新世界
「おーい!
こっちはバイス揚げー!
二百ヒン、安いよー!」
⋯⋯え?
「ヤモ一個百五十ヒンだよー!」
⋯⋯えぇ?
「旅行者向けだよー!
西名物ニワト焼きー!美味しいよー!!」
⋯⋯んん?
「西での名前は何にしましょうか?」
「あ、あの、」
「はい?」
僕を見る商人さん。
でもごめん。
「ちょ、ダンライオス!?」
駄目だ⋯⋯
頭が大混乱だ!!
*
「だ、大丈夫ですか?」
ゲート近くで座る僕に、何かを差し出してくれる商人さん。
「こ、これは?」
「こちらでよくあるお茶ですが」
「"お茶"?」
「あっ、えーと⋯⋯」
駄目だ。
確かにこれでは彼らが野蛮と言うのも頷ける。
──自分の首がこれでもかという落ちかける。
「情報量が違い過ぎて」
「情報量?」
「あの人達の着ている物はなんですか?」
「あっ、」
「なんで足に何か付けているんですか?」
「えーっ、」
「なんか動物と一緒に走ってますよね?」
「⋯⋯確かに、知らなければ頭が爆発しますね」
僕達は足に何かを付けたりしない。
短い丈の上と、下。
あんなに良い匂いを発しているご飯を知らない。
服を知らない。
人々が密集している場所を知らない。
⋯⋯つまりなんにも知らない。
「色んな色があるのはなんですか?」
「あれは服を作っている人がいてですね」
「色んな色を?」
「えー、素材を取りに行く人達がいるんですね」
「反乱は起きないんですか?」
「無いですね」
「⋯⋯ない?
どういう事ですか?」
「と、とりえずまずは体験するのが早いでしょう」
人が、いっぱいだ。
何処からも人の声が行き交っている。
この感覚。
まるで初めて村を出た時のことを思い出すな。
村を出てすぐのこと、何にも頭に入らなかったときの事を。
「はいよ!いらっしゃい!」
目の前の白い何かを巻いている人が元気良く話す。
そんな時、商人さんが耳元で言ってくれる。
「西では貴方はエオではなく、ベリオという名前で活動してもらっても?」
「⋯⋯ベリオ?」
「今日のおすすめは?」
商人さんが訊ねると彼は僕達側にある容器をどうやら上から覗いている。
「タコンかねぇ!
今日海から結構入ったんで」
「幾らだ?」
「190ヒンだよ」
「ベリオ、貴方はどのような味を好まれる?」
商人さん⋯⋯何言ってるのか、全くわからないよぉ!?
「と、とりあえずこのメテオ?」
試しに一番左にある光ってる何かを選ぶ。
「あいよ、メテオ一つにタコン一つね!」
懐から何かを取り出している。
⋯⋯なんだ?
「ベリオさん!」
──え?
「なんで戦おうとしてるんですか⋯⋯!」
いや、何かを取り出したから⋯⋯から。
「ご飯です!
戦いじゃありません!」
え?一歩下がっちゃったよ。
「なんだい、アンタ面白い事を考えるもんだね!
普段はスラム街に住んでるのかい?」
「彼は最近まで色々訳ありなんですわ!」
あ、作り笑いだ。
⋯⋯しくじった。
「ご、こめんなさい」
「謝る必要はないよ!
ここは安全だからね!」
「⋯⋯安全?」
「あぁ、ここでは暴力事件なんて一回も聞いたことなんてないし、居てもほら」
彼の指差す方には、凄い格好をした人達が堂々たる顔つきで立っている。
「警備隊がいつも配置されていて、何かあってもすぐに解決してくれるのさ!」
「へ、へぇ⋯⋯」
「あいよ!西へようこそ!
スラム上がりの青年!
──歓迎のメテオ味だ!」
「いきなりメテオに行くとは⋯⋯さすが」
なんか馬鹿にしてませんか?商人さん。
*
どうやらとっくに数時間が過ぎ去ったらしい。
僕はまだまだ見たかったのだけど、時間が許してくれないようだ。
「ベリオさんの体力が⋯⋯あり過ぎて⋯⋯」
バタンと倒れ込む商人さんの寝床をベッドというらしい。
「雲みたいです!」
「あぁ、"妻"が一生懸命作った渾身の一作だからな!」
「⋯⋯妻?」
「あぁ、南の貴方には分からない価値観だろうが」
「是非教えていただけませんか?」
妻とはなんだろう?
僕は気になって続ける。
「家族という言葉があるだろう?」
「っ、はい!」
「男と女が一緒に生活をする事を結婚という」
「結婚⋯⋯ですか」
「そして我々西では、一定期間を過ぎると子供を設けることができる」
「設ける⋯⋯というのは?」
「南と違うのは、西には子供を貰うという施設があるんだ」
「施設っていうのは?」
「そうだ、施設を説明しなければならないのだったな」
「すみません」
ここに来てからずっと、商人さんにお世話になりっぱなしだ。
「いや、いつか面白いことになるのではないかと期待している私だから、全く問題はない」
「──ありがとうございます」
それから寝るまでの間、この西という世界の常識をひたすら聞き続けた僕だった。
⋯⋯頭が勝手に寝るまで、ずっと。
ーーー
あとがき!
遂に西にエオが来るところまで来たんですね、早くも130話⋯⋯!




