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EP 2

不死鳥墜落。魅惑の『旨味調味料ジャンクフード

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!

ポポロ村の超高級天然温泉『ポポロの湯』のすぐ隣にある雑木林。

そこに墜落した真紅の流れ星が作ったクレーターの中心で、一人の美女が白目を剥いて倒れていた。

「……あ、あうぅ……。お腹、すいた……。眠い……。化粧落とさなきゃ……」

ボロボロになった豪奢なドレス。土まみれの顔。

しかし、その隙間から覗く肌は透き通るように白く、プロポーションは女神であるルチアナすら凌駕するほどの圧倒的な美しさを放っていた。

「……ご主人様。このお姉さん、新種の魔物でしょうか?」

ルナが、バスタオルを巻いた姿で恐る恐るクレーターを覗き込む。

「魔物っていうか、金曜の夜に六本木で飲み潰れた限界OLにしか見えないぞ……」

俺は呆れながら、痙攣している美女を見下ろした。

とりあえず、このまま野ざらしにしておくわけにもいかない。

俺たちは彼女を担ぎ上げ、温泉施設に併設されたファミレス『ルナキン・ポポロ支店』の休憩室にある、畳の小上がりに寝かせた。

数十分後。

「……はっ!?」

美女がガバッと跳ね起きた。

そして、自分が畳の上で毛布を掛けられていることに気づき、周囲をキョロキョロと見回す。

「こ、ここは……!? 私としたことが、過労で飛空魔法のコントロールを失うなんて! 『永遠の17歳』の看板に傷がつくわ!」

「いや、17歳は過労で墜落しないだろ」

俺がツッコミを入れると、美女はハッとしてこちらを睨みつけた。

その瞬間、彼女の背後から凄まじい熱波と、真紅の炎の翼がバサァッ!と顕現した。

「よくも私をこんな安っぽい畳に寝かせたわね、人間ども! 私の名はフレア! 世界のバランスを管理する三柱の調停者が一角、『不死鳥』のフレアよ! 帝国からの依頼により、貴様らの村を――」

ギュルルルルルルルルルルルルルルルッ!!!!

フレアの威厳に満ちた名乗りを、雷鳴のような腹の虫の音が完全に掻き消した。

「…………っ!!」

フレアの顔が、耳の先まで真っ赤に染まる。

「……威勢はいいが、完全にガス欠じゃないか。お前、最後に飯食ったのいつだ?」

「うぅ……三日前……。東の砂漠で魔竜の群れを焼き払ってから、ずっとブラック労働で……」

さっきまでの威厳はどこへやら、フレアは涙目になりながらお腹を押さえてへたり込んだ。

「ご主人様。この人、なんだかとっても可哀想ですぅ。帝国から村を燃やしに来たみたいですけど……」

クロエが同情の目を向ける。

「ああ。いくら敵の刺客とはいえ、腹を空かせた奴を追い出すのは寝覚めが悪い」

俺は立ち上がり、ルナキンの厨房へと向かった。

そして、空中に【世界編集】のウィンドウを展開する。

調停者と名乗るからには、並の料理では満足しないだろう。

だが、高級なフレンチや繊細な懐石料理ではなく、極限まで疲労し、空腹状態にある『限界OL』の脳髄にダイレクトに突き刺さる料理。

それは、現代日本が誇る最強の『合法麻薬』に他ならない。

カタカタカタ……ターンッ!

