勢力拡大
「──それで⋯⋯」
寝てからご飯を渡し終えた時。
起きてきたデンデラの顔色が悪い。
近くに絞っておいた水布を渡す。
「大丈夫?何かあったの?」
反応がない。
どうしたんだろう。
「エオ」
「おぉっ」
思わず前のめりなデンデラに僕は驚く。
「ダドマと知り合いか?
仲が良いのか?」
「⋯⋯ええ?」
ダドマってあの如何にも自分を王だと思ってそうな人だよね。
知らないけど。
「全くわからない」
「っ?そうなのか」
「どうしたの?
なんか僕の事言ってたんだ?」
思った反応と違ったのか、頷いて布で顔を拭きながら僕の隣に腰を下ろす。
「いや。構わん。
それより向こうからの提案を年長者組で考えていく」
近くにグランとニバもいたのですぐ呼ぶ。
他にも年長者組になりかけのウルや他の後に続く子供たちもこういう会話に慣らしていく為に呼ぶと、デンデラが始める。
「とりあえず向こう二つから俺達の飯を欲しいとの事だ」
「そりゃないぜ!
デンデラの兄貴!」
「そうだ!そうだ!
いつも俺達を馬鹿にしてきた奴らだぞ」
やっぱりこういう反応になっちゃうよね。
気持ちは分かるけどね。
「理解はする。
しかし向こうからのまとまった提案として戦利品の半数をこちらに持ってくる約束と、今後攻撃はしないという事を言ってきた」
「⋯⋯それ本当に信じていいのか?」
聞いていたバズウが小さく呟く。
「信じるも何も、やらなきゃもうやらんだけだ。
色々考えれば問題ない」
「この間の内戦⋯⋯ニバが居なかったら危なかったぜ?」
ニバの隠れる力というかなんというか。
やっぱりみんな凄いよなぁ。
「今後、俺達はその内に大人になっちまう。
だから俺達の後を用意しなきゃならん。
俺とエオの思ってる答えを言うと、割と急いでる」
「エオもデンデラも替えがきかないんだぜ?
俺からしたらご飯をあげたら奴らの元気を上げるだけになっちまって心配なんだよ」
バズウの言う事もわかる。
前はそれこそ昔の勢力の一人が別勢力に渡した事で逆に侵略された話もあったくらいだし。
「⋯⋯だがお前らはそんなタマじゃないだろ」
「それはデンデラとエオだからだって!
俺達は何も役に立ってない戦利品だぜ?
最近も収穫を手伝ってるくらいで、ほとんどエオの力だ」
「バズウ、わかった。
ウルはどうだ?」
「俺はデンデラの言う事を聞くよ。
俺が考えてることはデンデラも考えていると思うし」
「思いついた事でもいい。
何かあるか?」
「俺としてはご飯はこちらから持っていく。
あっちからは来させないを作るべきかな、と思う」
「畑を見せないためか」
ウルが頷く。
それ聞いたデンデラは意見に賛成のようだ。
──嬉しそうだ。
「他に何か思いつくことがあるやつはいるか?」
一周するけど、特になさそう。
「では、余った分を分け与え、戦利品を貰う流れで行く」
少しバズウは心配そうな顔をしているものの、納得した顔で頷く。
「今後何か少しでも変だなと思ったら俺かエオ、グランに言っておけばその内エオに話は行き渡るはずだ」
まぁそうだよね。
と、思ったと同じくらい、みんなもその通りだと笑う。
当の本人はすごく恥ずかしそうに逃げていったけど。
「さて。次の話に移る。
今回のご飯の話から、ダドマの方にも動きがあった」
寝る前に話していたことかな?
なんだろう?
「まぁ簡単にまとめれば、ダドマは今の俺達の感じでいたいらしい。
頭がいて、それに付いていく感じだ」
「それって結局自分たちが今のままが良いって話かよ」
「バズウの言葉を返すならその通りだろうな」
「ハッ、まじかよ。
ただダドマのところって何もわからなくて怖え」
確かに。
そう思って周りを見ると他の年長者も同じ意見みたいだ。
「とりあえずだが、二人で話した感じ、アイツはエオ──お前以外敵に回したら確実に死ぬ」
え?僕?
