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EP 8

化学調味料チートと、竜王の完全敗北

「我の『究極の豚骨スープ』と、貴様らのスープ……どちらが上か、勝負だ!!」

ポポロ村の広場。

世界最強の調停者・竜王デュークの宣言により、世界の存亡を賭けた前代未聞の『ラーメン対決』が幕を開けた。

「よかろう。受けて立つ」

俺が応じると、デュークはニヤリと笑い、持ち込んだ特注の魔導リヤカー(屋台)の奥から、使い込まれた巨大な寸胴鍋を取り出した。

「見よ! これぞ我が何百年もの歳月をかけ、豚の骨を煮込み、灰汁を取り、血を抜き続けた……至高の豚骨スープである!」

デュークが指先から微弱な『竜の炎』を放ち、寸胴を一気に温める。

フワァァァッ……と広場に広がったのは、臭みを一切感じさせない、それでいて圧倒的な深みを持つ、暴力的なまでに芳醇な豚骨の香りだった。

「す、すごい……!」

ルナキンの厨房から飛び出してきたヒエンが、そのスープを見て驚愕の声を上げた。

「骨の髄まで完全に溶け切っているのに、スープが黄金色に透き通っている! どれだけの労力と繊細な火加減があれば、こんな芸術品が……っ!」

デュークは流れるような神速の湯切り(テボの扱い)で麺を器に放り込み、黄金のスープを注いだ。

「完成だ。食すがいい」

ドンッ!と出されたその一杯を、料理人であるヒエンが震える手で味見する。

「……ッ!!」

ヒエンが目を見開いた。

「美味い……! 濃厚なのに口当たりはシルクのようになめらかで、後味はどこまでも上品……。親父のレシピを、純粋な『技術』と『時間』だけで神の領域まで昇華させている……!」

ヒエンの敗北宣言ともとれる絶賛に、デュークは葉巻を吹かしながらフハハハッと高笑いした。

「当然よ! これぞ竜王の誇り! さあ、次は貴様らの番だ。あの厨房で漂っていた『強烈な匂い』の正体、見せてもらおうか!」

デュークが俺を指差す。

俺は、ヒエンが先ほど作った試作品の『もやしマシマシ豚骨ラーメン』をカウンターの上にコトンと置いた。

「ヒエン。お前の作ったベースのスープは完璧だ。だが、デュークの言う通り、少し『お上品』すぎる」

「店長……?」

俺は丼の前に立ち、空中に【世界編集】のウィンドウを展開した。

「デューク。お前のラーメンは確かに芸術品だ。だが、お前は『現代の人間』の舌が何を求めているのか、全く理解していない」

「なんだと?」

カタカタカタ……ターンッ!

ーーー

【対象】ヒエンの作った特製ラーメン

【属性追加】『純度100%のグルタミン酸(昆布の旨味)』および『イノシン酸(鰹節の旨味)』を強制抽出・凝縮してスープに付与。

【効果】『化学調味料(ジャンクな旨味)』のシナジー効果を最大化。

ーーー

俺がエンターキーを叩き込んだ瞬間、丼の中のスープが、一瞬だけ怪しいケミカルな光を放った。

「て、店長ぉっ!? 今、俺のラーメンに何しました!? なんかプログラムのコードみたいなので、直接『成分』を書き換えませんでした!?」

ヒエンが悲鳴を上げる。

「気にするな。現代日本が誇る最強の魔法、『化学調味料チート』だ」

「フン、小賢しい真似を。どれ、味見してやろう」

デュークが胡散臭そうに箸を持ち、俺が「編集」したジャンクラーメンのスープを一口啜り……麺をズズッと口に運んだ。

「……む?」

デュークの動きが、ピタッと止まった。

その見開かれた竜の瞳孔が、極限まで収縮する。

ガァァァァァァァァァンッ!!!!

デュークの脳天に、雷が落ちたような衝撃が走った。

(な、なんだこの暴力的な『旨味』は……ッ!?)

繊細さなど微塵もない。

ただひたすらに脳の報酬系をダイレクトに殴りつけるような、強烈で、下品で、圧倒的なパンチ力。

数百年かけて竜王が極めた「自然の旨味」を、現代科学の結晶である「純度100%の旨味成分バグ」が、力任せに粉砕したのだ。

「……あ、あぁ……っ」

ズズッ。ズズズズズッ!

デュークの手が止まらない。

「下品だ! 何という下品な味だ! ……だというのに、箸が止まらん! もっと、もっとこの『毒』を身体が欲してしまう……ッ!」

ワシャワシャワシャッ!

威厳ある竜王が、髪を振り乱し、もやしと麺を貪るようにかき込んでいく。

その頬を、一筋の美しい涙が伝い落ちた。

「……思い出したぞ。あの男……太郎が、夜泣きそばを啜りながら言っていた言葉を……」

デュークは、空になった丼を抱きしめながら、ポロポロと涙を流した。

「『ラーメンってのはな、体に悪いと分かっていても、スープの最後の一滴まで飲み干したくなる……そういう罪の味が一番美味いんだ』……と」

「どうだ、デューク。負けを認めるか?」

俺が腕を組んで見下ろすと、デュークは丼を置き、深く、深く頭を下げた。

「……見事だ。我の完敗である。貴様のその『魔法のチート』の前に、我が数百年の修行は児戯に過ぎなかった……」

「わっ! 親父の親友の竜王様が、店長の化学実験みたいな料理に屈したぁぁっ!」

ヒエンが頭を抱えて叫ぶ。

「素晴らしい味だった。……リクトとやら。我も、この村の『ルナキン』とやらで、貴様の下で働かせてはもらえんか。この究極の『罪の味』を、我も極めてみたいのだ!」

世界最強の竜王が、時給850Gのバイト志願者として頭を下げてきた。

「ああ、構わないぞ。ヒエン、明日からデュークに皿洗いと仕込みを教えてやってくれ」

「えっ!? 俺が、あの竜王様をアゴで使うんですか!?」

ヒエンが完全にパニックに陥っている。

こうして。

過労の不死鳥、パチンカス神狼に続き、最後の調停者である竜王もまた、ポポロ村の「ジャンクフード」の前に陥落した。

最強の神獣たちをすべて「従業員」と「ニート」に変えてしまったポポロ村。

だが、その事態を重く見たルナミス帝国が、ついに「物理的な暴力」ではない、国家の最強権力(最終兵器)を村に差し向けてくるのだった。

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