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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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農場

 あの日からもう既に6ヶ月という時間が経つ。


 僕は日課の崖上りを終えて頂上から僕のいた村をぼうっと見ていた。

 

 「もうこの日課も身体が覚えたなぁ」


 身体も少しだけど耐えられるようになったし、こうしていても疲労感が少し減った気がする。


 「小さいなぁ、僕たちのいた村は」


 ここから見ると、本当に土を少し固めたくらいの大きさしかない場所にある紫色に包まれた村。


 その周りにある大通りや四角い何かと思っていた家や娯楽をする為の場所。


 こうして見ると、僕達がいかに狭い世界で生きていたのかがパッと見てすぐにそう語りかけてくるような気さえしてくる。


 あの時はそよ風とか土の匂いとか、水の匂い、自然の匂い、景色、感覚。


 どれもが何もなかった。

 毎日誰かの叫び声を聞いて、剣のニオイと血のニオイ。


 あとは死んだ子供の腐ったニオイなんかがずっとしていたよね。


 あの時は何も思うことはできなかったけれど、今こうして見ると、なんて酷い枠の中で生きていたんだろうって。


 そしてまた、余裕という感覚を味わった。


 大人の感覚だと当たり前なのかもしれないけど、時間に追われず、自然を浴びて、ご飯を食べれて、ただ戦う為とはいえ、鍛えられる場所があって人がいるというのは、何物にも代えがたいものだ。


 あの時の僕にそんなことを言ったところで、納得などしなかっただろう。


 こうして毎日ここで風を浴びながら読書をさせてもらえる。


 眺めることができる。

 時間と幸福を味わうことができる。

 ⋯⋯これが大事なことじゃないだろうか。

 

 振り返ると奥の方で子供たちがちらほら山を登りだしている。


 あれは日課だ。

 夜がない代わりに、体力を付けようというベルさん考案の物だ。


 ⋯⋯僕は良い人に拾われたな。

 つくづくそう思う。


 「エオ」


 手を上げながらやってくるのはグランとウル、そしてバズウ。


 三人とも凄く成長した。


 グランは相変わらずだけどずる賢しさに磨きがかかって、バズウはこの本で言うなら正々堂々という言葉が似合う子供になった。


 曲がった事が嫌いで、いつも子供たちに変な寄り道をさせないようにしている。


 ウルもすくすくと読書して、日々成長している。


 「大人のエオはここでゆっくり本を読んでるの?」


 「酷いじゃん。

 ただ村を見ていただけだよ」


 僕を挟むように三人が座る。


 「おっ、あれ?」


 指差すグランに頷く。


 「クソほど小さいな。

 俺らあんなところで走り回ってビビって生きてきてたのかよー。


 なんかなー」


 「俺達が農場に行った時なんていつ見つかるか分からない怖さでブルブル震えてたのにさ」


 「そうだね。

 最初の頃バズウ怖くて帰ったらお腹下してたよな」


 「あっ!そうじゃん!

 お前怖すぎて端っこでギュルギュル本当に音立ててたよなぁ!?」


 「うるせーよ!

 しょうがねぇだろ!?


 初めて見たのがこう⋯⋯なんだ?

 血がたらたら落ちて干からびた人間が入口にぽんってあったんだぜ!?


 ビビらねぇ奴の気がしれないね!

 ケラケラしときながら俺は未だに許さんからな、グランの急所蹴り」


 あーあったあった。

 内戦が終わった後の序列を決めるためにバズウとグランが戦ったんだけど、グランは急所しか攻めなくてバズウがお腹抱えて倒れたやつ。


 「知らねぇよ。

 お前戦いに卑怯もクソもないだろ。

 勝ったやつが正解で、生き残ってるやつが答えだろ」


 まぁ言いたいことは分かるんだけどー。

 ただねぇー、バズウの言ってることもまぁ分かるのが僕もまだまだなんだろうなぁ、とは思う。


 「あ、てかさ」


 「ん?」


 「農場──見に行こうぜ」


 「え?何かあったの?」


 「良いから行こーぜ!エオ!」


 三人に手を引かれ、僕は強制的に第一号農場へと駆り出された。








 思わず鼻から自然の匂いがふっと空に飛んでいく。

 

 「ほらエオ!」


 嬉しそうにバズウが差す場所には、僕達がまだ知らない作物が収穫の時期を迎えていた。


 「確かトマト⋯⋯だっけ?」


 屈んで赤い丸っこいのを指で弾いてみる。

 柔らかいようで硬い。


 「ベルさんがさ!

 トマトってすんげぇ美味いって言ってたんだ!!


 エオなら出来るって言ってた!


 やっぱ⋯⋯エオってすげぇんだな!

 たった半年でトマトを何もないところから成長させられるまでにしたってことだろ!?」


 手を広げ、バズウはこの豊かな農場に広がる土を走り回って叫ぶ。


 バズウがあんなにはしゃいでるの初めて見た。


 それに、ベルさんはもう子供たちの中で受け入れられているのか。


 ⋯⋯良かった。


 「やっぱりあの最強と一緒にいるんだから何かあるって思ってたぜ、俺は」


 ちょろちょろ僕の隣で土を指でつまんでパラパラ落とすグランが小さく微笑んでる。


 「デンデラが戻ってくれればね」


 「今はそんな場合じゃねぇって!!

 ちょっと分けた場所にピーマン!

 こっちには果物っていう大人しか食べられないものもあるんだぜ!?


 エオ⋯⋯早く回収してくれよぉ!!」


 「「「っ⋯⋯ッハハハハハ」」」


 子ども過ぎてグランとウルとで目が合ってしまった。


 ⋯⋯そうだ。

 今は自分にできる事をやろう。

 僕の悩んで、考えていた事は正しい。

   

 だとすれば、この農場があと少しで僕達のロマンの最初の土台ができるはず。


 ──そうすれば。


 「ベルさんを呼んでみんなで食べよう」


 「うん!

 すぐ呼んでくるから!!」


 いつか僕達の名前が北、東、西に⋯⋯届けば。

 少しずつ仲間が増えていくはず。


 みんな満たされれば、戦わなくて済む!

 一つ進むことができる。


 土台を広げていくだけ。

 みんなで。

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