閑話:あるリーダーの理由
「あぁーあー」
嘲笑と吐息混じりの声を発する一人の男は腕を引き、その場で笑う。
「てか、楽勝だろこんなの」
ドサッと机に踵を乗せ、後頭部に両手を回して希少な革で作られた椅子に体を預ける⋯⋯ある男。
「なぁ」
──そこへ、一人の男がやってくる。
「なんだ、ビル」
「今、掟秩隊がここに向かってきてるらしい」
「⋯⋯確かか?」
見上げる男の問いに、ビルは静かに頷く。
男は軽く舌を弾き、一息ついては軽く起き上がって頬を吊り上げる。
「って事はよ、」
ゆっくりとした口調で、そこまで言いかけた男は勿体振る。
「いや、」
男に映る机の向こう側にある、血の溜まり場。
そして、机にある⋯⋯あるモノ。
それは鍵とも言えるし、塊とも呼べるモノ。
「本当⋯⋯」
手に取り、男に過るのは、
ーーデンデラ!
純真で、
今にも消えそうで、
そして何より⋯⋯自分を愛してくれた、一人の少年の顔。
「お前との夢以外はイージーって奴だよ。
⋯⋯本当よ」
「あ?おいどうしたんだよ、デンデラ」
「いや、なんでもない」
握ったそのモノを強く握りしめ、デンデラは立ち上がる。
「お待ちしてました、リーダー」
二人が外に出ると、そこには数百人が一糸乱れぬ姿。
⋯⋯それはまるで軍隊と変わらない。
「オーダーが来る。
とりあえず俺達の目的は一つだ」
全身黒の戦闘服。
全員の前に立つデンデラを見て、数人の部下が漏らす。
「デケェよな、やっぱり」
「あぁ、この間も普通に扉に収まんなくて屈んで入ったらしいぜ?」
そんな中、デンデラは淡々と語る。
「まぁよ。
俺は別にお前らのことなんざモノのついでくらいにしか思ってねぇ」
そのなんの感情もない瞳を見れば誰でも理解できるものだ。
「俺はさっさと情報を手に入れて南に行く」
その一言で⋯⋯一気にざわつく。
「南って?」
「ほら、あの野蛮人達がいる所だろ?」
「なんでそんな所にリーダーが?」
人々は挙動不審に噂を立てる。
それを見渡すデンデラは当たり前のようにざわつきを無視して続ける。
「まぁ言いたいことは色々あるだろう。
このいくつもある国の秩序もあるし、無茶を言うつもりはない。
ただ、ピラミッドで苦しむお前らを助け出した時に約束した⋯⋯俺とお前たちの取引は覚えているだろう?」
嵐が去ったあとのような沈黙。
"助け、組織を運用し、ピラミッドに向かい合える状態になったら、ゲートまでの道を切り開く"
デンデラと彼ら。
双方の共通認識が浮かぶ。
「俺は南に用がある。
お前らにも事情があるように⋯⋯俺にもこの生命を賭けてでも成し得たい事がある」
クスッと笑い、デンデラは続ける。
「友達が待ってる。
その先にしか俺の人生は存在しない」
言い切った。
誰もが恐れる男。
今ではオーダーが隙あらば狙おうとする鉄血の男が。
たった一人の人物の為にここまでやっているのだ。
全員の顔から謎の緊迫感が止まらない。
「お前らにも、様々な理由があるだろう。
俺にもある。
俺がやれることは、自分の能力でお前らを育て、組織としてピラミッドとオーダーの真正面から向かい合えるようにする為。
もう時期ソレは終わるだろう」
「「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」」
「イカルも倒して、赤なんとかなんて言う変なやつも倒し、オーダーの役員を一人潰し、お前らにも勉学と組織論を植え付けて、こうして今、オーダーの支部の一つである司令塔を破壊した」
「「「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」」」
「もう面倒を見ることはないだろう。
人並みだろう?
最初に願ったお前たちの人並みというやつにはなったはずだ」
そう言うと、一人の男が手を挙げる。
「なんだ?」
「リーダーにとって⋯⋯俺達の思う人並みという基準は違うのでしょうか?」
少し緩む頬を見せながら、一瞬の揺らぎもない顔で笑う。
「全く違う」
「お聞きしても良いのでしょうか?」
デンデラはそう言って、虚空を見上げて真面目に考えている。
「おい見たことねぇよ」
「なっ。マジで」
「逆にその友達ってのがメチャクチャ気になるんだが」
緩む顔を見たデンデラの部下たちの動揺と好奇心が止まらない。
「多分⋯⋯」
長い間の沈黙を破る。
「言ってもわかんねぇだろうな。
この場所、この国に生きているお前らには」