と、他の年長者組も、デンデラも僕を見つめている。
「僕?」
「はぁ。
自覚がねぇから怖えもんだ。
とにかく、アイツは俺よりも強いと思う」
その場にいる全員の口から息が漏れた。
デンデラと言えば、過去に一人で頭を滅多刺しにした張本人。
そんな人間が自分より強いと言うことは今まで無かったから。
「悪いデンデラ」
「ん?」
「その話を信じるにはこう、無理だ」
「バズウの言う通りだぜ。
デンデラより強いやつなんて見たことねぇよ」
「そうだそうだ」
年長者組からの声がドンドン早く続く。
「俺の思った感想だが」
声をかき消すような静かな呟き。
「多分アイツは、何か別のところと繋がっていると見た」
「繋がり?」
「まぁ──そんな気はしてたよ」
「グラン、知ってたのか?」
屈んで木の枝を弄るグランを見下ろすデンデラ。
ちょっと怒ってる?
「知ってるも何も、アイツ⋯⋯明らかに食料の調達している質が違いすぎて笑っちまうほどだったぞ」
「例えば?」
「アイツら⋯⋯大人が食べてる肉とか平気で食べてた」
またざわつく。
聞いていた僕も息を漏らす。
⋯⋯それはそうだ。
肉は大人の特権としてある食べ物の一つ。
動物という生き物から取れる凄く珍しい食べ物。
それを食べる為にみんな一生懸命働くって先生が言ってたくらいだ。
「それをどうやって村で女とずっとキャキャッしてる中で得られるんだ?」
「知ってたなら言ってくれよ」
「デンデラなら突撃しそうだなと思って言わなかった。
前に1回だけ見たことがある。
女が一人、パンッ!って消えたのを」
言葉が詰まる。
なんだそれ。聞いたことがない。
「多分あいつは何かしら繋がりあると思ってる。
それか何か別の目的がある──とかな」
視線が僕に集まる。
グランにしては珍しい⋯⋯真剣な。
「エオ、言ってくれ。
本当にダドマと関わりはなかったのか?」
その場で真剣に過去のことを思い出す。
結論⋯⋯全く覚えていない。
「ごめん。
本当に分からないんだ」
「本当か?
あの入れ込みよう⋯⋯普通の関係じゃ出ないようなものだぞ?」
「⋯⋯そんなに?
僕会話したことすら無いけど」
返事をすると、デンデラは本気で悩んでいる様子だった。
本当に凄かったんだろうな。
「とにかく、ここでもう一つの話だ。
本当なら、アイツらの縄張りも奪って良いはずだが、それを止める代わりにエオ、お前に提案だ。
⋯⋯味のする粉と取引だそうだ。
それでどうかと」
味のする粉?
「それがあるの?」
「あぁ。
まぁ本当だろうな。
殺されそうになったんだから」
「うっ、あのデンデラが?マジで?」
グランもバズウも心の底から驚いている顔だ。
もちろん僕も。
「エオならその価値と意味を理解してくれる、そう言ってた。
俺も理解はしているがな」
今のちゃちゃではお腹は満たせるが、満足というわけではないのが全員の本音だと思う。
⋯⋯ここでその味のする粉を手に入れれば。
「僕は受け入れたい」
「そうか。
俺はエオの言葉をできるだけ通したい方向だが、他は?」
「エオとデンデラが頷くんだから正解だろ?」
バズウがニヤケながら頷く。
「エオはちゃちゃを作った救世主だよ!!」
「だな」
グランとニバも笑ってうんと言ってくれる。
「俺も!」
その他の年長者たちも同じく。
「分かった。
ダドマとは俺が話をつける。
そしたらエオの方向で行こう。
⋯⋯いいな?」
全員、静かに頷く。
「よし、ではマジな話はこれで終わりだ。
全員戻っていい⋯⋯うい!」
味のする粉⋯⋯そんなものがあるのかな?
僕はダドマが言う謎の粉に早速頭が支配されかけていた。




