資源
「っ!!!」
滑って踏ん張りを効かせようとしても、全く入っていく隙がない!
ここまで飛ばされるなんて。
「エオは凄いね。
まだ全然日は浅いのに、ガル寸前の私からなんでも吸収しようとしている」
⋯⋯いや、逆です。
病気なのにも関わらず、ここまで動けるのは意味が分かりません。
「ゴホッゴホッ!」
まずい、咳をしてる。
「大丈夫ですか!」
駆け寄ってポケットからトリスさんから貰った謎の小さい塊を水と共に渡す。
それを口に入れ、水で流し込む。
すると熱かった身体が少しずつ収まっていき、やがて呼吸も落ち着く。
「ははは、今にも死にそうだ」
「何言ってるんですか、僕達の浪漫はこれからです」
僕を見上げ、ベルさんは笑う。
「もう一年か」
「⋯⋯はい」
僕がここに来てからもうすぐ一年。
あっという間の一年だった。
「エオ、あっちが見えるかい?」
そう差す場所には、僕が作り上げた農場たちがいくつもあった。
全部で10個。
栄養状態から様々なやり方で僕が育てた土だ。
すぐに色々な食物を植えて、今では黄金が降るようだとトリスさんからも言われている。
「トマト、ブログ、レスター、ちゃちゃ。
どれも高級食材だ」
「──はい」
「私は言ったよね?
この世界の仕組みを」
「はい」
「この世界に子供を産む"ほとんど"の手段はないって」
「言っていましたね」
「なんで猟犬がいるのか。
なんで子供が必要なのか⋯⋯覚えているかい?」
「大人になると夜で契約を縛ることができて、子供の内から魂の紐付けという名の契約と育てる事をする事で逃げられない上に完全に自分の手から離れないからだと教わりました」
「ゴホッゴホッ、そうだね。
エオ、もう一つ貰っていいかい?」
症状が悪化している。
どうにかならないのだろうか。
「ふぅ」
落ち着いたか。
「──そう。
この世界で子供は資源。
面白いだろう?
昔の本には子供を産むことが出来たと書いてあるのに今は出来ない。
だから、夜の盟約を結ぶ事で幼い子供たちから全てを奪って自分の配下として置く。
それを頂点として、貧しい彼らを極限状態にまで追い詰め、子供を拾ってくれば食料と快楽を与える。
──それの繰り返し。
私が昔から見てきた、脈々と続く⋯⋯この地獄の構造。
そしてそんな彼らは憧れる。
女を両手に抱え、困らない食事と困らない自分の権力を手にする頭やその上の存在たちに。
強い者が全てを牛耳り、後から来た者はもうなす術がない」
「ベルさんはそれを変えようとした」
ささやかに吹く風と共に、ベルさんは無言で頷く。
「私だって別に男さ。
女が嫌いな訳がない。
だけど⋯⋯彼女達の気持ちはどこにあるのだろう?
気持ちがなければ我々の快楽はただの消費物だ。
ただ別に男も変わらないの事実だけどね。
結局一部強者以外、男も女も気持ちは何一つ変わらない。
だが私だけの気持ちで世界を変えることはできないが、その主張で私の知っている範囲を少しでも女・子供、みんなが平和に過ごす為には範囲を広げないといけない、そう思ったんだ」
「でも、色々あったんですよね?」
詳しいことは知らないけど、色々な事があったんだろうとその顔から浮かぶ悔しそうな表情でなんとなく分かる。
「昔の子供たちには散々な目に遭わせてしまった」
「⋯⋯きっと悲しいと思ってはいないと思います」
この人を見れば分かる。
浪漫を追い続けて、それでも付いて行った人たちが悲しいなんて思うわけがない。
「そうだろうか。
こうして死という目的地が見えるとね、考えてしまうんだ」
「後悔はないと思います。
そして僕も」
そうだ。
その気持ちを、その浪漫を。
「これから変えていくんですから」
「⋯⋯たった一年なのに、大きくなったね」
未だに頭を撫でられるとなんとも言えない気持ちになるのは、なぜだろう。
「長話が過ぎたね。
最近はエオの育てたご飯を食べていると、身体がなんだか若返るような気がしているよ」
「またその話ですか?」
立ち上がるベルさんと肩を組み、歩き出す。
「本当さ。トリスも言っていたよ。
酒を飲んでも二日酔いになり辛いって」
「そんなこと言って、あの人はそれを口実に酒が飲みたいだけなのでは?」
「ハハハハ。
口実なんて悪い言葉、覚えちゃ駄目だよ」
「悪い言葉ではないと思いますけど」
「大人はね、エオ。
口実を使って悪いことばかりするんだ」
「だったら、トリスさんは口実を有効活用しているって事ですね」
「──ぷっ」
最近はトリスさんもベルさんも、笑ってくれるようになった。
雰囲気も良いし、みんなが楽しそうに笑っている。
つい1年前には想像もつかなかった。
「エオ!」
「グラン、バズウ」
二人も加勢してくれて、ベルさんを支える。
「私は幸せ者だな。
こうして新しい芽となる子らに覚えてもらう事ができるなんて」
「ちょっとやめてくださいよ!
ガルだって言っても死ぬ訳じゃないっすよ!」
「エオだって今色々新しい事やってるんで大丈夫だと思います」
二人も随分馴染んだなぁ。
そんな見上げる空は、いつもよりも少しだけ心が温まる気がした。




