初めてのおつかい<1>
「ねぇーエオ!
僕達にも戦い方教えてよー」
「⋯⋯えぇ?」
「そうだよ!
デンデラがいないんだから僕達がエオを守らないと!」
いっぱいの子供たちに囲まれ、わちゃわちゃだ。
というかさ?
なんで僕に戦い方を聞いているのに守らないとって事になるんだい?
──んん?
「みんなはまだ大人じゃないからねぇ」
「わーずるいー!!」
「ズルくないよー?
一回大人になっちゃうと⋯⋯もう戻れないからね」
そうだ。
偉そうな事言っちゃうけど、1年前と今では──全く感覚が違う。
場所を知った。
人を知った。
存在というものを知った。
どれも知らなかった事で、なんでが消えていく。
⋯⋯そして。
"僕がやりたい事が、今は全て出来ないような状態を知った"
「それじゃあさ」
子供たちの頭に手を置き視線を合わせて、僕は笑って言う。
「いつか、大きくなったら僕に力を貸してくれないかい?」
「⋯⋯うん!」
僕のやりたい事。
そして、今ある勢力の目標。
どちらも今の世界では不可能に近い事を目指している。
──そうさ。
夢だって事は理解している。
このたった一年でそう思える。
食べ物すら貰えない世界でどうやって普通のことをするのだろう?
時間がなくて、誰かの玩具にされる事が、僕達の人生なのだろうか?
そうではないはずだ。
みんながやりたい事を選べるような人生にするべきで、ベルさんはそれを変えようとした。
でも駄目だった。
だからこそ、今度は僕が変えなければならない。
「エオ、少し良いか?」
子供たちを見ながら少し考えていると、後ろにはトリスさん。
「あ、はい!」
*
「コレをサヴァンの所へ持っていってくれねぇか?」
手渡されたのは、1枚の封筒。
「中身はまぁ、お前のことと、俺達の活動がいよいよ本格化していくっつー事を書いたやつさ」
「あっ、知りたそうな顔してました?」
「すんげぇ顔してたぞ?
知りたいー!ってよ」
そんな笑わないでくださいよ。もう。
「そんでついでに眺めてこいよ」
「え?」
酒を飲み干し、トリスさんは吊り上げて笑い。
「大人になったお前が⋯⋯あの街をどう思うか」
⋯⋯そっか。
街だったんだよね。
「場所は紙に書いてあるから適当に進め」
「えーと⋯⋯」
「んぁ?」
「僕、あまり強くないと思うんですけど」
そう言うと少しだけ肘をついて支えにしていた頬がガクッと落ちる。
「あァ!?」
「えっ!?」
何かおかしいことを言った?僕は。
「まぁいい。
ほら、早く行ってこいよ」
「え?あ、はい」
なんだかすごい怒ってたけど、まぁトリスさんの言う通りにしておくか。
外に出るとグランとニバが待っていた。
「あれ?どこ行くんだ?」
「うんうん!」
「あぁ⋯⋯なんかサヴァン先生の所に行って来いって」
「エオはめちゃくちゃ久しぶりじゃねぇの?
大丈夫か?」
「そうだよ!
私達も行こうか!?」
「⋯⋯うんうん。大丈夫」
僕を首を横に振って、笑って言う。
「みんなのお荷物ならないように頑張ったもん。
きっとトリスさんもそう思ってると思うし」
「⋯⋯まぁエオが言うならいいけどよ。
気をつけてな」
「なんかあったら走って逃げるんだよ!?」
「心配症だなぁ、ニバは」
さて、僕の生まれ街。
目の前の下り坂を降りたら、すぐだ。
⋯⋯と言ってもまぁまぁ長いけど。
「行ってくる!」
「「気をつけてねー!」」
*
「行ったかい?」
エオが居なくなった後、書斎では直立不動のトリスが一礼して待機していた。
「はい」
「トリス、君は早くその態度を直してもらわないと」
「いえ。
兄貴には散々世話になりましたから」
一息をつき、頬杖をついてトリスを見上げるベル。
「兄貴」
「ん?」
「エオ⋯⋯やつに縛りを施さなくて良かったんですか」
一瞬だけ張り詰める緊張。
「ふふ。
そういうつもりなら、昔君達にもやったはずだけど?」
「⋯⋯承知の上です。
ただ、あの時とは状況が違います」
「というと?」
「アイツ──思想といい考え方が既存の大人達とはかけ離れ過ぎています。
この勢力も似た考えではありますが、アイツとは最終目標の差が違う気がします」
「いずれ巣立っていく⋯⋯そう言いたいのかい?」
無言の肯定。
それを理解したベルは息を漏らしつつもたれる。
「だろうね」
「折角の逸材ですよ!?
緩くても、縛るべきです!」
「そうだね。正論だ。
思考力も発想も、常識が一切通じない。
普通の13歳であれば、暴力的で、一切の手が付けられないような子がほとんど。
あんなに手がかからなくて理知的な子供はそういないね」
オマケに、この世界の根本すらを書き換えられるような異常能力がまだいくつも残っているように思える。
一番はやはり農業。
食べ物を大幅どころか、200年300年ほどの技術革新を行ったと言っても過言ではない。
いや、下手したらもっとだ。
「でしたら⋯⋯」
「でもね、彼は誰かの契約に縛られるような存在だろうか」
トリスを見上げるベル。
「薄々君も気付いているだろう?」
その答えを表すかのように、トリスの目は横へと逸らされている。
「アレの中にいる夜は⋯⋯私達の手に負えないって事が」
あの時。
私が夜を渡したときの事だ。
ナニカが私を見ていた事だけは認知できた。
あれは果たして"夜"なのか、それとも、私達よりももっと上の次元の存在なのか。
「今回のおつかい⋯⋯無事に目的を達成できればいいんだけどね」
外を眺めながら、ベルは鼻で笑う。
「もし変な事をしでかしたら⋯⋯」
「しないよ。
彼はそういう子じゃない。
まぁでも、将来的な事も考えて、常識も与えてやる必要があるのも事実だ」
さて、私の最後の弟子よ。
君がどう羽ばたいて行くのか⋯⋯非常に楽しみだよ。




