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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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20/20

窮地

 「はァ⋯⋯」


 大人であるドン・ゴの一発。

 それは土を数時間かけて掘るような跡を残していた。


 けれどもっと凄かったのは、この人だった。

 

 「トーくんどうやったら手に入るの?」


 両脇の女の子を抱え、デカイ樽で飲み物を飲んで大量の悪口を受けるトーくんと呼ばれる人。


 「おい!!

 メイちゃんは俺のだぞゴラァァァ!!」


 「アビとは何回も寝てる仲なんだぞ!!

 てめぇ如き若えやつが調子乗ってんじゃねぇぞ!


 あァ!?」


 大人たちが唾を飛ばしながら物凄い怒っている。


 あ、これは仕方のないことなんだけれど、髪引っ張られて痛い。

 

 頭が取れそう。


 「ほぉーん」


 しかし、トーくんという大人は少しだけその悪口を聞くと、すぐに両脇の女の子たちと口をくっつけてイチャイチャしだす。


 当たり前だけど、また大声で大人たちが叫び出している。


 誰かが言うとそれに続き、また誰かが叫ぶとああでもないこうでもないと言う。


 村の子供たちがやっていた内戦が常にあるようで、僕の胸は何処かズキズキ痛い。


 「欲しけりゃ自分で奪えよ」


 たった一声だった。

 トーくんは両脇の女の子を顎を持ち上げ、嬉しそうな目で女の子から飲み物を呑んでいる。


 「お前ら四番街の連中は知らねぇのかァ?」


 トーくんが樽の上に脚を広げて座る。

 

 「俺達の世界じゃあ⋯⋯四大頭と十三族と。

 それ以外はゴミクソだろ?

 

 なら、奪えよ。

 女も、ガキも、この場所も。

 

 ドン・ゴくれぇの小物に口出しねぇレベルの奴らが女を一丁前に欲しがるなんざガキとなんら変わらねぇじゃねぇのよ。


 ⋯⋯えぇ?


 女が欲しければさっさと所有者を殺せ。

 ドン・ゴみてぇになりたきゃ強くなれ。

 仲間を集めるでも、てめぇが強くなるでもいい。


 生憎この四番街は寂れちまった場所だからな⋯⋯はぁ、あの人が帰ってくれば攻め込めたのによ」

 

 そう言いながらトーくんは女の子の頬を押したり引いたりしたりで遊んでいる。


 でも、僕はそれを聞いて思う。

 ⋯⋯凄く不思議な人だ。


 この場を完全に変えた。

 さっきのドン・ゴすら、言葉を出せなくなってる。


 口調は全く強くない。

 先生よりは強いけど、声も特別張ってない。

 ──なのに全員が聞いている。


 「さっきから聞いてりゃ⋯⋯」


 背後のドン・ゴが動き出す。

 凄い。夜の音がバチバチッとユラユラして──


 「調子に乗りやがって!」


 硬めた手がトーくんに向かう。

 その動きは僕には見えなかったけど、次に見えたのは。


 「⋯⋯ッ!!」


 静かに。

 ただ、硬めた手を両足で挟むトーくんの姿が、そこにはあった。


 「馬鹿がよ」


 ──ブォン!!

 

 本当に一瞬の事だった。

 黒いドロドロとしたナニカがドン・ゴを軽く吹き飛ばした。


 それは向こうの建物を壊し、もう一つ奥の建物までその穴は続いていた。


 「ハァ。


 ドン・ゴって言ったっけ?

 女たちは俺の事知ってんのに、お前が知らねぇとはな」


 身体の上はまるで浮くような感じで、両脚はまるで戦利品で見た斧のような圧がそこにはあった。


 恐らく今のは蹴りがドン・ゴに当たったのだと思う。


 「テメェ⋯⋯」


 パラパラ音を立てて、すぐにまた向かってくる。

 

 「ハァ、アビ。

 あとで俺の相手しろよ?」


 「はぁーい」


 「汗かいちまったじゃねぇかよ。

 折角遊べると思ったのに、男と絡むなんてツイてねぇな全く」


 殴りかかってくるドン・ゴに。

 片足を浮かして向き合うトーくん。


 「──舐めんなァァ!

 俺様がこの""""南の""""頭になる!!」


 トーくんもそれに合わせて走り出す。

 

 「⋯⋯ッ!」


 驚くドン・ゴだけど、その時。

































 「あぁ、酒ウメェ」


 急停止して、その場で女の子から貰ったお酒を呑みだしていた。

 

 「な、舐め──」

 

 力いっぱい振った手は少し届かない。

 だけどトーくんは身体の上を少し斜めに反らしている。


 「よっと⋯⋯ぉッ!」


 なにこの動き。


 寝っ転がるように土に倒れたと思ったら、多分肩を凄い力で跳ねさせて脚が剣で突いたみたいにドン・ゴの胸に突き刺さって、苦しそうにしている。


 「ッァァァァ⋯⋯!ぐっ⋯⋯!」


 「頭なんて名乗る⋯⋯まだまだだな」

 

 「な、なんだと!?」


 硬めた手はドン・ゴの顔や胸、お腹、色々なところに見えないし分からない速度で当たっているのが分かる。


 顔から凄い勢いで血が噴き出しているから。

 でも、なんだろう。


 変だ。

 思ったところじゃない所で攻撃が来るから対応が出来ていない。


 「将来。

 必ず復帰する、あの人はな」


 「あの人だと?」


 「まぁ良い、今はただの酒豪の男で良い」


 すると、トーくんの身体は少し浮いたような構えを取る。


 「待て──その構えは」


 ドン・ゴが、まるで""""亡霊""""でも見たかのような目をしている。


 その瞳の揺れでどれだけ凄いのかが分かる。


 そして小さく。

 トーくんが嗤った。


 「貴様⋯⋯まさか!?」


 「今更遅えよ──"先輩"」


 それを見たのは初めてだった。

 大人の力⋯⋯夜。

 もっと言えば、大人が戦っているのを見たのは。


 子供の戦いはいくつも見てきた。

 デンデラのような凄い強い子供も、同じような人間も。


 でも、コレは違う。

 大きいなんて優しい。


 建物が無くなるような一撃。

 ただの脚で。


 "空から降ってくる絶対"。


 僕は初めて目撃した。

 強い大人を。


 そして、これが目指すべき強さなのだと。


 「おいガキ、行くぞ。

 風呂だ風呂」

 

 髪を触って僕を見つめる。


 僕はあっという間に手を離され、今度はトーくん本人に首を掴まれ⋯⋯ぐ、ぐるしい!!


 「ったくよ⋯⋯最近の若い奴らは礼儀がなってねぇんだから」


 「く、くる⋯⋯」


 「黙ってろクソガキが」


 これから、僕はどうなるんだろうか。

 大人になったのはいいけど。


 でも今はどうにか生き延びることを考えないと。

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