行ってらっしゃい
僕は今、訳がわからない状態になっている。
「え!?何!?
アイドルでも連れてきたの!?
モデルさん!?」
「違うのよローラ」
「じゃあ何よ!?
えーやばっ!あ、こんにちは!」
「あー⋯⋯えっとこんにちは」
軽く手を振ってみる。
「喋った!!!」
どうやら僕は、喋っただけで驚かれるらしい。
「ローラ、座りなさい」
「パパのケチ!!」
「彼の事は決して漏らすな。
これでも一応仕事だ」
「仕事⋯⋯なら」
重い雰囲気が流れると、ローラと呼ばれる少女は机に座って、並ぶご飯を一緒に食べ始める。
一体なんだろう?
なんでこんなに僕を見てはしゃいでいるのだろうか?
「ベリオさん、さっ座って!」
「あ、ありがとうございます」
笑って椅子を引いてくれる。
「すみません」
「いいのよ、ほらっ」
まず目に入るのは、近くで見てもどうやって作られたか分からない机。
それに続いてやってくる、木を使ったであろうお皿の数々。
「ベリオさん嫌いな食べ物はあるかしら?」
「⋯⋯嫌いな食べ物?」
そんな物ある人間がいるの?
西の人達は、凄いんだなぁ。
「レオナ、止めなさい」
静かに食事を始めている商人さんが僕を見ながらただそう発する。
「何よ」
「察してくれ。
自分が何を言ってるのか」
その会話を聞いて、僕はすぐに思う。
内容の正体までは分からないけど、多分僕に気を遣ってくれていたんだろうという心だけは。
「⋯⋯あっ。ごめんなさい」
すぐに謝罪の言葉が出る。
隣に座るローラも、その言葉の意味を少し理解したのか、さっきまでのはしゃいでいる表情が消えていく。
「なんかすみません、自分が邪魔をしているみたいで」
「そんな事はない。
二人共喜んでいる」
「商人さんは?なんて」
「正直嬉しい。
恥ずかしくもあるが、貴方のような人間が西を見てどんな感想を抱くのかが⋯⋯というところだが」
笑って商人さんは謎の温かい飲み物をスプーンで飲んでいる。
「ねぇ、この食べ物はこう食べるのっ!」
僕が変な掴み方をしてしまったのか、笑いながらローラさんが優しく教えてくれる。
「へぇ、これはパンって言うんだ」
「そうっ!
それでね、これを塗ると凄く甘いんだよ!」
赤い。
「これって食べられるの?」
「うん!スタンっていうの!果物!」
「スタン⋯⋯っ、美味しい」
それに、甘い。
「西ではかなり普通に出回っているモノです」
「これが⋯⋯普通」
恐ろしい。
差があまりにもあり過ぎる。
僕達はこのスタンだけで大はしゃぎなのに。
*
「やばい!時間が!」
見ると何やら服を変えているみたい。
起きてきた服も豪華なものだったけれど、今着ているのは豪華だけではない、どこか細かさを感じる凄く独特なモノだった。
「商人さん、ローラは何処へ?」
声を掛けていると、レオナさんが僕たちの手を引っ張る。
「ちょっと!」
「どうしたんですか?」
「あっ、」
一瞬、僕の顔を見て何かまた察したと言わんばかりに顔を引きつらせている。
「学校だ。
本を読んだり、大人から教育を受ける場所だ」
隣で商人さんが説明してくれる。
⋯⋯っ、凄い。
「西ではね、ベリオさん」
「はい」
「子供は学校に行くの」
「んー!
そうなんですね!」
凄い所だ。
僕達もそうなれるようにいっぱい頑張らないと。
「それで⋯⋯その⋯⋯」
「ママー!」
そこへ、急いでこれまた独特な靴と呼ばれるのを履いて、僕達を見る。
「今日も変なのに絡まれないように」
「分かってるよママ」
と、ローラさんは商人さんを見ると、なんだか笑っている。
「パパがお見送りってあんまないよね」
「まぁな、普段は西で商売をしているか、他の街へ出かけているからな。
⋯⋯気を付けるんだぞ」
「うん!」
その時の一瞬。
商人さんの目が暖かいモノに変わっていた。
なんだろう、まるでデンデラやグラン、トリスさんが子供達と喋る時のような。
「ベリオさんも!」
立っている僕に、ローラさんは手を開いて出してくる。
「んっ?」
「ほら、ターッチ!」
パン、と。
その場には音が響く。
「いってきまーす!!!」
「「いってらっしゃい」」
「⋯⋯⋯⋯いって、らっしゃい」
扉が開くと、紫色の灯りがローラさんを照らしていた。
まだその背中は小さくて、幼い。
「⋯⋯⋯⋯」
扉が締まる。
だが、消える最後の瞬間まで、僕は目が離せなかった。
ベルさんやトリスさんも、おんなじ気持ちだったのか。
⋯⋯僕達を見ている時って。
危うくて、何をするか分からない。
でも、それが良かったりする。
「西ではね」
無言で隣のレオナさんを見る。
「人が家から出て行くときに"いってらっしゃい"って言うの」
「いってらっしゃい⋯⋯」
「行く方はいってきますって」
「挨拶⋯⋯ですか」
「そう。
私達はそうやってお見送りをするの」
「お見送り」
「子供の頃は気付かないのよね。
いってきますって言ってたのに、いつの間にか大人になって、誰かと結婚して、いってらっしゃいって言うようになるの」
僕を見つめるレオナさんの湿ったような瞳。
「ね?
家族っていいものでしょう?」
僕はそう言われて思わず笑った。
いや、笑うしかなかった。
遅れて、頷きながら僕も答える。
「とても⋯⋯良いモノですね」
いってらっしゃいといってきます⋯⋯か。




