閑話:南って⋯⋯<1>
100だー!
私の名前はトルペ。
大人になって歳なんぞどうに忘れた。
まぁ恐らくだが、90は過ぎたんじゃなかろうか。
「あっ、トルペ様!」
受付の彼から一通受け取る。
「久しぶりだね、確かお前の名前は⋯⋯アル⋯⋯」
「アルムーでございますよ、トルペ様」
そうだ。
そんな名前だった。
「ここも変わらずだな」
私はイルビゾンを見上げて思わずそう漏らす。
それもそうなのだ。
世界が変わろうとも、この通りは不変不滅。
貴族が管理し、"世界を移動"する為の道具。
絶対利権。
「貴族とは羨ましいものだな」
「仰られる通りですね」
これだけで一体どれくらいの""""富""""を得られるのか。
"""力"""を得られるのか。
「不躾にはなってしまうのですが興味本意で訊ねても?」
「どうした?
まぁ商人である私だからな、失礼は聞き流そう」
私のような存在は多くはない。
気になってしまうのは仕方ないというものだろう。
「通行履歴に南と東、そして最後西が最終的な記録ですが、西とはどんな場所なんでしょう?」
「ふむ」
私は少し悩み、言い放つ。
「そうか。
君は行ったことがないのか」
「⋯⋯はい、悲しい事に」
「まぁな。
移動をするのは困難を極めるからな」
場所の移動は凄まじい負荷と条件を引き受ける必要がある。
それに貴族とのコネもある程度必要であるし、"知識や教養"というものがないと移動も不可能だ。
そうやって何人もの人間の死体の山を築いた程だからな。
「西は⋯⋯顔と金だ」
「顔と⋯⋯金?」
本気で何を言ってるんだ?と言う顔だ。
それも仕方あるまい。
「君は西に行ったらまず間違いなく有利な立場まで行けそうだな」
「何故です?」
「顔が良いからだ」
「⋯⋯⋯⋯なるほど?」
私はざっくりとした説明をする。
懐から取り出した一つの容器を使い。
「君にはこれが何に見える?」
「飲み物を入れるものでは?」
「君はこれが欲しいと仮定する。
どうやって貰う?」
「んー⋯⋯相手の要望を聞くとかじゃないですかね?
それか自分の持っているものを渡すとか」
首を傾げ、そう返答する彼。
「ふむ、例えば西であるならば、この器に値をつける」
「値?」
「これをそうだな、10トーだとしよう。
君は10トーを持っていなければこれを手にする事はできない」
「なるほど?」
「物ではなく、10トーという金を手にする為に君は別の事をしたり、または新しい物を作って金を手にして10トーを払うという事だ」
「なるほど!」
「西ではそういう考え方をする。
金で全てを手にする⋯⋯そういう世界だ」
「では顔というのは⋯⋯」
「一緒だ。
私達が感じるこの女がキレイだとか男がいいだとか。
そういうのも金で取引するのだ」
「そう考えれば、商人であるトルペ様は凄まじい成果をあげそうですね」
にこりと笑う彼に私は少し自慢をする。
「勿論だとも。
金ならば既にある。
最近もデキスス卿によって移動にかかる費用を抑えてもらっている」
「やはり違いますね」
⋯⋯と。
「長話のお時間失礼いたしました。
今回の希望はどの場所へ?」
「南だ」
私は即答する。
「南⋯⋯でございますか?」
「あぁ、ある男と交わした約束があってな。
折角手にしたのだからここで行かないと怒る未来が丸見えだ」
ッたく。
ドン・ゴめ。
私に散々利用させた分をきっちり回収させやがって。
──覚えておけよ。
「では、こちらから」
私は歪む世界を前に、笑う。
「行ってくる」
横を通り過ぎ、私達は世界に向かった。




