夜
「兄貴、いいんですか?」
トリスさんが何か言ってる。
でも、でも!!
「美味しい!!!」
肉、肉!肉!!!!
それにこっちには見たことない食べ物がいっぱい!!
「はぐっ!っふふ!!もっ!ふう!!」
「ははは。
それはそうだよねぇ。
今まで大人に隠れて生きてきたんだから」
「入れるのは構いませんが、俺としては兄貴の手足として育てるつもりでした」
ん?
と、僕の手は止まる。
手足?
「何を言う。
エオの夜が何か⋯⋯気にならないかい?」
ふわふわしているベルさん。
すると隣で僕を見下ろし、トリスさんが鼻で笑いながら言う。
「まっ、この真っすぐなんだか馬鹿なんだか分かんない奴の夜は確かに気になりますがね」
⋯⋯ヒドイ、トリスさん。
「私達はもう亡き勢力だからね。
これから再起を図るにもしても、色々大変な時期だ」
「はい。
現在は4つの勢力で争いが続いています」
「おっ、早いね」
「エオを育てる為に色々用意していた計画が無くなりましたが」
「ふふっ。
まだ根に持ってるのかい」
「⋯⋯続けます」
と、トリスさんは移動して何かを広げる。
「それって紙っていうやつですか?」
「そうだね。
高級品だよ」
⋯⋯そんなモノがなんでこんな場所に?
「まず、北側には現在デイルズラインがいます」
「頭は?」
「双刀のミテアです」
「東は?」
「ミトラス・アドン」
「虎獅子だったかな?」
「はい」
全然分からないけど、覚えておこう!
「南は?」
「現在ドン・ゴとやらと小さい勢力がぶつかり合っていて不明です。
昔から変わっていません」
っ!これなら分かる。
つまり今の話だと、ドン・ゴは頭ってやつではなくて、まだちゃんとした勢力になれていないんだ。
「そう。西は?」
「アビスタです。
張ってるのは現在チーシャです」
「そうか。
チーシャか」
北がデイルズラインっていう勢力で、双刀のミテアっていう人。
東がミトラス・アドン。
頭が虎獅子。
南が現在なし。
小さい勢力が戦っている。
西がアビスタ。
頭がチーシャ。
⋯⋯こんな感じか。
「となると私達がいる南だね」
「必然的にそうなります」
「となると、早いところ強くなって貰わないと
⋯⋯私の命が尽きる前に」
「──兄貴」
殺気がベルさんに向かう。
やっぱりベルさんは長くないのかな?
「仕方のないことだ。
これも運命というやつだろう。
後は後輩に任せなさいという天の囁きに違いない」
「兄貴、では」
「うん。
エオを連れて行くね」
立ち上がるベルさんと一礼するトリスさん。
⋯⋯まずい、まだ肉食べ終わってなかった!
「後でまたあげるからね。
今は私と一緒に来なさい」
「は、はい!」
*
少し歩いた先。
そこは絶壁という場所なんだって。
絶壁っていうのは、下に向かっている壁の事で、山とか自然っていう独特な場所に作られるモノ。
⋯⋯覚えておこう!
そして、その先端。
「あ、あのっ!」
手を後ろに組み、空を見上げるベルさん。
後ろ姿きれいだなー。
「どうしたんだい?」
「あ、危ないんじゃ」
だって下に落ちたら死んじゃうんだよね?
そんな所にいたら。
風だって結構強いよ?
「はは。
私の心配をしてくれるのは、トリス以来かもしれない」
一瞬僕を見てそう言うベルさんだけど、見たことある顔をしている。
昔、腐った食べ物を口にして死んでしまった仲間に似ている。
自分が死ぬと分かっていながら生き続ける子供だった。
いつも空を見上げていて、僕に勇気をくれた。
「さっ、エオには早く独り立ち出来るようにならないといけないね」
「独り立ち⋯⋯ですか?」
「うん。
この世の古くから伝わる"掟"──知っているね?
約束事だ」
「12歳になったら⋯⋯夜が使えるって事ですか?」
「そうだ」
小さい事でも褒めてくれるベルさんって本当に良い大人の人なんだなぁ。
本当、僕は恵まれている。
「ではエオ」
「はい」
「トリスに出会っていなかったら?」
⋯⋯言わなくても分かる。
「連れて行かれました」
「それは何故?」
きっと理由があって聞いているんだ。
今までの話からなんとなく。
「僕が弱いからであり、夜を使えないからです」
「⋯⋯そうだ」
そう笑ってベルさんは続ける。
「夜の解釈には様々な意見が未だに分かれている。
神という未確定な存在が与えてくれたモノ。
あるいは選ばれた者が得をするだけのモノ。
それとも何か理由があって与えられているんだと主張するモノ。
これらはなんでもいい。
今、重要なのは、12歳になったら夜が使える。
つまり、夜が使えこなせないと?」
「弱い人になってしまう」
「そうだね」
「⋯⋯っ?」
離れているはずの場所から、いきなりベルさんが目の前に!?
「夜を使える。
それはどういう意味なのか。
遠回りばかりで悪いんだけど、少し急いでいるからね。
サヴァンからはどう習ったかな?」
「夜は、12歳になると与えられるもので、様々な形態に分かれていると」
「ざっくり言うとそうだね。
例えばよく見るのは拳や足に夜を纏わせるタイプだ。
武器を使う夜もあるし、サヴァンのように特殊な人間もいる。
これなら進めそうだね」
そう言って頭を撫でてくれる。
「でも夜を使いこなすには足りない。
夜を知る為には夜を使うことが必要で、自分を理解するということが全ての始まりだという。
夜の使い手は初めて使う時に使い方と能力を頭で理解できるようになるらしい。
事実私もそうだった。
これは例外はない」
⋯⋯ていうことは。
「そう。
エオ、」
頷き、ベルさんは笑って言う。
──これから夜を覚えてもらうよ。




