閑話:南って⋯⋯<3>
「考えてみよう」
私はその一言で何か、異常性のような物を。
声?夜?
──いや。
それよりも⋯⋯本当だ。
まだ若い。
""南""の中ではまだ"子供"じゃないか。
少し離れていたところで見ていた私は心の中でそう発していた。
あんな子供が。
"頭となって、この通りにいる全ての笑顔を引き出したのか"──。
いくら本能で動く野蛮人も馬鹿じゃない。
相当な資質を持った人間なのだろう。
ただでさえ歳が低いと卑下される世界で、あの子供が頭になったことが答えだ。
どの人間もエオ様エオ様と、"夜華ノ神"だと言う。
向かう途中。
何人にも声をかけた。
⋯⋯結果は失敗どころ、惨敗だ。
それほど圧倒的魅力⋯⋯いや、求心力とも呼ぶべきか?
北で最も影響力のあるラムーン教や様々な神という概念を据えたモノと並ぶような存在が今、この瞬間に目の前にいるということだ。
「あれですよね?」
「どうやらな」
部下たちも驚いている。
⋯⋯無理もない。
特に南は年齢や若さで舐められがちだ。
東も似たようなものだが。
"比重"があまりにも違う。
「綺麗な男の子ですね」
一人の部下が呟く言葉が耳に入る。
確かに。
見れば整った顔をしている。
どこか達観しているようで、消えゆく華や詩とも呼べるだろう。
「西で売ったら一体どれくらいの値がつくか」
「言葉にするのは難しいですね」
部下たちの言葉が入る中。
「僕達は産まれながらに力を持っている」
ーー俺達はこの地獄で落ちた日から力なんてねぇんだよ
彼の言葉に、私の頭には、昔の日のドン・ゴの言葉が浮かぶ。
まるで対照的。
そして、汚れてしまったとも言える私を含めた部下たちの言葉も⋯⋯そこで見事に止まった。
「エオ様!」
一人の子供が手を挙げる。
「ん?どうしたの?」
「大人にならないと夜は貰えないのはなんで?」
「それは心と身体がまだ追いついていかないんだ。
その準備期間の為だね。
そしてそれを悪用して、大人達はみんなに美味しい話を持ち込む」
「耳の痛い話だな」
胡座で答える彼の言葉に思わず呟かざるを得ない。
「っ、俺達だって生きる為にですから⋯⋯気にする必要はないですよ」
そんな部下達を他所に、彼の言葉は続く。
「人は自分の為だったらなんでも理由を作れる。
目の前に他の子供のご飯があったら?
例えばお腹が空いていたから。
そこにご飯があったから。
なんでも理由を作れる。
僕達人間はそういう考え方をするようになるんだ」
思わず笑って先程呟いた部下の一人を見てしまった。
なんともバツの悪い顔をしている。
「思己対善。
意見を考えて言う事は素晴らしい事だ。
そして、異なる考え方を思いついた者達が対立⋯⋯つまりぶつかりあった時、それはもっと素晴らしい事だ」
「でも、喧嘩になっちゃわない?」
一人の子供が考えながら呟いている。
「うん。
今までの大人や、子供だったら⋯⋯殴っているかもしれない。
けれど、僕達は人間だ。
考える事ができるよね?
それが悪い事なのか、良い事なのか。
お話ができる⋯⋯喧嘩をしなくても話をする事で更に良い意見が出来ると考える」
心の底から感心する。
あれほど若い少年からそんな言葉が出てくるとは。
⋯⋯後ろで露骨に苛立っている若い奴らが惨めに見えてくるな。
「違う意見をぶつけて、より良いものにしていく。
そうして僕達は高める。
そしてみんなでそれを分け与えるんだ。
自分の物にしたって、それで終わりだよ?
自分が考えたのを人に見せることで、喜んでくれる人がいるし、もっととみんなが欲してくれる。
みんなが作れば、それだけ新しいモノが増えていく。
増えていけば今度はもっと良いものにしようと頑張る。
みんなが頑張れば頑張った分だけ楽しいことが増えるんだ」
なるほど。
これは頭になる為に生まれてきた存在と言える。
⋯⋯圧倒的だ。
ドン・ゴには絶対に出せない言葉だな。
弱者の事を理解し、共生させようとしている。
本人の才でもあるだろうが、自然に出来てるな。
「では質問だ」
彼の瞳は、声を上げた私に向く。
「ん?初めまして⋯⋯?」
微笑みながら首を傾げるダンライオス。
「風の噂であなたの話を聞いて、興味本位で来てみたんだ。
無礼極まりない事は承知で聞いてみたいことがある」
「勿論」
短く、微笑む。
もう少し早く来ていれば、などと嫌味か。
「貴方の話は非常に興味深い。
既存の話とは全く違う⋯⋯かなり革新的な思想だと私は考えます」
「⋯⋯ありがとうございます」
「しかし疑問も感じているのも事実です」
「それは?」
「あなたは先程、全員が作って送り合うと言った。
しかし送らずに受け取る者が増えていく⋯⋯そんな未来も見えるように感じてしまった。
貴方の意見を聞きたい」
少し意地悪だろうか。
これからだという彼に、私は面倒なことを言ったな。
「ありがとうございます。
鋭い質問だと感じます」
「畏まる必要はないですよ。
私は商人ですから整えているだけですので」
「じゃあ楽にするね。
っと、今の質問で僕から言えることは、その受け取るだけ⋯⋯ということに本人が気付く事も人生だと言える」
「──ほう」
面白い。
とても南で産まれた人間とは思えんな。
「貴方の疑問はもっともだ。
しかし僕が言いたいことは、そういう心は長くは続かないだろうと考える。
僕はそんな人間も受け入れ、いつか同じように喜びを共有できるような存在になってもらえる事を願うよ。
人間とは過ちがあってこそ。
なぜ受け取る事だけになってしまうのかを一緒に考えれば良いのだと思う」
「⋯⋯ありがとうございます」
私達ははにかみながら会釈を交わす。
そしてそのまま続く彼の話を背に、私達はこの場を後にする。
道中、部下たちのどんよりとした表情を目の前にする。
「負けるな、馬鹿者」
「っ、」
「どれくらい生きているんだ」
確かに。
歳下のガキがあんな明確に、しかも言われたらすぐに即答出来る教養の高さ。
天然で人を巻き込み、弱者を救っていく。
なるほど。
神と心酔される訳だ。
「今後も付き合いを良くしていく必要がありそうだな」
あのような相手は何が喜ぶだろうか?
取引も慎重しなければな。
「面白い少年だ」
柄にもなく、コネを作る楽しみが増える。




