運命というのはいつだって予想していない時に訪れるものである
それから、僕達の日常はあっという間に過ぎて行った。
ふと、初めてこの場所に来たときの事をまだ覚えている。
『おい、なんかあそこにあるぞ!!』
誰かがそんな事を言いながら、本能的に走った日の事を。
振り返ればそこは必死に追ってくる大人の顔。
今思ったらどんな顔をしていたのか、どんな気持ちだったのかなんて思い出せない。
だけど入らなかったらそこは地獄だし、入ったら入ったで地獄。
どこを見ても地獄だし、どこを見ても争いの毎日。
これが──僕の人生なのかと。
そう⋯⋯嫌でも思っていた。
入ったらそこは誰もが認める大人の魅せる光景が子供の所まで落ちただけ。
『ハハッ!』
強い男が弱い男を徹底的に殴って、殴り倒す。
その中で誰が強いのかを決め、その男に従う。
言うことを聞く。
そんな毎日。
男は遠征に無理やり行かされ、女は男を支える。
じゃなければ待っているのは見世物にされる地獄が待っているだけ。
そんな地獄だが僕は、全く諦めなかった。
殴られようと、怒鳴られようと、ただ一つの事だけを目的に。
それはデンデラと決めたこと。
腐った食べ物を口にしながら、ただ空を見上げながら食べたあの日。
『僕ね』
『⋯⋯ん?』
『もっと色々なことを知りたい。
もっと多くの人の事を知りたい。
そしてもっと⋯⋯みんなを笑顔にしたい』
『───なんだそれ。
明日のメシもねぇ子供が?』
笑ってデンデラはそう言ってたと思う。
でも僕は変わらない。
⋯⋯もちろん、それは今でも。
『みんな、お腹いっぱいご飯食べられたら⋯⋯戦わないと思う』
『⋯⋯っ』
デンデラが初めて僕を見てだんまりした日。
『そう思わない?
みんなさ、女を殴って、男を殴って、遠征に行かせて、自分の為ってやってるけど、でも、みんな心がポッカリ空いてるんだと思う。
ご飯が食べられない、
この先自分がどうなるのか、
周りにいる似た子供は何なのか。
多分それは、ただ落ちた時から変わらないものだからみんな怖いだけなんだって』
『⋯⋯おもしれぇことを言う奴もいるもんだ』
『だってさ、デンデラだって⋯⋯強いけどさ、誰もいなかったデンデラも"同じ"でしょ?』
『その通りだな』
『僕達の中で強いのであって、大人の中で強いわけじゃない。
だから、みんな怖いんだよ。
食べられない、先が分からない、捕まえようとしてくる大人。
だから僕は決めた』
『⋯⋯ん?』
『みんなを笑顔にして、みんなを元気にする!
みんな友達!どう?良いと思わない?』
僕の掲げた⋯⋯酷く理想的な自分の世界。
『⋯⋯ふっ、出来ると思ってんのか?』
片膝を立てて僕を見て笑うデンデラ。
しかしこの時初めて──"笑った"のだ。
『デンデラが笑ったんだから、大丈夫』
『っ、そうかよ』
僕の。
僕が初めてこの世界で「創った」"""友達""""。
『ねぇ、』
『ん?』
『デンデラ、僕と友達になってよ!』
僕とデンデラの⋯⋯初めての全てを取っ払ったただ一人の人間としての提案。
『⋯⋯友達、か』
『みんな家族は難しいけど、みんな友達だったら⋯⋯出来ると思わない?』
『みんな友達だったらどうすんだ?』
『友達は戦わないでしょ?
僕がデンデラと友達なら⋯⋯取れた食べ物を半分あげる。
もしデンデラだったら?』
『まぁ似たことはするか』
『でしょ?
でさ!それがみんなになったら?』
大きく見開くデンデラの顔。
初めて驚いてくれたと思う。
『戦わなくてもみんなで食べられるな』
『でしょ!?
みんな戦ってるからそれに気付かないんだよ!
気付いたらみんながみんなの中に大人を作ってるんだよ!
だからさ、みんな友達になれば戦わないし、お腹いっぱい色んな食べ物が食べられるし、仲良く色んな話ができると思うんだ!』
『⋯⋯それをこの地獄でやろうってか?
イカれてるな』
デンデラの答えは、よく聞く先生的な答えだ。
でも、僕は諦めない。
『だから、""友達""になるんだよ!
みんなで""友達""になってみんなの持つそれぞれの個性が世界を創る!
そうすれば──僕達はみんな楽しくて満たされ、怖くない地獄が生まれる!
創ろうよ!デンデラ!
みんなが元気になる世界!』
その時のデンデラは、何処からしくない顔をしていた。
寂しそうというか、なんか嬉しくも悲しくもないような⋯⋯そんな顔。
『デンデラは嫌なの?』
『ん?いや』
『友達になろうよ!』
僕は差し出す。
『いや、俺がいつ暴走するかもわからねぇんだぞ?
───っておい!!』
無理やり僕は手を繋ぐ。
『もう友達だから!!』
あれ程暴力的な男と言われていたデンデラ。
だけど僕の目には、手を繋ぎたいけれど繋げない子供に見えた。
『ったくまじかよ⋯⋯』
『友達だから!』
『分かったわかった。
そんじゃ、友達として何からやるんだ?』
『そうだなぁ⋯⋯』
そう。
僕のやるべき事は知識を得ることから!
けど、大事な事はそこと。
『みんなのお腹を満たす事!』
『⋯⋯そうか』
****
「エオ!」
そう、僕の目には沢山の後から入ってきた子供たちがちゃちゃを美味しそうに食べている。
「美味しい!」
「さいこうー!」
煙が空に消えていき、その下で悲鳴しか聞こえなかった場所とは思えない楽しい声。
僕はそれを、目を閉じながらただ静かに聞いていた。
「エオ」
隣に座ったであろう音。
開けて隣を見ると、僕と同じ顔をしているデンデラ。
「まず、一歩だね」
「──おう」
「俺あれできるよ!!」
「なら俺はこれね!!」
思わずデンデラを見ると向こうも一緒。
堪えきれず噴いてしまった。
「ね?デンデラ」
「あぁ」
出来ない事はない。
先生が前に言ったことだ。
「少しずつ、前に進むんだ」
「おう」
その時、変な音が鳴り響く。
⋯⋯体が痺れるような。
僕とデンデラ、その他の子供たちに光が当たる。
「「っ?」」
何?なんだ!?
空と同じ⋯⋯黒い。
これは、大人の力?
「エオ!!」
「デンデラ!!」
ほんの一瞬、僕達は互いに身を寄せて離れないように抱きしめる。
「エオ!!」
隙間から見るとグラン達が必死にこっちへ駆け寄ってくる。
けど、次の瞬間──僕の意識は落ちていた。




