あれれ?
僕は絶対的に苦手⋯⋯というか、目と耳を出来るだけ塞いでいた。
その⋯⋯ほら。
男の子と女の子がほら⋯⋯!
あるじゃん!
──そういうの!
キシキシ言って後ろで凄い事になってるのを僕は目も当てられなくて、部屋の角で大人しく昔先生に習ったことでも思い出している。
数字というのは、えーっと。
あぁ⋯⋯!!
全然頭に入ってこない!
と、音がなくなった気がする。
おや?
振り返ると、女の子がぐったりしたように寝転ぶ中、トーくんはノリノリでお酒を呑みながら俺の前にしゃがみこむ。
「よぉ、あの時のガキだろ」
「⋯⋯⋯⋯っあ!」
そうだ、なんで僕は覚えていなかったんだ!?
先生の家ですれ違ったあの人だ!
「トリスさん!」
「っほう?さすがアイツの教え子。
記憶力が段違いだな。
⋯⋯ほれ」
トーくん。じゃなくて!
トリスさんがなんか両腕を上げている。
「ズボン脱げよ、女ならそこにいるから今ならいいぞ」
「えっ?」
「⋯⋯え?」
な、なんだ。
この変な間は。
「なんだお前。男か?」
首を倒すとなんか変なものでも見るように今僕に悪口を言ったような。
「お、男です!」
「女とヤった事は」
「⋯⋯⋯⋯あ、ありません」
なんで手で隠して笑うんだ!
なんでだよ!
「あーそう。
俺はすぐに女を捕まえてヤッちまったからな。
変な奴もいるんだ。
興味もねぇのか?」
「な、無くはないですけど⋯⋯そういうのはしっかりとお互いの気持ちがあるのが必要だと思います!」
「ガキじゃあるまいし。
まぁお前、今大人になったばっかだしな」
「痛っ」
頭をワシャワシャしてくるトリスさん。
すると立ち上がって凄い状態の二人を起こす。
「アビ、コイツをとりあえず男にしといて」
「ん〜?あっ、捕まってた男じゃん」
⋯⋯それはそうです。
情けない男ですみません。
*
「⋯⋯わぁ!!」
凄い!
大人の食事だ!!
「アイツ、意外とタフだな」
「えぇ。
彼、将来化物になるわよ⋯⋯男としてね」
「トリスさん!
コレ食べていいんですか!?」
肉だ!初めて近くで見るんだ!
「はいはい。食え食え」
そこから記憶がなくなるまでにそう時間はかからない。
お皿の上にあるただ一つの塊。
先生はそう言ってた。
大人になったらいつでも食べられるようになるもの。
女と肉。
どちらも平気になるって言ってた。
一口齧ると、中からこれでもかというほど水が出てきて、それが凄く美味しい!
お肉が柔らかくて、身体を通る感覚がドンドン早くなっているのが分かる。
「⋯⋯俺もこんな時があったと思うと、大分ジジイになったんだな。俺」
「あら、まだ300歳でしょ?」
「まぁな」
モグモグ食べながら必死に聞いているんだけど、僕が知っている知識とトリスさんの知識が違いすぎて何を言ってるのかがわからない。
とりあえず年齢という単語があって、1年という単位があるのは分かった。
言い方からするに、僕は3年目になったから12歳ということだ。
「それで、確かお前の名前はエオだったな?」
「はばい!」
返事をすると、何か言いかけるトリスさんだが。
「分かったわかった。
とりあえず飯を食え」
「っほぉー!」
「駄目だ、口にパンパンに詰め込みすぎて何話してんのか分かんね」
*
「エオ、とりあえずお前に話しておくがいくつかある」
「はい!」
僕は食べ終わると部屋の一室に呼び出され、二人だけの空間になった。
「俺の名前はトリス。
南四番通り⋯⋯ここに住んでる」
指で土を指してトリスさんは言う。
「四番?」
「あぁ。
村にしかいねぇエオたちにはわからねぇだろうな」
それから淡々と話すトリスさんの情報には、僕の知らない事が数年分の授業のように増えていった。
「村はいっぱいあるんですか?」
「⋯⋯あぁ。
別にお前んところじゃなくて、そこら中にある。
まぁつっても、そこら中って程でもねぇか」
そう言ってトリスさんはそのまま言い続ける。
「とりあえず今分かっときゃあ良いのは。
──四つの頭が統べる場所があるということだ。
その内の一つがここ南だ。
その南の更に小さい区分けされている通り⋯⋯それがこの四番通りだ。
お前らがいたのは四十七番通りの村であって、位置的には一番端。
だからお前らが走って駆け抜けていた場所は、何もないところで大人も凄いいなければ大したもんがねぇ所だったってわけよ」
僕達の遠征。
あれだけ作戦を練って大人にバレないようにやってたあの場所が⋯⋯。
「まぁそうしょぼくれんな」
顔を見てそう思ったのか、なんか笑ってくれている。
「な、なんで助けてくれたんですか?」
「ん?
まぁ⋯⋯色々あるが、頼まれたと言うのと、俺達はこれから──やる事があるからな」
「や、やる事⋯⋯ですか?」
「あぁ。
今はまだその時ではねぇ。
だから俺はただの酒豪だし、あそこ二人はただの女だし。
と、先に言っておく」
「⋯⋯?」
「俺はお前を明日から化物にする。
覚悟しておけ」
「ば、化物?」
「あぁ。
今まで地獄だったろう?」
その言葉に僕は何も言えなかった。
「言わなくてもわかるよ。
同じ道を通った先輩だからな。
──だがな」
見上げると、さっきまでのトリスさんと別人の顔つきで僕を見下ろしていた。
「大人になったら誰も助けてくれねぇし、弱い事は罪になる。
ここでは弱い奴は人とすら見られねぇ。
お前も見ただろ?
戦わされ、友情なんて安いものすら奪われ、生きる事を選ぶよりも死んだ方がマシな場所に様変わりだ」
無言で見下ろすトリスさん。
「俺達は、頂点を獲りに行く。
──あの人の代わりに」
短い言葉。
けれどその目はどこまでも真っ直ぐな⋯⋯初めて見る大人の人の瞳だった。




