閑話:南って⋯⋯<2>
「ねぇー今日は十三番に行こー!」
──ん?
「ほらほらー!
ちゃちゃ食べていきな!!」
「え?本当に!?」
なんなのだ?
ここは"一体何処"だ?
私は両手に商いの代物を手に。
そして、私の背にいる部下たちも口をあんぐりしている。
⋯⋯それもそうだ。
──"南"。
そう。南といえば⋯⋯文明が"未発達"の地域。
しかも、来れる者が少数の⋯⋯言うならばある種精鋭とも呼べる場所だ。
野蛮な者しかおらず、言語が通じない子供もいるし、死体の山を築いてコレを食事と言うまさに選ばれし歩く公害が跋扈する場所であったはずだ。
まぁ、他の地域も原始的な欲求はあるとは言えど、ここ南においては本当に酷い。
そんな場所で⋯⋯笑い声だと?
「トルペさん、ここって"本当に南"ですか?」
「わ、私も驚いて言葉にならん」
商い⋯⋯と言っても、現状はある意味人身売買に近い事業をしている。
残念ながら、少し前に話したあの青年と同じく、西にいる者達は非常に美醜で言うところの醜が多い。
しかしこの南が最たる例だが、顔だけは美的感覚が正常な人間からすれば"優れ過ぎている"というのが私の見解だ。
まぁ、一言でまとめるとだな。
つまり男も女も⋯⋯非常に素材が良い。
しかし素行、所作、様々な点で獣と何ら変わらない。
それは比喩表現ではなく、本当にそこら辺で暴力行為、性行為が行われているのが現実であり、死体が転がり、食べかすが転がり、ある時は性別関係なく身ぐるみ剥がされた状態でかつ凄惨な姿で転がっているという、思わず口を塞ぎたくなる場所だったのだ。
それが、笑っている子供?
あの化物のような大人が子供に食物を分け与えているだと?
「ど、どうします?
トルペさん」
「ひとまずは周るぞ」
我々も一応、食事の提供や様々な取引に対応した商品を持っている。
幾らでもやりようはある。
*
「んぁ?なんで?」
「っ、食事が与えられる生活だぞ?」
まさかこの南で鼻くそをほじくるような奴らが⋯⋯提案を拒否するだとっ。
「食事なら⋯⋯まぁ毎日食えてるしなぁー」
「どうせ食事とは言っても、大したものではないだろう?」
「まぁアンタの言う通りだよ。
けど、この南⋯⋯今すげぇ空気がいいんだよ。
俺にも声を掛けてくれてよ。
今、毎日植物の様子を書いてるんだぜ!」
た、確かに。
空気というか、明らかに何かが違うのは肌で感じる。
「植物の記録だと?お前が?」
女のけつを追いかける以外何を考えているかわからないヘンテコなコイツが?
「ん?あぁ」
「なんでそんなことを任されてる」
「え?なんでって。
頭が直々に来て、よろしく頼むねって」
「頭が?」
「あぁそうだぜ?
あぁ、そこに居るあいつも似たようなことをやってるぜ?」
指差す先には女の集団。
「女で固まって平気なのか?」
「本当なぁ」
コイツは老人みたいに遠い目で見ている。
前なんて女一人で歩けば地獄絵図だったはずだが。
「ん?
というよりも、つまり頭が正式に決まったのか」
「んぁ⋯⋯商人のアンタは知らねぇのか」
「ん?」
私はこの場所で知らないことなどあったかと考えを巡らせる。
「エオっていう若い大人が頭になったぞ」
「⋯⋯誰だそいつは」
思わず脊髄反射で返事をしてしまった。
エオ?誰なんだその男は。
「太ってる男ではなく?」
「ドン・ゴだろ?
死んだよ、ソイツは」
背に立っていた部下も含め、私も動揺を隠せないでいた。
死んだ?
あのドン・ゴが?
徹底的に追い詰め、慈悲もクソもない自我が全面に出てきたような男だぞ?
「アイツ⋯⋯何をしくじったんだ?」
「まぁ⋯⋯でも、しゃーねぇと思うぜ?
相手がわりぃよ」
「見ていたのか?」
「まぁな。
凄かったぜ。
あれこそ言い伝えみたいになってもおかしくねぇよ」
聞けばまさに夜の華だと言った。
迫りくる炎を避け、雷の龍が駆け、全てを呑み込んだ。
エオという男の周りには華が集まったようで、ドン・ゴの周りは苦しそうな人間が集まっていたと。
まぁ、アイツの中身は終わっているからな。
──仕方あるまい。
「お前から見て、そのエオとかいう頭はどう見えている?」
「どうって⋯⋯」
情報がなければ色々とまずい。
ドン・ゴによる支配で私も利をかなり貰っていた身だ。
新しい頭が定めた掟というのは何処の領域においても重い。
「まぁ⋯⋯間違いなく、一番神って奴が居たのならソイツなんだろうなーってくらいか?」
「神?なんだそのデカイ評価は」
「デカくねぇさ。
俺はそう思ってる。
あの場に居なかったから、そうだよな」
「なんだ、聞かせてくれよ」
「いや。
多分言われたところでわからねぇ」
その眼はどこまでも真っ直ぐだった。
南でこんなに透き通った瞳を初めて見たかもしれん。
「昔、神ってのがいたらしいじゃんか。
南でもそういう話は残ってる」
「あぁ、何人もの人間が残しただろうからな」
「多分神の生まれ変わりなんだよ。
アイツが」
まるで憑き物が付いたような信仰具合だ。
気になるな。
「まだ若いのだろう?」
「あぁ。
だが、今までもそうだったじゃねぇか」
やつは続ける。
「強えやつが支配して、俺らを土と同じように扱って。
力が強い奴なら歳なんて関係ねえって。
⋯⋯なんかそういうのじゃねぇんだよ」
「ほう」
「もっと深いところっつーか、まっ、今じゃあ夜華ノ神って呼ばれてる」
「そこまでか」
──今日もあるんだって!
突如として、私達の近くを通り過ぎるガキの声。
「なんだ?」
「あー。今日もあるのか」
「何があるんだ?」
「ん?
ダンライオスによる、世界の話」
私は、そのダンライオスに非常に興味を持った。
どんな考えを持ち、どんな人間なのか。
「情報感謝する」
手土産に食料を渡し、走り抜けるガキ共の背を歩いて私たちは追いかけた。




