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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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訓練<2>

 開放までの間、そんな二人の近くで僕はベルさんと一歩先の訓練を始めていた。


 「エオ。

 夜は開放できているけど、まだ使えないようだからひとまず戦う為の訓練を先にやることにしたよ」


 何度やっても僕の夜はうんともすんとも言わないのは確かだ。


 ──一体なんだって言うんだ。


 「は、はい!」


 「そんなに緊張しなくても平気だよ。

 私は少し緊張するけどね」


 全然そんな事なさそうだけど。


 「今日やるのは⋯⋯これさ」


 と、腰で組んでいた手を外して、僕に手を見せてくる。


 「手、ですか?」


 「そう、拳だ」

 

 「拳⋯⋯」


 「まず、言わないといけないことがあるんだ」


 優しく僕に笑いかけて。

 でもそれでも、何処か吹いたら土が飛んで行っちゃいそうな寂しい顔をしている。


 「エオ。

 私と君は言葉は違っていても、結論は同じ考えだと私は考えている」


 「僕もそう思います」


 「うん。

 私はもう2000を超える程生きたが、若い頃」


 そう見上げ。


 「失敗した、私の浪漫が」


 「ロマンが?」


 「何故だと思う?」


 何故⋯⋯


 「一言で言えば、私に力がなかったからだ」


 空を眺めるベルさんは輝いていた。

 あの空にある星というモノみたいに。


 「正確に言えば、あったのだろうが、使えなかった。


 この世界は力がないといけない。

 それは一つだけではない。


 人にはいくつもの強さがある。

 それを見誤ってはいけない」


 「はい」


 「拳が強い事も、足が強い事も、目が良い事も、匂いが分かることも、瞬時に意見が出ることも、人の気持ちを考えられることも、全てが強さとなり得る。


 ⋯⋯そう。

 つまり、弱い人間など一人もいないということだ」


 真っ直ぐ僕を見て、ベルさんは淡々と、そしてそこにはロマンの入った顔で。


 「それを見誤っていた。


 だが気付いた時には遅かった。

 失い、もう二度と帰ってこない子供たちを私は、ただ眺める事しかできなかった。


 ここにいる子供達も、いずれ何かで強くなる。


 ⋯⋯エオ、君にはそれを見抜く力がある。


 しかし今。

 この世界で生きていく為に今必要なのは⋯⋯暴力という最もわかりやすい力が必要だ。


 エオに必要なのはこれだ。

 それ以外は非常に高い能力を誇っているだろうね。


 ──私の歩んだ浪漫を、君に授ける」


 「っ、」


 今ある風の感覚が変わった気がする。

 なんだろう?


 俯くベルさんの気持ちのように、風が動く。


 「私の生きる意味がやっと分かったよ」


 ヒリヒリする。

 風が僕を狙ってるような。


 「私がここまで"生かされている"意味が。

 ──さぁ、基礎的な事から見せるよ」


 ベルさんの独特な構え。

 腰から上を少し浮かせたような体勢。


 そう、何処かで見たことがある。

 あ、トリスさん?

 脚が剣みたいに──






























 「これが浪漫だ」


 耳元にそう聞こえた瞬間、全身が死を感じた。


 体の関節がキュッとして、肌がゾワゾワする。


 そのすぐ後、僕の背後からは聞いたこともないような音がしばらく続いた。


 目の前にベルさんはいる。

 後ろの音はなんだろう?


 振り返る。


 「⋯⋯⋯⋯っ」


 農場からはかなり離れた場所でやっていたからなのか。


 それとも、加減しなくて良いからなのか。


 ⋯⋯後ろの一つの山が──無くなっていた。


 ゆっくりと首を戻す。

 そこにはいつもと変わらないベルさんの笑みが。


 だが受ける前と後では、感覚が違う。

 トリスさんかあんなに従う理由。


 この人は──間違いなく頭という座に近付いた一人。


 今の姿でもこの力なのだとしたら若い頃はどれどけ強かったのだろうか?


 想像すらできない。


 「神剣震脚(シグルド・マグナ)

 私が最も"得意"とする"技"だ」

 

 「シグルド⋯⋯マグナ」


 「私は少し他の子供たちとは事情が違っていてね、""色々覚える""機会があったんだ」


 色々で済むのか⋯⋯これ。

 まだ壊れている音が聞こえるけど。


 「これは私の熟練度だからこそだ。

 さて、エオ」


 確かに。

 デンデラにも言われていた通り、僕には強さが必要だ。


 少なくとも、護られるだけではなく、戦える強さが必要だ。


 ベルさんに感謝だ。


 「これから長くなるよ。

 勉強に加え、私と個人特訓だ」


 「こちらからお願いしたいくらいです」


 「さすがだね。

 もうそこら辺の大人よりも難しい言葉が喋れるようになるなんて」


 「これからです。

 僕のロマンを達成する為には、全部覚える必要がありますから」


 そう言うとベルさんは嬉しそうに口を吊り上げ、笑う。


 「少し昔を思い出しちゃうな。

 私を見ているみたいだ。

 じゃあ遠慮なく、基本から行くよ」


 デンデラ、待っててよ。

 僕、必ずデンデラ(君を)

 ⋯⋯今度は僕が君を救う番だ。


 「型など説明しても意味がない。

 全力で私の動きを追いなさい」



 "ねぇ!じゃあ何があっても僕達は友達だ!"


 ーーはぁ⋯⋯分かったよ。

 で、友達になったらどうすんだよ。


 "同じ道を進むんだ!

 何があっても!"


 ーーなんだそれ


 "友達はいつでも一緒だもん!

 イジメているやつがいたら助けて、困っていたら助ける!そうでしょ!?"


 ーー⋯⋯⋯⋯んー、まぁそうだな


 "だからね、困ったら一緒に進むんだよ!"


 ーーそんな日が来るとは思えんが



 一緒に歩むと決めた。

 今、何処で何をしているんだろう?

 待っててよ。


 ──今度は僕が。


 「お願いします!!!」


 ⋯⋯助ける番だ。

 

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