移動と侵略の可能性
夜、話が終わった。
「エオ?」
外にある食事場。
そこでぼうっと眺めていた僕に声をかけてくれるグラン。
思わず見上げていた。
僕にとってはかなり衝撃的で。
「あぁ、グラン」
「商人の話⋯⋯どうだったんだよ」
「うん。
結構⋯⋯衝撃があった、かな」
「そこまで言うか」
────
───
──
「説明しなければなりませんね。
この東西南北。
今エオ殿は南という場所で頭をやっています」
「南ですか」
「はい。
おそらく話題にはなっているとは思います。
⋯⋯他の場所での」
頷く。
「しかし、他の場所での話は聞いても、その出処は誰も知らない⋯⋯特にこの南では」
──やっぱり。
「それにはかなり重要な理由があるということですよね」
笑って商人さんは続きを指を折りながら話してくれる。
「簡単に申し上げると、次の三つです」
・貴族との関わり
・本人の資質
・強制力
一つ目は凄く分かるんだけど、他二つが全くわからない。
「貴族との関わりは言わずとも分かるとは思います」
「そうですね」
「この南では全く話題になりませんが、他の場所では貴族の存在は周知の事実となります」
「周知の事実?」
「はい。
エオ殿はそこのところがかなり欠けているとお見受けしましたので」
風の話程度だ。
だから準備が出来ていない。
「基本的にはこの世界の成り立ちからお話しなければなりませんね」
そう言って話してくれたのは、この世界の歴史を簡単に並べてくれたものだった。
遥か昔。
そこには夜という無限の力を与えられし人間という存在が生まれたとされている。
その人間の名前は明らかにはなっていないが、様々な解釈で語られているためこの場では深掘りはしないとのこと。
ただ、その大いなる人間の子孫が現在十三からなる貴族という存在の祖先であり、強力な夜を扱う事ができる上に特別な場所を独占している事で有名らしい。
力を持ち、それは僕らの力を持ってしても絶対に勝てないほどの差があるとも。
「元々力と権力を持つ彼らですが、一つ不可解ではあるのですが、明らかに関係があることがあるんです」
「聞いてもいいものなんですか?」
「えぇ」
そう言って語りだした事は、僕とも関係あること。
貴族の持つ一番強い力。
それは、街を移動できるゲートを持つこと。
中央にあるゲートから、好きな場所に移動することのできるゲートがあるらしい。
どうやらそれが東西南北移動できることの答えになる。
「資質と強制力ですが」
資質と強制力について、商人さんの見解を話してくれた。
恐らく教養や文明力の差がそれを表していると。
聞いた感じでは、西や北は、まるで別世界のような場所らしく、そこではみんなが頭が良くて、快適な生活を送っているらしいのだ。
⋯⋯全く想像できない。
どういう事なんだろう?
快適な生活が送れるほど資源があるということなのか、統率が取れているのだとかそういう事なんだろうか。
「我々から見た南は、全く進んでおりません。
例えるなら、森の中にある砂粒ほどの差と言っても差し支えありません。
──従って南から移動できる者はほとんどおりません。
そこだけは我々の提案でもなし得ないことですので」
僕達は移動出来ない可能性が高い。
商人さんはそう言った。
「しかし、」
長く深い溜息の後、商人さんは不穏な事を発して帰った。
────
───
──
「⋯⋯え!?
他の場所にいる奴らはこっちに来れるってことは、いつでも勢力を仕込めるってことじゃねぇか!!」
「グラン⋯⋯!」
大声で発しちゃうグランの口を押さえる。
そう。
「いやなんだよそれ。
東、西、北⋯⋯どいつもこいつももしかしたら既にこの南にいるってことじゃねぇか?
今一緒にいる奴らの中でも数人でもいたら⋯⋯」
グランの青ざめた顔。
そう。
今僕は人を疑わないといけない。
しかも、僕達からは外に出ることができないなら、戦力がどれくらい違うのか、文明力がどれだけの差があるのかなど、全く予想もできない。
かなりの手詰まりだ。
「笑えねぇぜ、全く」
「そうなんだ。
だからこそ、食糧と様々な支援物資をくれた商人さん達に感謝を言わないとね」
振り返ると僕達からすれば大量とも呼べる資源。
「食料、武器、有り難いよ」
「だが気をつけねぇといけねぇ。
あの商人も教えてくれたのはいいが、結局隣で見張りたいだけの可能性もめちゃくちゃ高えからな」
⋯⋯そうなんだよね。
それが全く笑えない所でもあるし、拒否する理由がない現状だからこそ難しい所だ。
「集会を重ねないといけないし、戦力強化という意味でも急がないといけないね」
現実と向き合うと、こうも見えてくる綺麗な空の中にある暗闇。
──ベルさん。
こんな世界で戦い続けたあなたは、本当に。




