西へ
「来るのは初めてですか」
「はい」
一番通り。
南の、最初の通り。
遠目に見た事はあったけれど、こうして来るのは初めてだ。
「正確には貴族様に止められているので難しいという方が正しいのですがね」
「あー、僕がまだ知らない事ですね」
返事をしながら思い出す。
⋯⋯そうだ。
貴族関連の情報を集めなくてはならない。
この世界の成り立ちや様々な事を。
世界がどうなっていて、何故こうなったのかを。
「しばらくのお別れ⋯⋯全員に?」
横に首を振る。
「そうですか」
あくまで西がどういう世界であるのか、そして僕達とはどれだけ違う視点があるのかを見に行く為だ。
⋯⋯それに。
「暴動が起きそうなので」
周りにいた商人さんの配下の人達が苦笑いを浮かべている。
「まぁ、確かに」
子供たちから好いて貰っている以上、凄く悲しい事になるのは間違いない。
「それより凄いですね。
ゲートってこういうものなんですか?」
見上げると、そこには威圧すらしてきそうな建物。
夜で出来たような外観。
「私達はすっかり見慣れていますからなんとも言えませんがね」
そんな僕の興味津々ながらの会話が終わり、気付けば商人さん達の準備が始まる。
「いやぁ、すげぇな」
どうやら商人さんたち自身、西の人らしいので、僕を見て驚いていた。
「これくらい子供の頃からやってましたから」
荷物を運ぶ。
どうやら西の商人さんたちはカラダが小さいし、力が無いようだった。
彼らが僕達を見て情報を得るように、僕も彼らから見える情報を仕入れる。
「さすが南人。
東人より力があるんじゃないか?ハッハハ」
「東の人達もこれくらい出来るんですね?」
「まぁだが、南程じゃない」
なるほど。
北が分からないけど、力は南が一番強いみたいだ。
その次に東。そして弱いのは西。
しかも、結構差があるようだ。
「終わりましたよー!」
今回、西に行くに当たって、彼らに同行する際、部下という体で行く為、形だけでも覚えてほしいとの事で軽い話し方を学んだ。
⋯⋯けどよく南でみた光景だ。
「本当──力強えな」
聞けば本来だったら半日掛かるはずの作業を僕が2時間で終わらせてしまったようだ。
「西では注意した方がいいぞー?」
近くにいる人が僕に言ってくる。
「どういう事ですか?」
「ここまで出来ると、安く叩かれるからな。
行ったら嫌でも分かるが、できる奴は高く買ってくれる所はほとんどない。
出来るやつを安くしようとするのが西だ」
うわぁ。なんか酷い。
「顔に出てるな、ダンライオス」
「あっ、」
「俺も歳だが、ダンライオスの話を聞いて、思う所があった。
──だから気にするな。
アンタなら、もしかしたら本当に⋯⋯世界を変えちまうのかもな」
ほら、やっぱり。
「ありがとうございます。
いつか、綺麗になった南で待ってます」
笑って僕は未来の南を思い描く。
「すげぇなぁ。
俺はただ金を稼いで良い女を抱いて一生楽してたいだけなのに」
「それも良いのでは?」
数人と仲良くなった僕は、そのままゲート中へと入っていく。
*
思わず口から吐息が漏れ出てしまった。
「ッはぁ⋯⋯」
綺麗。
僕達では作れない、細かい刺繍。
色も沢山の色がある。
どうやって作っているんだろう?
「ありゃ硝子って言うんだよ」
「硝子?」
「その内日常になっちまうから安心しな」
硝子⋯⋯。
覚えておこう。
「っ、アレはなんですか?」
土の上にある、真っ赤な布は。
「絨毯だ」
「じゅうたん?」
「ここは貴族様が歩く場所でもあるからな、豪勢なのを使ってるんだ」
「⋯⋯へ、へぇー」
まずい。
もう分からなくなってきてる。
「それでは確認いたします」
待っていた順番が、遂にやってくる。
「初めて移動なさるのですか?
初めは緊張するものですよ」
「あっ、すみません」
周りのみんなも、結果が気になっているようで。
⋯⋯そりゃそうか。
「あっ、問題ございません!
どうぞ、今回の目的は商売の付き添いが目的でございますよね?」
「はい!」
「ではお気を付けて」
ガチャンと通れないようにされていた硬い棒が動く。
「通れましたよ!」
「良かったですな」
先で待っていた商人さんと堅い握手を交わす。
「さて、これからですな」
「⋯⋯はい」
振り返ると、そこには見た事もないデカイ大扉がある。
この先か。
新しい世界が待っているという場所。
どんな世界なんだろう。
どんな人達がいるんだろう?
最後の人である確認が終わる。
「それでは帰還する。
それぞれの予定は良しとするが、集合する時間は厳守するように!」
商人さんのよく通る言葉が飛ぶ。
全員の強烈な返事と共に、歩き出す。
キィィと軋む、大扉。
その先の見たことのない世界へ、僕は今、一歩踏み出した。




