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EP 3

息子ヒエンの襲来! 【世界編集】vs プロミネンス

「すぅ……太郎……もう麺は入らないわよぉ……すぅ……」

ポポロ村のファミレス『ルナキン』の休憩室。

世界最強の調停者である不死鳥フレアは、背脂チャッチャ系ラーメンを完食した直後から、赤ん坊のように幸せそうな寝顔で爆睡し続けていた。

「見事な寝っぷりですね、ご主人様。よっぽどお疲れだったんでしょうか」

ルナが、フレアの顔にかかった真紅の髪を優しく撫でながら微笑む。

「まあ、一人で世界の魔物を間引きながら子育てしてたら、そりゃ過労にもなるわな。……ん?」

その時。

村を包んでいた穏やかな夜気が、一瞬にしてジリジリと焦げるような『熱波』に変わった。

「な、なんだ!?」

俺たちが慌てて外に飛び出すと、ポポロ村の上空が、真昼のように赤々と染まっていた。

「見つけました! 母さんの気配が途絶えた『悪の村』はここですね!」

夜空に浮かんでいたのは、燃え盛る真紅の翼を背に生やした、精悍な顔つきの青年だった。

年齢は俺と同じか、少し上くらいだろうか。その顔立ちには、どこか現代日本人のような面影があった。

「母さんを……母さんを返せぇぇぇっ!!」

青年は空中で両手に凄まじい炎を収束させながら、悲痛な叫び声を上げた。

「……誰だ、あいつ。フレアの知り合いか?」

「『母さん』って言ってましたよ! もしかして、あの綺麗なお姉さんの息子さんですかぅ!?」

クロエが驚いて空を見上げる。

「俺の名はヒエン! 誇り高き不死鳥と、偉大なる勇者・佐藤太郎の息子だ! 貴様ら、よくも母さんを捕らえてくれたな!」

ヒエンと名乗った青年は、義憤に満ちた目で俺たちを睨みつけた。

「おい、待て待て! 勘違いだ! お前の母ちゃんは、今うちの休憩室で——」

「問答無用! 天下の調停者である母さんが、こんな辺境の村で敗北(通信途絶)するはずがない! 卑劣な罠に嵌めたに決まっている!」

ヒエンは全く聞く耳を持たなかった。

まあ無理もない。世界最強の不死鳥が「ラーメンの食い過ぎで爆睡している」なんて、息子からすれば信じられるはずがないのだ。

ヒエンは空中で炎の剣『紅蓮剣』を構え、さらに両指先に高圧縮された炎弾『フレイムバレット』を纏わせた。

「行くぞ! 母さんの……いや、永遠の17歳の母さんの無念を晴らす! (俺、今年で18歳になったんだけど、年齢設定どうなってんだよ!)」

悲痛な叫びの中に、重すぎる心のツッコミが混ざっている。

このイカれた世界(親)に振り回されてきた、苦労人の悲哀を感じる魂の叫びだった。

「ご主人様! あの炎、本気です! 直撃すれば村が消し飛びます!」

ルナが狼の耳をピンと立て、前に出ようとする。

「俺がやる。ルナとクロエは下がってろ」

俺は空中に【世界編集】のウィンドウを展開し、猛スピードでキーボードを叩き始めた。

「親父の仇(無関係だけど)! 喰らえぇぇぇっ! 『プロミネンス・シュート』ォォォォォッ!!!!」

ヒエンが放ったのは、空の雲すらも焼き尽くすほどの、絶対的な超火力の炎の奔流だった。

太陽のプロミネンス(紅炎)のごとく、すべてを灰燼に帰す最強の魔法が、ポポロ村へと降り注ぐ。

カタカタカタ……ターンッ!

ーーー

【対象】ヒエンの放った炎魔法プロミネンス・シュート

【属性変換】『温度』の数値を【数千度】→【38度の心地よいサウナの熱風】に強制上書き。

ーーー

俺がエンターキーを叩き込んだ瞬間、村を覆い尽くそうとしていた地獄の業火が、ふわりと『心地よい熱気』に変わった。

ゴォォォォォォ……ポワァァァァァ……。

「……あー、いい湯加減だ」

「わぁっ! ご主人様、なんだか岩盤浴に来たみたいにポカポカしますぅ!」

「毛穴が開いて、お肌の老廃物が抜けそうですぅ!」

俺とルナとクロエは、直撃した『プロミネンス・シュート』の中で、気持ちよさそうに伸びをした。

「……はぁっ!?」

上空のヒエンが、目をひん剥いて固まった。

「な、なんで燃えてないんだ!? 俺の最大火力だぞ!? 鉄だって一瞬で蒸発するはずなのに、なんでお前ら『ととのって』るんだよ!」

「お前の炎、温度設定が低すぎたみたいだな。冬場の暖房にはちょうどいいけどよ」

俺がニヤリと笑うと、ヒエンはパニックに陥ったように何度も指先から炎弾フレイムバレットを放ってきた。

ポムッ。ポムッ。ポフッ。

だが、すべて38度の心地よい熱風に変換されているため、当たっても「温かいおしぼりを投げられた」程度の衝撃しかない。

「ば、馬鹿な……。俺の炎が……親父から受け継いだ力が、こんな風に……っ」

ヒエンが絶望して空から地上へ降り立つ。

その時だった。

「……んあ? うるさいわねぇ。誰よ、夜中に騒いでるのは……」

ルナキンの裏口から、目をこすりながらフラフラと出てきたのは、ヨダレの跡をつけたフレアだった。

「か、母さん!」

ヒエンがハッとして駆け寄る。

「無事だったのか!? ごめん、俺がもっと早く助けに来ていれば……っ! ひどい拷問を受けたんだな! 息も絶え絶えじゃないか!」

「え? 拷問? 何言ってんのよ、ヒエン」

フレアは大きなあくびをした。

「拷問なんかされてないわよ。ここのお兄さんが作ってくれた『ラーメン』が、昔あんたの父さんが作ってくれたのと同じ味でさ。お腹いっぱい食べたら、そのまま寝ちゃったのよ」

「……は?」

ヒエンの動きが止まった。

「ラーメン? 寝てた……だけ?」

「そうよぉ。もう、最高だったわ。にんにくマシマシでね」

フレアは幸せそうにお腹をさすっている。

ヒエンは、無傷で満腹状態の母親と、俺たちを交互に見た。

そして、自分が一人で大空から「母さんを返せ!」と絶叫し、最強の魔法を放って、それがただの『サウナの熱風』にされた一連の出来事を振り返り……。

「……俺の、あのクソ恥ずかしい名乗りと熱量は、一体何だったんだよぉぉぉっ!!」

ヒエンは顔を真っ赤にして、その場に崩れ落ちて地面を叩いた。

「まあ気にするな。熱い奴は嫌いじゃないぜ」

俺が肩を叩くと、ヒエンは涙目でこちらを睨んできた。

「お前、一体何者なんだ……。俺の炎をあんなデタラメな方法で防ぐなんて、絶対にただの村人じゃないだろ……」

「ただのスローライフを愛する、農家兼、温泉の管理人さ。……腹減ってないか? うちの村の飯は、親父さんのレシピに負けないくらい美味いぞ」

俺がルナキンの厨房を指差すと、ヒエンのお腹からも、母親とそっくりな「ギュルルルッ」という音が鳴り響いたのだった。

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