人気者レイネシア
「お、おはようございます!エオ様!」
「ん、んん⋯⋯」
前が見えない。
けど、声の正体が誰か、僕には分かる。
「あ、レイネシア」
そう。
最近ね、この木で女の子たちから水で洗う容器を貰った。
朝これに水を入れておいて、これで部屋でも顔を洗えるって。
ごめん、話がそれちゃった。
──レイネシア。
彼女はあれからもう数ヶ月になる。
「ご飯食べよっか」
「⋯⋯はい!」
*
「よく食べるねぇ」
自分で言うのも中々だとは思うんだけど、僕も大きくなったよね。
食べ物を収穫できるからこそ出る言葉。
⋯⋯それにしても、この子は面白い。
「ねぇ、レイネシアは何歳?」
「⋯⋯7歳!」
「元気が良くて助かるー」
聞いたら分かると思うんだけど、僕達の中では全く"存在"しない年齢なのだ。
何故なら僕達はこの世界に生まれ落ちた日。
その時点で"9歳"なのだから。
そこから大人になるには、三年。
12歳になると、大人として村の外へと出て戦いが始まる。
と言っても今はそれもなくなってしまったけどね。
「はぁ⋯⋯」
「どうしたの?」
増えていく子供達と、生産量の増える食料。
毎朝起きるとそれに悩む。
けど最近はレイネシアを見ていると凄く元気づく。
「ん?
いや、レイネシアを見ると元気が出るよ」
「⋯⋯本当!?」
「うん、勿論っ」
切り札。
彼はこの子を切り札になり得ると言った。
一体、何が切り札なんだろう?
ここ数ヶ月そればかり考えていた。
未だに答えは全く出ない。
「さーて、今日も行こうか」
今日もやることがいっぱいだ。
*
「水の方は順調?」
「そうなんですわ!頭!」
すり潰したやつが上手く働いたようで、解毒?
確か身体に異常をきたすものを無くしてくれる力を持った草だったはず。
それが働いたおかげですっかり綺麗な水になった。
今ではみんな水を飲んで元気いっぱいだ。
「これからは、頭に頼らず、俺達も水を守りますわ!」
「頼むよ」
悪さをされないよう。
みんなが交代で見回りを強化しているという話を聞いた。
こうやってみんなの協力でやっていくのが大事だ。
「しっかしレイネシアの人気は凄いですなぁ!」
「⋯⋯そうだね」
僕達の視線の先には、色々な大人に対して花を配っているレイネシアの姿があった。
「頭、彼女どうするつもりで?」
「僕もそれについて凄く悩んでいるところなんだ」
切り札と言っても、まだ通り自体では有名ではない。
けど、切り札の存在が普通の大人も知っている状態は良くないと思う。
──けど。
「これお花!」
「ありがとうーレイネシア」
一生懸命自分にできる事をやっている姿。
⋯⋯まるで昔の自分を見ているようで、やめろなんて僕は言えない。
少なくとも影響力のある人が最期まで守った女の子であり、僕も知らない謎の存在でもある。
何も分からない状態で外を歩かせるのは危険だ。
「エオ様!お花!」
そんな分からない存在に、こうして見上げながら花を渡される。
「⋯⋯ありがとう」
なんとも言えない気分だけど、悪くないのは子供だからだろうか。
⋯⋯先生もこんな気持ちだったのだろうと考えると、僕も大人らしくなってきたのかな。
──そしてそれから数時間。
「レイネシアー!」
「ニバぁ!」
特に仲が良いのはこの二人だ。
元気と元気が合わさってもはやうるさいの域ではあるけど、僕達からすれば光のような輝きを放っている。
その近くで僕とグランは。
「エオ」
「ん?」
「マークの野郎の言うことが正しけりゃ、あのガキは相当やべぇんじゃねぇのか?」
足を組んで片手間作業中、グランが小声で話しかけてくる。
「でも殺された以上、間違いなく本当の事を言ってるって事にもなる」
「まぁ⋯⋯なー」
作業を止めては頬杖をついて、ジッと鋭い視線でレイネシアを眺めるグラン。
「どうしたの?
随分あたりがキツイんじゃない?
──ニバにもやった事ないんじゃない?」
「なんであいつが出るんだよ。
⋯⋯て、違くてよ。
単純にあのガキの正体も気になるし、この人気っぷりが普通じゃねぇんだよなんかよ」
まぁ、ちょっと分かるかも。
「ニバみて!」
「わーっ!凄い!」
「見ろよ、たった数ヶ月だぞ?
たった数ヶ月で──俺らを含めて幹部全員と仲良く出来るって人間としても、正体がわからないガキとしても恐ろしいってことに気付かねぇか?」
顎で指してはそう言ってくる。
「言ってることはわかるけど⋯⋯」
「一応言っとくが⋯⋯そもそも俺も悪い気はしてねぇから問題なんだよ」
「あ、それはそうなんだ」
意外だな。
ああいう子供が嫌いな感じだと思ったのに。
「意外か?」
「まぁ⋯⋯ねぇ⋯⋯」
「なんだろうなぁー⋯⋯。
ああいう、誰かと一緒にいないと生けていけない奴を見てると、勝手に苛つくんだよ。
多分性分だな」
「直せとは言わないよ、別に」
視線がそんな感じ。
治さないと駄目?って顔してるのが面白い。
「っ、本当か?」
「うん。
だって、そうしたらグランがグランではなくなりそうだもの」
おっ、出来た!
「お前は優しいな」
「グラン、見て?」
僕は出来上がった冠をグランに見せる。
「おぉ、うめぇな。
やっぱエオは創るのが得意なんだな」
ジッと見てはグランが嬉しいことを言ってくれる。
「グランもその内得意になるよ」
「俺に人の上に立つなんて向いてねぇってんだ。
俺は、俺の面倒を見るだけでいっぱいいっぱいだっての」
「ほら、グランも冠作って」
笑いながらそう言うと、投げやりに冠をとってまた作業をする。
「ガキも健気なもんだよ、俺ならこんなちんたらちんたらした作業なんて飽きちまうよ」
⋯⋯結局、グランのこの作業は終わらなかった。