ーーー

【対象】厨房にある小麦粉、豚肉、各種野菜、調味料

【属性変換】『超高カロリー・背脂チャッチャ系豚骨醤油ラーメン(ヤサイマシマシ・ニンニクアブラカラメ)』に強制再構築。

ーーー

俺がエンターキーを叩き込んだ瞬間、厨房に暴力的なまでの『ニンニクと豚骨の匂い』が充満した。

「お待ちどおさま」

俺が休憩室のテーブルにドンッ!と置いたのは、洗面器ほどもある巨大な丼。

そこには、前章で彼女たちを救った「もやし」とキャベツが山のように盛られ、分厚い豚の角煮チャーシューがゴロゴロと鎮座し、スープの表面には雪のような「背脂」がたっぷりと浮いている。

そして頂上には、刻みニンニクの山。

「な、なによこれぇっ!?」

フレアが、その暴力的なビジュアルに悲鳴を上げた。

「美を追求する私に、こんなカロリーの暴力みたいな豚の餌を食べろっていうの!? これ一杯で一日の摂取カロリー超えてるじゃないの!」

「いいから食ってみろ。疲れた体には塩分と脂が一番効くんだよ」

俺が割り箸を差し出すと、フレアは「こんなの、一口だけだからね!」と文句を言いながら、おそるおそるスープを啜り、極太の麺を口に運んだ。

「……えっ?」

ズズッ。

フレアの動きが、ピタリと止まった。

ガツンと脳天を殴られるような、強烈なニンニクのパンチ。

濃厚な豚骨醤油の塩気と、背脂の甘みが織りなす、完璧な『ジャンク(旨味)』のハーモニー。

それは、異世界の上品な宮廷料理では絶対に味わえない、計算し尽くされた化学調味料と脂の芸術だった。

「……う、嘘でしょ……?」

ポロリ、と。

フレアの美しい瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「この味……。ニンニクが強すぎて、次の日絶対に後悔するのに、夜中になると無性に食べたくなる、この下品な味……っ」

「おいおい、そんなに泣くほど不味かったか?」

「違うわよぉぉっ……!」

フレアは涙をボロボロと流しながら、一心不乱に麺を啜り始めた。

ズズズズズッ! ワシャワシャワシャッ!

絶世の美女が、化粧が崩れるのも構わず、もやしと極太麺を豚のようにかき込んでいる。

「この味……思い出すわ……。昔、私に『深夜のラーメンは罪の味がするから美味いんだ』って言って、デートの帰りにいっつも屋台に連れて行ってくれた……あの人の……太郎の顔をぉぉっ!」

佐藤太郎。

かつてこの世界に存在し、彼女の夫となった謎の男。

【世界編集】で俺が再現した現代日本の「ラーメン」の味は、彼女の心の奥底に眠っていた「最も幸せだった時代の記憶」を完全にフラッシュバックさせてしまったらしい。

「うぅぅっ……太郎ぉぉっ! 美味しいよぉぉっ! あんたが死んでから、私一人で子育ても世界の調停も全部押し付けられて……どれだけ大変だったかぁぁっ!」

フレアは麺を啜りながら、亡き夫への愚痴と愛を叫び続ける。

「ご主人様……。この人、なんだかとっても面倒くさい酔っ払いみたいになってますぅ……」

「触れるな、ルナ。今はそっとしておいてやれ」

数分後。

あれだけ「豚の餌」と罵っていた洗面器サイズのラーメンは、スープの最後の一滴まで完全に飲み干されていた。

「ふぅぅぅ……っ。食ったぁ……」

ポッコリと膨らんだお腹をさすりながら、フレアは満足げに畳の上に大の字になった。

限界まで疲労した体に、超高カロリーな食事。

次に訪れるのは、抗いようのない圧倒的な「睡魔」である。

「……あー、美味しかった。村を燃やすのは……明日でいいわ……。おやすみ、太郎……」

スゥ……スゥ……。

数秒後には、世界最強の不死鳥は、完全に無防備な寝顔を晒して深い眠りに落ちていた。

「……よし。刺客の無力化、完了だ」

「ご主人様、ジャンクフードの力って恐ろしいですね……」

帝国が最後の希望として送り込んだ世界最強の調停者(大量破壊兵器)は、たった一杯の「背脂チャッチャ系ラーメン」によって、完全にポポロ村の胃袋に掌握されたのだった。

だが、この直後。

母が帰ってこないことを心配した『もう一人の規格外』が、ポポロ村を強襲することになるとは、俺たちはまだ知る由もなかった。

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