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EP 9

帝国の最終兵器(国税庁)vs 堕落した調停者たち

「……陛下。恐れながら申し上げます。東の竜王、西の不死鳥、北の狼王。三柱の調停者様からの通信が、完全にロストいたしました」

ルナミス帝国・皇城。

財務大臣の絶望的な報告に、皇帝は力なく天を仰いだ。

「馬鹿な……。世界最強の神獣たちが、たかだか一介の辺境の村に全滅させられたというのか……!?」

『ポポロ村・ふるさと納税』によって帝国の税収は完全に枯渇。その上、最後の希望であった調停者たちすらも音信不通。

もはや帝国に、軍を動かす金も、頼るべき神も残されてはいなかった。

「……こうなれば、手段は選ばん」

皇帝は、血走った目で立ち上がった。

「我が帝国が誇る、最も冷酷にして無慈悲なエリート部隊……『帝国国税庁・特別査察部マルサ』を出動させよ! いかなる手段を使っても、ポポロ村から我が国の税収を『差し押さえ』てこい!!」

魔王よりも恐ろしいとされる、国家権力の狗たち。

彼らは血も涙もなく、ただ「帳簿」と「法律」だけを武器に、標的のすべてを骨の髄までしゃぶり尽くす、帝国最後の切り札であった。

――その数日後。ポポロ村、広場。

「……ここが、我が帝国の税収を不当に吸い上げているという、忌まわしき村ですか」

黒塗りの高級馬車から降り立ったのは、黒いスーツに銀縁眼鏡をかけた、神経質そうな男・査察官ゼットだった。その後ろには、武装した国税局の特務騎士たちが数十人控えている。

「ポポロ村の村長、および責任者はどこですか。帝国国税庁です。これより、国家反逆罪および巨額の脱税の疑いで、この村の全資産、ならびに『ポポロの湯』および『ルナキン』を強制差し押さえいたします」

ゼットが冷徹な声で宣言すると、ルナキンの入り口から、エプロン姿の俺とキャルルが歩み出た。

「脱税とは人聞きの悪い。俺たちは正当な『ふるさと納税』のシステムに則って寄付を受け取っただけだぞ」

「そのシステムの存在自体が、我が国の法に反していると言っているのです」

ゼットが眼鏡を中指で押し上げる。

「抵抗するなら、武力を行使してでも全資産を没収します。……特務騎士隊、やれ。まずはあの忌まわしい温泉施設とファミレスを破壊しろ!」

「はっ!」

特務騎士たちが剣を抜き、ルナキンへと足を踏み出そうとした、その時だった。

「……ちょっとぉ。あんたたち、誰の許可を得て『ポポロの湯』を差し押さえるって言ってんのよ」

ドゴォォォォォォンッ!!

温泉施設の方から、凄まじい熱波と共に、真紅の炎が吹き荒れた。

現れたのは、色っぽい浴衣姿で、頭にタオルを乗せた絶世の美女――不死鳥フレアだった。

「なっ……ふ、不死鳥フレア様!? なぜあなたがここに!?」

ゼットが驚愕に目を見開く。

「私が毎日、どれだけこの温泉とマッサージチェアを楽しみに生きてると思ってんのよ! 私の『有給休暇』を邪魔する奴は、帝国だろうが何だろうが、チリ一つ残さず焼き尽くすわよ!!」

フレアの背後に、巨大な炎の翼が顕現し、特務騎士たちがその圧倒的な神気に悲鳴を上げて後ずさる。

「ま、待て! ひるむな! 相手が調停者様であろうと、我々は国家の――」

「おい、てめぇら」

ゼットの言葉を遮るように、今度は村の裏のキャベツ畑から、凄まじい冷気(絶対零度)が這い寄ってきた。

泥だらけのボクサーパンツ一丁で、肩にクワを担いだ金髪の青年――狼王フェンリルが、血走った目で国税庁の面々を睨みつけていた。

「この村の資産を没収するだァ……? ふざけんな! 俺がこのクソみてぇな畑仕事で借金返さねぇと、あの『魔導パチンコ』は復活しねぇんだよ! 俺の確変(夢)を奪おうってんなら、まとめて氷漬けにして砕くぞ、コラァ!!」

借金奴隷に堕ちたパチンカス神獣の、あまりにも底辺すぎる殺意。

しかし、その冷気は本物であり、周囲の地面がピキピキと凍りつき始める。

「お、狼王フェンリル様まで、なぜそんなハレンチな格好でクワを……っ!?」

ゼットの顔から、完全に血の気が引いた。だが、絶望はまだ終わらない。

「ええい、騒々しい! 仕込みの邪魔だ!」

ルナキンの厨房の裏口がバンッ!と開き、頭にタオルを巻き、白い前掛けをした渋いイケオジが現れた。

その手には、湯切りのための『テボ』と、巨大なお玉が握られている。

「りゅ、竜王デューク様……! まさか、貴方まで……!」

「国税庁だか何だか知らんが、今、我が作り出した『究極のジャンク豚骨スープ』が良い感じに乳化しているのだ! 厨房を差し押さえるなどと抜かしてみろ。貴様らを豚骨と一緒に三日三晩煮込んで、灰汁アクにして捨ててくれるわ!」

究極の化学調味料の前に敗北し、ラーメン作りの新たな極致に目覚めた竜王。その黄金の瞳が、特務騎士たちをアリを見るような目で見下ろす。

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

「バ、バカな……! 我らが帝国の守護神たる三柱の調停者様たちが、全員、この村の……温泉と、パチンコと、ラーメンの虜になって、用心棒をしているだとぉっ!?」

ゼットは、ついに膝から崩れ落ちた。

世界最強の神獣三柱。

彼らが放つ『温泉を守りたい(有給)』『パチンコ打ちたい(確変)』『ラーメン作りたい(仕込み)』という、あまりにも俗物すぎる、しかし絶対的なまでの殺意。

帝国の最終兵器である国税庁のエリートたちも、世界のルールそのものである彼らの前では、手も足も出なかった。

「……査察官さんよ」

俺は、腰を抜かしているゼットの前に立ち、ニヤリと笑いかけた。

「見た通り、この村のセキュリティは世界最高レベルなんでね。差し押さえに来たんなら、この『三柱の神』を倒してからにしてくれよ」

「ヒッ……!! て、撤収!! 全軍、ただちに撤収ぅぅぅぅっ!!」

ゼットは銀縁眼鏡を落とし、泡を吹いて気絶した特務騎士たちを馬車に放り込むと、逃げるように帝都へと走り去っていった。

俺は【世界編集】のキーボードを一度も叩くことなく、完全勝利を収めた。

「ふぅ……。さ、仕込みに戻るぞ、ヒエン!」

「はいっ、デューク先輩!」

「あーあ、汗かいちゃった。もう一回お風呂入ろっと」

「おいルナ! 今の働きで借金100Gくらいチャラになっただろ! パチンコ打たせろ!」

「黙ってキャベツ千切りにしろ、この駄犬」

ポポロ村の日常は、何も変わらない。

ただ、帝国の最終手段すらも退けたことで、この村はついに、誰にも干渉されない『絶対不可侵の独立国家(スローライフ圏)』へと至ろうとしていた。

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