EP 5
パチンカス神狼襲来! 激怒するメイド(ルナ)
「あっつい! あー、もうあっついなぁ!」
不死鳥の親子がポポロ村のスローライフに完全に取り込まれてから、数日後。
村のメインストリートを、チャラチャラとした足取りで歩く一人の青年がいた。
水色の開襟シャツをだらしなく着崩し、口にはタバコ(マルボロのアイスブラスト)。金髪にメッシュを入れたホストのようなルックスだが、その背中には、彼が強大なる神獣『狼王』であることを示す、冷気を纏った銀色の尻尾が揺れていた。
「せっかく『CR異世界王道トラックでドン!』が確変入ってたのに、なんで俺がこんな田舎村までお使いに来なきゃなんねーの。フレアのババアがさっさと仕事終わらせないからだろ、マジで使えねーな」
狼王フェンリルは、タバコの煙をプハーッと吐き出しながら悪態をついた。
皇帝からの「ポポロ村を潰せば金貨1億枚」という依頼は、パチンコで借金まみれになっていた彼にとって、まさに渡りに船のシノギだった。
「1億ありゃ、またトラックで全ツッパできるな。あー、はやく終わらせて帝都のネエちゃんの家に帰ろ」
彼がそんなクズすぎる独り言を呟きながら、村のファミレス『ルナキン』の前に差し掛かった、その時だった。
「――お待たせいたしました! 冷やし中華、お待ちのお客様ぁ!」
ルナキンのテラス席。
フリルのついたエプロンドレスを身に纏い、狼の耳と尻尾をパタパタと揺らしながら、忙しそうに料理を運ぶ一人の少女がいた。
「ん……? なんだあの子。めっちゃ可愛いじゃん。しかも、あの耳と尻尾……俺と同じ『神狼族』かよ」
フェンリルのナンパ・レーダーがピコンと反応した。
彼はニヤリと笑うと、タバコをポイ捨てし、チャラい足取りでルナに近づいていった。
「よぉ、そこの可愛いお姉さん! こんな辺境の村でバイトなんてウケるんだけど! 俺と一緒に帝都に帰って、甘い汁吸わない? 俺、こう見えても世界最強の神獣だからさ、お金には困らせないよ?(舎弟が払うから)」
フェンリルは、ウィンクをしながらルナの肩に馴れ馴れしく手を置こうとした。
「……は?」
ルナは、手元のお盆をスッと引き、フェンリルの手を避けた。
「お客様、ナンパはお断りしております。それに、神狼族の誇りを捨てて、チャラチャラと俗世の遊びに現を抜かすような殿方に、わたくしは興味がありませんぅ」
ルナが冷ややかな視線を向ける。
「ははっ、ツンデレかよ! いいじゃん、俺も神狼の頂点、狼王フェンリル様だからさ。種族のトップ同士、仲良くやろうぜ!」
「……フェンリル?」
ルナの動きが止まった。
「そうそう! 聞いたことあるっしょ? ルナミス帝国の裏社会じゃ、俺の顔パスでどこでもタダで遊べるんだぜ。今もね、皇帝から『この村を潰せ』って金貨1億枚で頼まれてるんだけどさ。君が俺の女になるなら、この村の命くらい助けてやってもいいぜ?」
フェンリルは、完全に「ヒモ男が女を口説く時の常套句」でルナを丸め込もうとしていた。
だが、ルナの反応は、彼の予想を大きく裏切るものだった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
ルナの背後から、氷点下の殺気が立ち昇った。
彼女の銀色の髪が逆立ち、狼の瞳が、本能的な怒りで鋭く細められる。
「……あなたが、あの『フェンリル』ですか」
「え? おう、そうだけど……」
「わたくしたち神狼族の祖にして頂点でありながら、調停者の仕事をすべて不死鳥様に丸投げし」
「お、おう?」
「毎日パチンコと女遊びに明け暮れ、挙げ句の果てに、帝国から小銭をせびって、わたくしの大切なご主人様の村を潰そうとしている……」
ルナの手に握られた、お盆。
それが、メリッ、メリメリッ……と、尋常ではない握力でへし折られていく。
「……同族の恥です。恥晒しです! あなたのようなクズ、神狼族の風上にも置けませんぅっ!!」
「痛っ!? ちょっ、おま……!?」
ドガァァァァァァァッ!!
ルナは、へし折ったお盆を、フェンリルの顔面にフルスイングで叩き込んだ。
「ぐはぁっ!?」
チャラい神獣が、テラス席のテーブルをなぎ倒しながら吹き飛んでいく。
「な、なんだ騒々しい!」
俺が店の中から飛び出すと、そこには、殺気を放つルナと、鼻血を出して倒れているチャラ男がいた。
「ご主人様! こいつです! こいつが、あのダメ神獣のフェンリルですぅ! わたくしたちの村を、金貨1億枚で潰しに来たと抜かしました!」
ルナが、いつもの穏やかなメイドの姿からは想像もつかない激怒モードで叫ぶ。
「い、いてぇな……。なんなんだよお前、マジでキレんなよ……っ!」
フェンリルが立ち上がり、血を拭いながら舌打ちをした。
彼の周囲の空気が急速に冷え込み、地面の石畳がピキピキと凍りつき始める。
「俺はただ、優しく誘ってやっただけじゃねーか。……そっちがその気なら、容赦しねーぞ。一瞬でこの村ごと、絶対零度で氷漬けにしてやるよ……!」
フェンリルの背後に、無数の『氷の狼』が顕現し、牙を剥いた。
世界最強クラスの神獣による、本気の殺意。
「ご主人様、下がっていてください! この同族の恥は、わたくしが引きちぎります!」
ルナもまた、爪を伸ばして迎撃の態勢に入る。
「……いや、待てルナ」
俺はルナの肩に手を置き、前に出た。
「あのバカを武力で止める必要はない」
俺は、鼻血を出しながら凄んでいるフェンリルを見た。
ギャンブル狂いで、金にだらしなく、刺激を求めるバトルジャンキー。
「あいつの弱点は『暴力』じゃない。……もっとタチの悪い『沼』に沈めてやる」
俺は空中に【世界編集】のウィンドウを展開し、村の広場の中央に、この世界には存在しない『最悪の遊戯施設』を構築し始めた。




