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EP 7

伝説の撒きオロロと、エンペラー・キングクラブの浮上

『4』・『5』・『6』。

ドンブリの底で、ゴメスが放った三つのサイコロが、親の2倍勝ちを確定させる最強の出目『シゴロ』を叩き出した。

「な……ッ!?」

ルチアナ、ラスティア、リーザの三人の顔から、一瞬にして血の気が引いた。

「ヒャハハハハハッ!! ごちそうさまだぜェ! お前らの80万Kと、10年間の強制労働契約書、確かに受け取ったァ!!」

ゴメスが下品な笑い声を上げながら、ドンブリの横に積まれた札束と契約書をガバッと抱え込む。

「う、嘘よ……。私の、私の月人きゅん貯金が……」

「10年……これから10年、無給でカニの殻を剥き続けるの……? 魔王の私が……カニ剥きババアに……」

「あ、あぁぁ……。ルナミスデパートの特売日にも行けない……パンの耳すら買えない……」

三人揃って、文字通り『真っ白な灰』と化して床に崩れ落ちた。

完全に、魂が口から抜け出ている。

「(……あのサイコロ、重心が偏ったイカサマの『四五六賽』だな。見え透いた手品だ)」

俺は腕組みをしたまま、冷ややかにその光景を見つめていた。

いくらでも【世界編集】でサイコロの重心を書き換えてやり返すことはできたが、今回はルナの言う通り『教育』の時間だ。

「おい、すっからかんの敗残兵は邪魔だ! さっさとツラ貸しな!」

黒服のオークたちが、真っ白に燃え尽きた三人の襟首を掴み、地下賭場から乱暴に引きずり出していく。

俺たちスローライフ組も、ため息をつきながらその後を追った。

――魔工船『マグローザ・ホープ』、深夜の甲板。

ドサッ!と冷たい鉄の床に放り出された三人。

北の海の容赦ない猛吹雪が、彼女たちの粗末な作業着を容赦なく叩きつける。

「あ、あうぅ……」

ルチアナが、ふらふらと立ち上がり、船の縁(手すり)にしがみついた。

借金3000万ゴールド(30億K)という途方もない重圧。

一瞬で80万Kを失ったというギャンブル特有の強烈な喪失感。

これから10年間、無休・無給でカニの殻を剥き続けなければならないという絶望的な未来。

さらに、猛吹雪で激しく上下に揺れる魔工船のピッチング(縦揺れ)が、彼女たちの三半規管に無慈悲な追い打ちをかけた。

極度のストレスと、船酔い。

二つの要因が完璧に重なり合った瞬間、神と魔王とアイドルの胃袋が、限界突破の悲鳴を上げた。

「……う、うぅ……っ。胃が……胃がひっくり返る……っ」

ルチアナが口元を押さえる。

「船の揺れと……借金の重みで……吐き気が……っ」

ラスティアが青ざめた顔で手すりから身を乗り出す。

「わたくしの……50万K……うっぷ……」

リーザが涙目で海面を見下ろす。

そして。

「「「オロロロロロロロロロロロロロロロロッ……!!!!」」」

三人の口から、キラキラと輝く(※自主規制)内容物が、暗黒の北の海に向かって盛大に撒き散らされた。

絶世の美女と、世界のパワーバランスの頂点に立つ存在たちが、肩を並べて船縁からゲロを吐くという、前代未聞の尊厳破壊シーンである。

「うわぁ……。見事な吐きっぷりですね、ご主人様」

「アイドルが人前で吐くなんて……可哀想ですが、自業自得ですぅ」

ルナとクロエが、少し離れた安全圏からドン引きした顔で見守っている。

だが、この時、俺たちは気づいていなかった。

彼女たちが海に吐き出した『撒きオロロ』が、とんでもない代物であることに。

創造神ルチアナの胃袋から出た『純度の高い神気』。

魔王ラスティアから出た『濃密な魔界の瘴気』。

そして人魚姫リーザから出た『海を統べる人魚の魔力』。

これら三つの相反する超絶エネルギーが、胃酸と共に完璧な割合でブレンドされた嘔吐物。

それは、北の海の魔獣たちにとって、何億ゴールド積んでも手に入らない『究極の高カロリー魔力食(伝説の撒き餌)』と化していたのだ。

ピカーーーンッ!!

「……ん? おい、海が光ってないか?」

俺が海面を覗き込むと、三人が吐き出した撒き餌が海に落ちた瞬間、暗黒の海が七色の虹色に発光し始めた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!

突如として、巨大な魔工船が木の葉のように激しく揺れた。

海面が大きく盛り上がり、直径数百メートルにも及ぶ巨大な『渦潮』が形成されていく。

「な、なんだ!? 海鳴りか!?」

騒ぎを聞きつけ、地下から班長のゴメスやオークたちが甲板へ飛び出してきた。

「てめぇら! 甲板でゲロ吐いて汚してんじゃねェ――」

ゴメスが怒鳴り込もうとした、その時。

バッシャァァァァァァァァァァンッ!!!!

渦潮の中心から、巨大な氷山を突き破り、規格外の『何か』が浮上した。

「……嘘、だろ……」

ゴメスが葉巻を落とし、へたり込む。

それは、全長数百メートル。巨大な絶望の魔工船の、さらに十倍以上の体躯を誇る、歩く要塞。

全身を禍々しい真紅と黄金の装甲(オリハルコン以上の硬度)で覆われ、山のように巨大な二つのハサミを持った、絶対的な海の覇者。

「エ、エンペラー……エンペラー・キングクラブ……!!」

熟練の漁師であるオークたちが、絶望の悲鳴を上げた。

伝説のS級魔獣のさらに上位。神話クラスの魔獣が、神と魔王のゲロ(究極の撒き餌)の匂いに誘われ、深海からその姿を現したのだ。

『ギシャアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

エンペラー・キングクラブが、空を裂くような咆哮を上げる。

その巨大なハサミが、魔工船を真っ二つにへし折らんと、ゆっくりと振り上げられた。

「ぎゃああああああっ! 魔法だ! 魔砲を撃てェェッ!」

「ダメです! 装甲が硬すぎて傷一つ付きません!」

船内は一瞬にして阿鼻叫喚のパニックに陥った。

唯一このバケモノに対抗できるはずのルチアナとラスティアは、首輪で魔力を封じられている上、ゲロを吐きすぎてグロッキー状態だ。

絶体絶命の危機。

だが、その光景を見上げていた俺の口角は、自然と釣り上がっていた。

「……おい、ルナ、クロエ、キャルル。仕事(借金返済)の時間だ」

俺は空中に【世界編集】のウィンドウを展開し、猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。

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