問題項目
畑を弄る僕の背中に数人の気配。
「あら」
振り返ると、子供達。
確か⋯⋯
「ミンダとレオ」
「そう!⋯⋯凄い」
「ダンライオス凄い!」
「そうかな?」
少し見上げて、見回す。
畑には大人も子供も僕の教えた通り⋯⋯収穫するのと植えるのを行っている。
信じられるだろうか?
大人と子供が、同じように笑っている事が。
少しずつ、この南が変わっていくのを感じる。
『ねぇ凄いでしょー?』
『おっ、初めてなのによくやってるな』
あんな風に大人が穏やかなのは見たことがない。
「あっ、そう!」
すると子供達が僕に用があったようだ。
「どうしたの?」
「しゅうかい?があるから来てほしいって!」
今日そんなのあったっけ?
まぁいいか。
「ありがとうー、すぐ行く」
*
「あーわかったわかった!」
ん?何やら集会所の前で揉めてる?
「頼むよ!!
アンタならダンライオス様に言ってくれるよな?」
「わーってるって。
けど絶対とは言えねぇって」
「なんでだ!?
ダンライオス様なら俺達の気持ちが分かってくれるはずだぞ!
お前たちはダンライオス様の名前で威張ってるに過ぎない癖に!」
⋯⋯な、なんか凄い事に。
本当こういう時の僕は本当に無力だ。
というのも、こういう時。
街を歩いたりしている時だ。
人と喋らないようにというのが暗黙の掟だ。
さっきは畑の子供達だからだけど、この中心の通りなんかでは別通りの人間が多い。
色々な思惑があるのは理解しているけれど、みんなからそこを念を押されている。
⋯⋯お前はすぐ頷くからって。
そうなんだよね。断るの苦手なんだよね。
あ、ケイの護衛が僕に気づいた。
すぐに手で一生懸命裏から入ってくれとやられる。
⋯⋯ごめんごめん。
面倒事が増えるのは嫌だよね。
「ふぅ」
「今日もお疲れ様です」
「チェシェ達もご苦労様」
みんなが言う。
僕の言葉遣いを変えろって。
もっと威厳がないといけないって。
こういう時は頭になった嫌な部分だ。
さっきの事もそう。
ご苦労様って言わないといけないのもそう。
僕はみんな同じであるべきだと思っているから。
あくまで皆の"やるべき"事が違うだけ。
それを何をしているのが偉いからと、そんなのは嫌だ。
「本日はオコン茶でございます」
「あら」
最近は"オコン会"というのが開かれているらしい。
オコンを使って飲み物にしたり、工夫を凝らした物を作る会なんだって。
⋯⋯僕も行きたい!
なんて言ったら一瞬で駄目だと言われてしまった。
大騒ぎになってしまうからと。
一体何を大騒ぎすることがあるのかと思ったんだけど、もう仕方がない。
「美味しい」
オコン独特の甘味と少し重い感触。
それらが水と口の中で合わさって喉越しが良い。
味わいも良いし、オコン会⋯⋯是非行かせてほしい限りだ。
「今日はオコンの上澄みで作りましたから」
「オコンの品質も上げられるといいけど、今はそれよりも量だね」
「並行して行っていますが、まずは量ですね」
オコンはちゃちゃと違って腹が持ちが良い事で僕達の間では通っている。
けれど量がまだまだ足りない。
収穫量と僕の整えたやり方で速度が上がり、やっと足並み揃えられたか、というくらいだ。
「はぁ⋯⋯死ぬかと思った」
そこへ、疲れきったケイ達が入ってくる。
「ごめんケイ」
「んぁ?いい、いい。
あれくらいマシだマシ」
結構しんどそうだったけど。
「悪いな、わざわざ集会事にしちゃって」
「⋯⋯全然。
意見が出てこないなんて駄目でしょ」
「助かる」
と、更にそこにケイの護衛が見知らぬ男を連れてくる。
「ジョオとクラヴです」
紹介されてお辞儀をしてくる二人。
「あーどうもどうもご丁寧に」
咄嗟のことだったんだけれど、チェシェに視線で怒られてしまう。
⋯⋯まずっ。
「二人は三十二番通りで畑作業をしている人間だ。
後は二人に任せる」
「あっ、ジョオです。
頭、初めまして」
「初めまして」
「今日はお時間を取らせて申し訳ありません」
「大丈夫だよ。
全然取り繕わなくてもいいから。
⋯⋯と問題があったんだよね?」
頷くジョオ。
「実は⋯⋯」
ジョオからの報告はかなり深刻なものだった。
「外れの水不足か」
僕を含めた幹部たちも、これには顎に手を当てて聞いている。
「はい。
二十四番通りまでは比較的マシな状態ではあるのですが、それ以降の水源が遠すぎるというのと、やはり、山で生活をしている者たちの襲撃、様々な理由が挙げられるのですが後半の通りの深刻さが目立ちます」
「かなり優しく言ってくれたのはわかるんだけど、実際は?」
僕の言葉にジョオが見開く。
「正直に申し上げれば、頼りに来た次第です」
「育たない、人も畑も。
そのせいで連鎖が続く⋯⋯そういう感じだね?」
「さすがの慧眼です」
少し考えれば分かることだ。
何故なら僕達こそ一番端っこで育てていたのだから。
⋯⋯完全に全体をどうにかしようとしていた僕の失敗だ。
間違いではないけれど、すぐに取り掛からないといけない事だ。
「食糧は?」
「なんとかなります」
「⋯⋯うん、ならないと思うから、すぐにこの後取りに来て」
「っ、感謝いたします」
深々の頭を下げるジョオ。
「となると、水問題に詳しい人が必要になってくるね」
「それはむじぃ問題だな」
「どういうこと?ケイ」
「水問題は頭に分かりやすく言えば、権力と力、強制力を正しく理由化出来てしまう情報だからだ」
んー⋯⋯なるほど。
「つまり持っていても理由がないから出したくないし、それによる食い扶持や自分の地位が下がるのを恐れているわけだね」
「そういうこった」
オコン茶を飲みクイッと飲み干し、もたれながらケイが答える。
「まだまだやるべき問題が多いね」
「逆に一年でここまで変えられたのは頭の力が全てだ。
そんな顔をする必要はねぇ」
「そうです。
そもそも女がまともに歩きだし、子供が増えているのは頭が付いてからです」
みんなの有り難い言葉に頷く。
「ありがとう」
でも、僕はこんなもので済ますつもりは一切ない。
「でも、まだまだ進むよ」
彼らに利がないのなら、僕がやるしかない。
その為の頭であり、時間と労力をかけるべき問題だからだ。




