぁ、先生がそう言うなら。


 「⋯⋯はい」


 「随分勉強でもしたのだろう?

 詳しく聞かせてくれないか。


 エオがいない時間、学力が著しく下がってしまってね。


 優秀な子がどんな事を覚えたか⋯⋯興味がある」


 今なら⋯⋯僕も色んなことが先生から聞ける!

 ──ちょっとくらいならいいよね?


 「先生!

 僕も聞きたいことがあったんです!」


 「んふふ。

 一年という時間なのにもかかわらず、変わらぬところは変わらぬな」

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