死の水
「⋯⋯っ、頭!」
「ガムパさん!」
急いでも数日かかる。
到着してすぐの事、身体の酔いを覚ます事なく現場へと向かう。
「どうしてこんな事に」
ガムパさんが抱いている一人の大人を覗く。
「身体に異常はなさそうだ」
「あぁ!
でも、なんで知らねぇんですが、皆バタバタ倒れて震えているんですわ!」
腕の血が走る部分に触れる。
「⋯⋯凄い早い」
僕のと比べても異常だ。
「見つけた水源は悪影響になるほど酷い水ではなかったはず」
「それはみんなで確認したはずなんでぇ問題ねぇはずなんですが⋯⋯ある日急に」
そこへ必死な顔で走ってくるグランとニバ。
「二人とも!」
「どうやら変な異物が浮いてるって話があって確認した!」
膝に両手をつくほど走ったグランに持っていた水を渡す。
「悪い。てか⋯⋯はぁ、マジかよ。
みんなで見つけた水源に誰が⋯⋯」
「こっちはなんか色々な人が噂しているところを聞いたよ!」
「本当?なんでもいいよ」
「うん!」
そう頷いてニバが話してくれたのは、ある小さい勢力の人達が水によって支配していたという話だった。
彼らが囲っていた水によって、女や食料、戦力、様々な恩恵を受けていたらしく、それが僕達がやって来ていきなり水源を見つけてしまったことに腹を立てて身体に良くない異物を仕込んだらしい⋯⋯という事だ。
「なんで⋯⋯みんなで見つけたのに」
ニバが俯いて唇が震えている。
「また面倒な」
事情を察したグランも屈んで近くの小石を目の前の家に投げている。
⋯⋯盛大に大きな舌打ちをして。
「これが少し前なら、なんとも思わなかったんだろうって思うと、俺も進んでんのかな」
「人間に停滞はないよ、グラン」
「っ、そうなのか?
お前言ってただろ?悪いやつはそれに気づくまでがうんたらって」
「そうだね。
気付いてから急速に進む。
けど、時間も、物も、感情も、全ては凄く遅いけど完全に止まることはないんだ。
少し、そしてある時は僕達では見えない速度で進む。
僕の言葉で言うと"正道星覇"だね。
大丈夫。
人間は常に前進してるから」
カランカランと落ちる小石。
グランは立ち上がって笑う。
「⋯⋯ブチのめしてくるわ」
「はいはい、ダメー!」
「駄目なのか?」
「駄目です。
彼らの言い分を聞くまではね」
「異物を入れたってことは言い分なんて聞くまでもねぇじゃねぇか」
「そうだよエオ!
しっかり敵じゃん!」
みんなの視線が僕に刺さる。
けど、違うんだ。
「みんな、」
⋯⋯僕の目的は。
「全員が心の底から笑える世界だ。
彼らがやらざるを得ない理由があったかもしれない。
既に死んでいる人がいるからちゃんとした形にはするつもり。
けどやり返してハイ終わり。
⋯⋯そんな訳にはいかない。
では彼らには何をするべきで、これから彼らにはどうしてもらうのかを考える」
でないと。
「正しいことをしてるんだからいいじゃないの?」
そう。
僕が言いたいのはコレだ。
「正しいのは僕達の視点だ。
彼らには彼らなりの理由がある。
正しいことを理由にしてはいけない」
そう、それが。
「僕達は正しい行動はするべきだけど、人が人に攻撃をする理由にしてはいけない。
それは最後、僕達の身を滅ぼす。
その完成形がドン・ゴやまた上と呼ばれている人間たちと何ら変わらない」
とにかく、水源とどの辺りで異物があったのかを見つけないと。
*
「この辺りか」
僕たちが見つけたのは、森の中の少しの湧き水だ。
しかしその量は川、いや、それ以上にに匹敵する。
⋯⋯僕はそう見ている。
「色が確かに変だな」
「うん」
明らかに澄んでいない。
濁っている。
変な色とプカプカ何かが浮いている。
「木の枝持ってきたよ!」
ニバが水溜めへと突っ込み、その異物を引っ掛ける。
ドボンとこれまた変な音を鳴らしながら地面に落ちると、僕達は異物の中身を慎重に覗く。
「なんだこれ?」
白い色をしている。
何か編んでいるような袋だ。
「触っちゃまずそうだね」
死体ではなさそうだし、このままにしておきたいところなんだけど。
「これだと地面周りの土も危ない」
近くを見渡して、石の上に移動させる。
「開けたいな、これ」
グランの言葉に僕もそう思う。
「でもこれ、水どうなっちゃうの?」
「少なくとも他の水源を見つける方向に走らないと、水不足と異物のせいで人がどんどん死んでしまう」
ニバの悲しそうな顔を横で見て、僕も少し気落ちしちゃう。
「みんな、水美味しそうに飲んでたのに⋯⋯」
そんなニバの肩を、雑に組むグラン。
「な、なに!」
「その内また飲めるようになるって!
⋯⋯な?エオ」
「ん?うん!もちろん!」
「エオも言ってたろ?
みんな悪いことをしてしまうが、理由があって、そいつらも悪いことをしたって気付けば、巡り巡って俺達にも力が宿るってよ」
「うん⋯⋯けど、なんでこんな事するの?
酷いよ!」
「そりゃあ⋯⋯人の事を考えてねぇ昔の俺達みたいな奴らなんだろ」
そんな二人を見ていた僕は、何処か大人になったなーなんて思っちゃいけないことを抱いていた。
──今は、やるべき事をやろう。




