想起せよ(クオリア)
「何も考えずに立ってごらん」
何も考えずに⋯⋯立つ。
「目を閉じて」
目を⋯⋯閉じる。
「鼻から吸って、口から吐いてごらん」
鼻から吸って、口から吐く。
「ふぅ⋯⋯」
「エオ、そのまま前を向いてごらん。
目を開けずに」
──言葉が何も出てこない。
黒い、山?
何?これ?
燃えている。
黒い山が⋯⋯上にゆらゆら燃えている。
「見えているようだね。
これが私の夜の世界。
宮殿⋯⋯って言うんだ」
宮殿?
これが。
「宮殿なんて見たことないよね。
そうだね。
家がいくつもあるような空間、と言えばいいかな。
これが私の夜でもあるけど、まぁ核と言えばいいかな。
まぁこれはあくまでも試験だから」
「⋯⋯試験?」
「夜が使えるのはもちろんだけど、子供なら見えないんだよ。
これが見えているということは、エオが大人になっていて、そして夜も使えるという証明にもなる」
「と、ということは!」
僕も夜が使えるということ!
「ふふっ。
でも夜はね、かなり難しいんだ」
「難しい⋯⋯ですか」
「うん。
発現するのにも時間がかかる場合もある」
毎日やるしかないってことか。
頑張ろう。
「とりあえず、私がいるからには問題ない。
けど、エオ次第にはなる」
「どういうことですか?」
「私達大人は昔から、子供の夜発現をどうにかして安定させることを考えてきた。
結果、上手く行った。
その子の体が耐えられればの話だけど」
「⋯⋯やります!」
「よし」
気付けば僕の背中に何か温かいものがある。
「さぁ、今から私の夜を少し流し込む。
言う通りに動かしていくんだよ?」
「はいっ!」
その時、本当に背中から何かブヨブヨそこに回っている変な感覚が広がっていくのが分かる。
背中にウネウネ動く。
それが足と腕に向かって動くのも。
「そう、反応せずに」
受け入れるってことか!
ウネウネ動くコレが、夜。
これから長い付き合いになるからよろしくね!!
「⋯⋯っ、中々進んでいかないな。
吸収はあり得ない速度だが」
何か言っているけど。
僕は待っていれば良いか。
と、それよりも。
ーーエオ!
僕は"大人になってしまったんだよな"。
ということは、あの黒いのは12歳の儀式。
つまり、デンデラも既に違う所に行っちゃったって事だよね。
⋯⋯悲しいな。
「やっとか」
あっ、今足の指先まで来たかも。
頭から足の先まで、ウネウネしているものが埋まってる。
「ふぅ、凄い容量だね。
アタリだよ」
「アタリ?」
「夜の容量は絶対だ。
どれだけ入るかというのが、その人間の強さを決める一つの要素にもなるんだ。
エオは恐らく、私よりも⋯⋯まぁ、今は良いか」
なんだろう?
見れてはいないけど、感じが。
「状態は整った。
エオ、こう言ってごらん?」
──"想起せよって"。
「はい!クオリア!」
っ?
胸がドクンって。
「エオ?」
なんだろう?
なんか、頭が⋯⋯。
ふわふわする。
「しっかりしろ、エオ」
そうしたいんだけど、何か⋯⋯。
──スンと世界から音が無くなる。
「⋯⋯っ、」
あれ?
音がなくなった。
目を開けると、そこは何もない場所になっていた。
「ベルさん!」
重なったように奥へ奥へと僕の声は鳴っていく。
見回しても何もない。
「っ、うわっ!!」
下を見るとそこは水の上に立っている自分の姿が映った。
お尻ついたら⋯⋯!
「うーん、あれ?」
沈む事はなく、ただ座っただけだった。
ど、どういうこと?
「僕、どうなっちゃったんだろう?」
クオリア、か。
夜。
それは大人になるとみんなに与えられる物。
僕にはどんなものが使えるようになるか、気になったのに。
「⋯⋯こっち」
へっ?
誰かが僕を呼んでる?
急いで起き上がって、何もない暗い場所へと僕は向かう。
ちゃぷんちゃぷんと音を立てて、その奥には誰かが立っている。
「あ、あの!」
んー。
多分あれは関わっちゃ駄目な大人だと思う。
髪もベルさんみたいに長いし、感じる奴もなんか変だし。
でも、何かが"アレ"だと僕に言ってるような気がして。
「僕は、エオって言います!
貴方のお名前を教えてください!」
近付きながら僕は少し声を張る。
怖いので横にズレながら。
「あっ、」
立っている人の奥には、何か本棚のような置物の上に、何かが置いてある。
「あれ?」
ふって見上げると、今度はその立っていた人がいなくなって。
あれ?
どういう事?
もしかしたら、宮殿って言ってたけど、夜って人にもなる可能性があるって事じゃないかって思ってたんだけど。
「きれー」
その前に立つと、目の前にあったのは、初めて見る色だ。
グレーとは違うかな?
凄く輝いていて、この下にある水みたいに全部が見えて、そして、火のような光⋯⋯。
「丸いものか」
──触れな。
「っ!?」
突然耳元でそう聞こえる。
え?どこ!?
見回してもやはりいなくて、僕はかなり怖い。
「⋯⋯⋯⋯」
触れる⋯⋯?
僕の手は、気付けば言う通りにその丸い光るモノに触れ。
「⋯⋯何もないよ?」
と、見上げると。
今度は目の前にさっきいた人が立っている。
こ、怖いよ。
──パガァァァァァァン!!
「っ!!!!!」
空から、その人に向かって山が割れるような音が落ちた。
「危ない!!!」
だけど、煙が晴れても、その人の周りには何かがくっ付いてバチバチと弾ける音が耳から離れない。
凄い。
ベルさんとは比べ物にならないナニカがある。
黒くて、何かが居る感じ。
震え、燃え、弾け。
体から発するものはどれも⋯⋯
「⋯⋯っ、」
その人がゆっくり僕を見た。
だけどその顔は、どこか僕と似ているような顔。
「あ、貴方は誰なんですか!?」
「⋯⋯⋯⋯」
ただ笑っている。
ベルさんと同じように。
「ぼ、僕はエオって言います!
僕は強くならないといけないんです!!」
そうだ。
「デンデラも、グランも、ニバも、バズウ⋯⋯みんな!!」
「⋯⋯⋯⋯」
「僕に力を貸してください!!
僕がこの世界から戦いを無くします!!!」
「⋯⋯⋯⋯」
ただ笑うだけで、僕に何も発することはない。
「貴方はなんですか!?」
「⋯⋯時間だ」
時間?
「頑張れよ、※※」
今⋯⋯なんて!?
「なんて言いました!?」
「⋯⋯⋯⋯」
クソッ!聞こえない!
段々⋯⋯さっきと同じように⋯⋯!!
グニャグニャしている場所を眺めながら、僕は気付けば寝付いてしまっていた。




