閑話:夜華ノ神
「ねぇ、今日お祈りの日だよ!」
「お祈り?」
俺はこの訳の分からない世界に生まれ落ちて結構時間が経つ。
だが周りの言う"大人"とやらにはまだなってない。
⋯⋯つまり子供らしい。
何言ってるか分からん。
「そう!
アウンは知らないか!」
あー、ちなみに今そこで喋ってる女はクララって言うんだ。
生まれ落ちた日から一緒にいるうるさい奴。
なんか最近村とか言う場所にいたんだが、今いる頭?とかいう変な奴が変わったらしくて、村にいる必要がなくなったんだって。
村を守る紫に光る棒は無くなり、大人達は何故か変な顔をしていた。
だが、一人の大人が言うには、少し前まですげぇ人が死んだらしい。
大人同士のガチ殺し合い。
なんで分からんけど、言葉は分からないけど、意味はわかるという訳わからんこの頭。
⋯⋯おかしいよな。
人によっては訳わからん言葉を発しだしたり、知識が出てきたりと、俺はまぁガチャガチャしてて悪くない。
「クララ、お前どうしちまったんだ?」
前まであんなに外に出たがらなかったやつが。
「凄いんだよ!
夜華ノ神!」
「⋯⋯なんてぇ?」
なんつった?今。
「ダンライオス!」
「その⋯⋯なんだ?
ダンライオスってのは」
「ダンライオスが祈ると、風が起こるの!」
⋯⋯そりゃ風は結構いつでも吹いてるんじゃねぇの?
「お、おう」
「あっ、信じてないでしょ!?」
「い、いや?
まぁないことはないかも──」
あっ、イテッ。
腕掴まれた。
「行くよ!」
「え?俺が⋯⋯!?
待てー!!!」
今日はメンカちゃちゃを食べる日なんだよ!?
あれ順番待ちがすごいんだって!!
そんな祈りとかと一緒にするなよ!!
「あー!!!」
*
「すげぇ人だな」
見回したらすげぇいる。
数百はいんじゃねぇの?
「ダンライオス本人が来るんだもん!
もっと来ても良いくらいだよ!」
コイツすっかり馴染んでやがる。
なんか騙されてんじゃねぇの?
「あ、クララちゃん!」
「リユちゃん!」
何やら知り合いらしい。
二人仲良く喋ってら。
⋯⋯帰ろうk──
「っ、」
そう思った時だった。
突然、クララの言う風が変わった気がしたのを感じた。
俺の隣を歩く、何か。
いや、人。
人なんだが⋯⋯。
"誰も気付いていない"──。
「あ、ダンライオス!」
その一言でやっと視線が向けられている。
これだけの集団にもかかわらず、アレだけ発してる風が強いのにも気付かないなんて。
⋯⋯もしかして、"思ったより"なのか?
「ほら、見て!
アウン!」
「あ、あぁ」
思わず言葉が詰まる。
なんだ?
同じ場所にいるのが申し訳なるくらいの何かを感じるんだが。
「ダンライオス!」
嬉しそうな声が聞こえる。
それは広がっていき、当人は笑っている。
すげぇな。
アレが俺達より少し歳上なのか。
「見た?アウン」
「すごいな」
主に、後ろに見える木の揺れ具合がな。
見たことないぞ?あんなに揺れているのは。
「今日もお祈りの為に集まってくれてありがとうね」
そう言ってアイツは笑う。
「てかクララ」
「ん?」
「これって何の意味があるんだ?」
すると答えはすぐに返ってくる。
「祈ると身体の調子が良くなるんだって!」
「あー、なんか気のせいじゃなくて?」
「んーんー?ちゃんとあるよ!」
⋯⋯本当か?それ
「あーその目、疑ってる〜」
「うっせ」
そう言って祈りの時間とやらが始まる。
正直に言うと、なんか変な感じだ。
みんなが祈っている中、俺は見回す。
周りの子供や大人達が祈ってもなんにもなさそうに見える。
──だが。
「⋯⋯⋯⋯」
何かブツブツ言い終わるダンライオス。
背を向けて、ただ膝をついて祈る。
「っ、」
みんなは気付いてはいない。
自然に祈る。
マジで何訳わかんねぇこと言ってんのかと思ったが。
⋯⋯近くに生えている黒草が、少し本当に伸びているのが見える。
それに、鼻に通る風の匂い。
なんだ?
本当に何かが違う。
言葉で説明できるものを超えている。
思わず⋯⋯その祈っている背中から目が離せなかった。
黒い何かが。
いや、夜か。
それがダンライオスの身体に入り込んでる。
空に立ち上る⋯⋯夜。
そうして。
祈りが終わると、今度は。
「ちゃちゃ!?」
「そうだよ?」
この食いもんって⋯⋯あの人が作ったのかよ!?
「ちゃちゃ、のも、トメモ⋯⋯今私達が食べているほとんどがあの人が作った畑で採ったものだよ?」
嘘だろ!!
恩人があそこにいたわ!
「なんか⋯⋯食べ物で釣られてない?」
「え?」
いかん。
そうだった。
「ま、まぁな」
「あ、ダンライオス!」
指差すクララの先には、本当に何故かダンライオスがいる。
「こんにちは」
なんなら、話しかけてきたぞ。
なんかこう、近くで見ると⋯⋯デケェ。
「ど、ども」
「初めて見る男の子だね。
お名前は?」
「⋯⋯アウンっす」
「今日が初めて?」
頷くしかない。
「そっか、クララちゃんの付き添い?」
「そんなとこっす」
「信じてないって言ってました」
告げ口しやがった!
⋯⋯コイツ!!
「あっ、そうなんだ。
ごめんね、来てもらって」
──あれ?
「怒らないんすか?」
嫌だろ、普通にそんな事思われてる奴が居るのは。
「ん?なんで?怒らないよ」
「え、そ、そっすか?」
「何を信じるのかはこの世界の数だけある」
「そんなにあります?」
「⋯⋯あるよ」
小さく何回も頷いて、ダンライオスは言う。
「南ではどんな人間も受け容れる。
信じてなくとも、それを超えて嫌いであろうと。
ただ、一つの根⋯⋯みんなの心の中にある所さえ繋がっていれば」
「心の中?」
「つまり、どんな意見や信じるもの。
あの空ほどある意見が別れ、ぶつかり、散り散りになっても、ただ一つ⋯⋯人は人に依存せず、ただ自分の道を、そして自然と共存する事を忘れないという事。
それさえ守っていれば、人間が本当の意味で崩れることはないよ。
それと比べれば⋯⋯怒る事はないさ」
そう見上げて言うダンライオス。
話がデカイ。
俺達は、俺達の事しか考えていないのに。
「なんでそんなに人のことを考えられるんですか?」
するとすぐに答えるダンライオス。
「恵まれていたからね」
でも、その笑っている顔には、違う物も混じっているように見える。
「こうして出会えたのも、もしかしたら恵まれているのかもしれないっすね」
「そう?
そう思ってもらえて嬉しいよ」
*
帰り道。
「アウン、どうだった?」
「⋯⋯⋯⋯まぁ、悪くはないかもな」
自然、か。
あの奥に見えるやつだろ?
人間、自然⋯⋯ねぇ。
ちょっと調べてみるか。
少しずつ。




