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EP 8

リゾート開発失敗。勇者の『資金ショート』

「……おかしい。なぜ『コンバージョン(顧客転換率)』がゼロなのだ!?」

ポポロ村の隣山を切り拓いて建設された、勇者ブレイド肝いりの巨大施設『ルナミス・ポポロ・リゾート』。

大理石で舗装された道、ガラス張りの高級ホテル、そして『推し(アイドル)の空気を吸えるVIPラウンジ』。莫大な初期投資イニシャルコストを注ぎ込んだ、勇者パーティの威信をかけた大型プロジェクトである。

だが、オープンから数日が経過しても、リゾートのゲートをくぐる客はただの一人もいなかった。

「ブレイド様……。プロモーション(宣伝)は完璧に行いました。ですが、ターゲット層である兵士たちが、全くこちらに流れてきません」

秘書の魔法使いが、魔導タブレットを見ながら青ざめた顔で報告する。

「あり得ない! あんな泥臭い村の野宿より、我々の提供する『ハイエンドなソリューション(高級リゾート)』の方が、カスタマーサクセスを満たせるに決まっているだろう! 彼らのニーズ(欲求)はどこに行ったのだ!?」

ブレイドが前髪を振り乱して叫ぶ。

彼は、根本的に間違えていた。「オタク」という生き物の生態、その深淵なる心理を。

「……ブレイド様。魔法網(T-ネットワーク)の掲示板に、兵士たちの書き込みが……」

秘書が震える手で画面を見せる。そこには、オタクたちの生々しい声が並んでいた。

『勇者の作ったリゾート? アホか。俺たちが吸いたいのは「大理石の部屋の空気」じゃねぇ、「リーザちゃんが裸足で歩いた泥の匂い」なんだよ!』

『綺麗に舗装された道に推しはいない。推しが半額もやしを求めて走る、あの土埃の舞う田舎道こそが聖地だろうが!』

『VIPラウンジに一泊10万G払うくらいなら、ふるさと納税でラスティア様に踏まれる権利(実質2000G)を50回買うわwww』

「な……ッ!?」

ブレイドの顔が、信じられないものを見たかのように歪む。

「土埃だと!? 泥の匂い!? あいつらはドブネズミか!? こんなの、私の描いた『ペルソナ(想定顧客)』のデータには存在しないぞ!」

「さらに報告があります……。ポポロ村の方ですが、我々が流通を止めたにもかかわらず、全く干上がっていません。むしろ……」

秘書が指差す先、ポポロ村の上空を、ルナミス帝国の商社ではない、他大陸の巨大な『飛空輸送船』が次々と旋回し、村へ物資を下ろしていくのが見えた。

「ふるさと納税で集めた『莫大な資金』を使い、他大陸の商人たちと直接『専属契約』を結んだようです。さらに、村の広場では……」

――ポポロ村・特設会場。

「次っ! はい、ゴミを見るような目ね! 『この這いずり回るウジ虫が!』……はい、ご苦労様! 次っ!」

バンッ! ドカッ!

「ああっ……! ラスティア様のヒール、最高ですぅぅっ!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

魔王ラスティアが、長蛇の列を作る屈強な兵士たちを、流れ作業のように次々とハイヒールで踏みつけていた。

その目は「ゴミを見るような目」というより、「終わりの見えない単純作業に対する虚無の目」になりかけていたが、オタクたちには関係なかった。

「ふくらはぎが……っ。私のふくらはぎがパンパンよ……っ。まだ500人もいるじゃないのぉぉっ!」

ラスティアが涙目で悲鳴を上げる。

その横では、リーザが無心でカニの殻を剥き続け、ルチアナが腱鞘炎になりながらお守りにサインを書き殴っている。

彼女たちの労働(返礼品)によって、ポポロ村には大国の税収が直接注ぎ込まれ、独自の超巨大経済圏が確立されつつあった。

「……ば、馬鹿な。私の完璧なマーケティングが……。数字とロジックで導き出した『ブルーオーシャン戦略』が、あんな泥臭い村の、狂ったシステムに負けるというのか……!?」

ブレイドが膝から崩れ落ちた、その時。

彼の胸元で、通信用の魔導石がけたたましく鳴り響いた。

「は、はい……ブレイドです」

『おい、ブレイド! どういうことだ!』

通信の向こうから聞こえてきたのは、リゾート開発の資金を貸し付けている、帝国の巨大投資銀行の頭取の怒声だった。

『お前のリゾートの稼働率がゼロだと報告が来ているぞ! おまけに、お前が兵糧攻めにしたポポロ村が「ふるさと納税」なんてふざけたシステムを作りやがったせいで、帝国の今年の税収が激減して、国庫が火の車だ!』

「そ、それは……一時的な機会損失でして……これからシナジー効果が……」

『うるさい! 意味不明なカタカナを並べるな! 国からの補助金は全面ストップだ! リゾート建設のために貸し付けた「金貨5億枚」、明日の正午までに一括で返済しろ! できなければ……担保に入れている勇者パーティの資産、全て差し押さえるからな!』

ブツッ。

一方的に通信が切れた。

「…………え?」

ブレイドの手から、魔導石がポロリとこぼれ落ちる。

「ぶ、ブレイド様……! 我がパーティの口座残高が……! ポポロ村への嫌がらせ(流通封鎖)の根回し費用と、リゾートの建設費で、すでに底を突いています……っ!」

秘書が悲鳴を上げた。

「資金が……ショート、する……?」

カタカナ語を並べ立て、強者の位置からポポロ村を追い詰めていた意識高い系勇者は。

自らの傲慢とマーケティングの失敗、そしてリクトの仕掛けた『税金ハック』の前に、完全なる「倒産(破滅)」のカウントダウンを突きつけられたのだった。

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