EP 6
沼には沼を。フェンリル、借金奴隷に堕つ
「一瞬でこの村ごと、絶対零度で氷漬けにしてやるよ……!」
ポポロ村の広場。
チャラ男にして世界最強の神獣・狼王フェンリルの背後に、無数の『氷の狼』が顕現し、村の空気が一気に氷点下へと冷え込んだ。
ガチギレしたルナが爪を立て、クロエがポーションを構える。
だが、俺は前に出て、空中に【世界編集】のウィンドウを展開した。
「……あのバカを武力で止める必要はない。あいつの弱点は『暴力』じゃない」
カタカタカタ……ターンッ!
ーーー
【対象】広場の中央の空き地
【属性変換】『超絶射幸心煽り型・魔導パチンコ&ガチャ複合機(ポポロ村エディション)』を強制構築。
【確率設定】大当たりの確率を『0.0000001%』に設定。ただし『激熱のハズレ演出』の発生率を99%に設定。
ーーー
俺がエンターキーを叩き込んだ瞬間、広場の中央に、村の景観を完膚なきまでにぶち壊す『巨大な遊戯台』がズドォォォン!と出現した。
ピカピカピカピカッ!! キュインキュインキュイーーーンッ!!!
目に突き刺さるような極彩色のLEDイルミネーション。
腹の底に響く重低音のBGM。
そして、中央の巨大な魔導モニターには、『激熱!』『CR神狼の野望!』という文字が踊っている。
「……な、なんだこれ?」
殺気を放っていたフェンリルの動きが、ピタリと止まった。
彼の『ギャンブル狂』の血が、その禍々しいまでの光と音に本能的に反応してしまったのだ。
「狼王フェンリル。村を潰す前に、俺と『勝負』しないか?」
俺は魔導パチンコ台の横に立ち、ニヤリと笑った。
「この台の『大当たり』を一発でも引けたら、金貨1億枚でも、この村の権利でも、好きに持って行っていい。だが……手持ちの金が尽きたら、お前の負け。この村でタダ働きしてもらう」
「はっ! 俺様を誰だと思ってんだ? 帝都の裏カジノもパチンコ屋も、俺の『引き』の前に全店出禁になったんだぜ! そんな怪しい台、一瞬でぶっ壊(当て)てやるよ!」
フェンリルは氷の狼たちをあっさりと引っ込めると、チャラい足取りで台の前に座り、懐から帝国の前金としてもらった『金貨』の束を惜しげもなく投入した。
「さぁて、お手並み拝見と……」
フェンリルがレバーを叩いた瞬間。
ピロリロリロリロリロ……ギュイィィィィンッ!!!
台が激しく振動し、画面の背景が『赤』から、最高期待度の『ゼブラ柄(金)』へと変化した。
「な、なんだと!? 1回転目からゼブラ柄!? しかもこのバイブレーション……激熱じゃねーか!!」
フェンリルが台に顔を近づけ、目を血走らせる。
『リーチ! 魔王を倒せば大当たり!』
画面の中で、デフォルメされた勇者が魔王に立ち向かう。
「いけっ! いけぇぇぇっ! そこでカットインだろぉっ!」
フェンリルが台のボタンをバンバンと叩く。
キュインキュインキュイーーーンッ! 『確定!?』
「っしゃあああああっ! もらったぁぁぁっ! 俺の勝ちだぁぁぁっ!」
フェンリルが両手を突き上げて歓喜の雄叫びを上げた。
――プシュン。
しかし次の瞬間、画面はブラックアウトし、『ハズレ』の文字が虚しく表示された。
「……は?」
フェンリルが固まる。
「あー、惜しいですねぇお客様! 今の『確定(?)』は、最後にハテナマークが付いているので、信頼度98%のハズレ演出です!」
俺が横からマニュアル通りの煽りを入れると、フェンリルはギリィッと歯ぎしりをした。
「くそっ! ふざけんな! でも、今の挙動……完全に『波』が来てる! この台、設定入ってるぞ! 次は絶対当たる!」
ギャンブラー特有の、全く根拠のないポジティブ思考(確証バイアス)。
フェンリルは、再び金貨を台にぶち込んだ。
――それから、3時間が経過した。
「あ、当たれぇ……。頼む、そろそろ当たってくれぇ……っ」
台の前に座るフェンリルは、もはや最強の神獣としての威厳など微塵もなかった。
目は落ち窪み、汗と脂で髪はベタベタ。タバコを咥える手は震えている。
「激熱……また激熱だ……! 今度こそ……!」
プシュン。『ハズレ』。
「あああああああああっ!! なんでだよぉぉぉっ! 確率おかしいだろぉぉぉっ!」
フェンリルが台に突っ伏して咽び泣く。
無理もない。俺が『大当たり確率0.0000001%』に設定し、脳汁が出る演出だけを無限に見せ続ける「底なし沼」にしているのだから。
「お客様ぁ。手持ちの金貨、もう尽きたみたいですねぇ。勝負あり、ということでよろしいですか?」
俺が冷酷に宣告する。
「ま、待て! まだだ! 俺の『神獣の毛皮』と『氷の魔剣』を質に入れる! これで100万Gのクレジットになるだろ! あと1回転回せば絶対当たるんだ! 俺のゴーストがそう囁いてるんだよぉっ!」
フェンリルは狂ったように身ぐるみを剥がし、台にねじ込もうとする。
「……本当に、見苦しいですね」
冷ややかな声が、広場に響いた。
ルナが、腕を組み、かつてないほど「ゴミを見るような目」でフェンリルを見下ろしていた。
「な、なんだよルナちゃん! 今、確変入りそうなんだよ! 同族のよしみで、ちょっと金貸してくれよ!」
「誰が貸すか、このクソボケパチンカスが(※ルナミス語での丁寧な罵倒)」
ルナは、フェンリルの首根っこをガシッと掴み、台から強引に引き剥がした。
「ご主人様との約束通り、金が尽きたならこの村でタダ働き(借金返済)してもらいます。……ほら、立て」
「い、いやだぁぁっ! あと1000G! 1000Gだけでいいからぁぁっ! 遠隔だ! これ絶対店長ボタン押してるだろぉぉぉっ!」
情けない悲鳴を上げる狼王の手に、ルナは無慈悲に「錆びたクワ」を握らせた。
金貨のみならず、身ぐるみ(装備)まで台に突っ込んだため、現在のフェンリルの服装は『ヨレヨレのボクサーパンツ一丁』である。
「クロエちゃん、この『下働き』に、村の裏の『ネタキャベツ畑』の開墾を命じます。逃げようとしたら、足の腱を凍らせてください」
「はいですぅ! わたくし謹製の『労働意欲が湧く(痛覚が倍増する)ポーション』もぶっかけておきますぅ!」
「ひぃぃぃっ!? や、やめろ! 俺様を誰だと――痛ぁぁっ!?」
ルナとクロエに容赦無く蹴り飛ばされながら、パンツ一丁の世界最強の神獣は、広場の端にあるキャベツ畑へと引きずられていった。
「……完璧だな。これで労働力(トラクター代わり)も確保できた」
俺は、用済みとなった魔導パチンコ台を【世界編集】でサクッと消去しながら、満足げに頷いた。
こうして、帝国が放った第二の刺客は、魔法を一発も撃つことなく、現代の闇に呑まれ、ルナの『パシリ(小作農)』へと堕ちたのだった。
残る調停者は、ただ一柱。
だが、その男は、今までのポンコツたちとは少し毛色が違う『厄介なこだわり』を持っていた。




