EP 10
【経済的ざまぁ】世界平和と、尽きるL-Pay残高
『だから…もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?』
リーザの極上のウインクと、戦神のバフが乗った甘い歌声。
そして彼女の背後に浮かび上がった、超巨大な『L-Pay(QR決済)』の送金用ホログラムコード。
限界オタクと化した数万の兵士たちは、迷うことなく懐から魔導通信石を取り出した。
「ウオオォォォォッ!! 俺の今月の給料、全部持っていってくれェェェッ!!」
「ボーナスもだ! 俺の冬のボーナスもリーザちゃんに捧げるッ!」
ピロリンッ♪ ピロリンッ♪ チャリーンッ♪
戦場に、かつてない規模の電子決済音が鳴り響き始めた。
リーザの手元にある端末に、怒涛の勢いで送金通知が雪崩れ込んでいく。
「きゃあああっ! 『名無しの帝国兵』さん、銀貨50枚ありがとうございます! 『モフモフ獣人』さん、金貨3枚の赤スパチャ感謝ですぅぅっ! これで……これでパンの耳以外のものが買えますぅっ!」
涙を流して喜ぶリーザの姿が、巨大モニターに映し出される。
その「あまりにもリアルな貧困への救済」を目の当たりにした両軍の兵士たちは、もはや止まることを知らなかった。
「パンの耳だと!? こんな天使にそんなひもじい思いをさせていたなんて……俺たちが不甲斐ないばかりに!」
「もっとだ! もっと課金しろ! リーザちゃんに特上のホーン・ボア肉を食わせるんだァァッ!」
この異常な熱狂の渦に、ついに両軍のトップまでもが完全に呑み込まれていた。
「……戦争とは、政治の延長にほかならない」
ルナミス帝国近衛騎士団長キュロスが、震える手で通信石を操作しながら真顔で呟いた。
「我がアイアン・レギオンの極秘作戦資金、金貨10万枚……これを彼女に投資することこそが、真の文化防衛(騎士道)であるッ! 送金!!」
「ルナミスの鉄犬共に後れを取るなァァッ!」
対する獣人王国のハガル団長も、己のパワード・ファーのシステムを強制再起動させ、決済画面を開いていた。
「これこそが獣の真理! 種の頂点たるアイドルに全財産を貢ぐのが、誇り高き狼の群れの掟だ!! 王国軍事予備費、金貨15万枚、送金ッ!!」
ピロリロリンッ!!!(※超高額決済の特別仕様音)
「ひゃあぁぁぁっ!? キュロスさん、ハガルさん、信じられない額のスパチャありがとうございますぅぅぅっ! 一生ついていきますぅ!!」
さらに、この狂気のライブ配信は、帝国の『ビッグ・ブラザー』や獣人王国の情報網を通じて、遠く離れた両大国の首脳陣のモニターにもリアルタイムで中継されていた。
――ルナミス帝都、皇帝執務室。
「……見えざる魔導の手が、全てを彼女の元へ集約させている。これぞ究極の経済の形……いや、私の理屈などどうでもいい。ただ、彼女に肉椎茸を腹いっぱい食べさせてあげたい……!」
冷徹なるマルクス皇帝が、涙で眼鏡を曇らせながら、国家の特別防衛予算枠のロックを解除した。
――レオンハート王都、玉座の間。
「ルナミスの鉄の規律すら溶かすとは……! この歌声と健気さこそ、大陸を統一する最強の『虚構』! 我が国の国庫を開けいッ!」
アーサー獣人王が、黄金のたてがみを振り乱しながら、王室の隠し財産を全額ベットした。
ピロロロロロロロロロロロロロロロロンッッッ!!!!!!!
ステージの巨大モニターに、見たこともない桁数のスーパーチャットが弾け飛んだ。
「う、嘘おおおおぉぉぉぉぉっ!? 『マルクスおじさん』から金貨1000万枚!? 『アーサーパパ』から金貨1000万枚!? あ、ありがとうございますぅぅぅっ!! これでルナミスマートごと買い取れますぅぅぅっ!!」
リーザがみかん箱の上で歓喜のあまり崩れ落ちた。
そして、その直後。
戦場にいた両軍の全ての通信石に、『残高不足』『予算超過』という冷酷なシステムアラートが一斉に鳴り響いた。
「……あ」
キュロスが呆然と呟く。
「軍事予算が……ゼロになった」
ハガルが空っぽの財布(端末)を見て膝から崩れ落ちる。
「さて、と」
俺はステージの裏から歩み出て、残高不足で硬直している両軍の騎士団長たちに声をかけた。
「お前ら、もう戦争できないだろ。武器の補給も、兵士の給料も、帰りの魔導列車の交通費すら残ってないんだからな」
「「…………」」
キュロスとハガルは顔を見合わせた。
もはや彼らの間に、国家の威信を懸けた憎しみも、種族の誇りを懸けた対立もない。
あるのは、「同じアイドルを推して全財産を失った」という、オタク特有の強固な連帯感(賢者タイム)だけだった。
「……ハガル殿。貴殿も、リーザちゃん推しで?」
「……いかにも。あの純真な瞳と、パンの耳をかじる姿に、内なる野生が庇護欲に変換された。キュロス殿もか」
「ええ。我ら、共に彼女の幸せを願う『同志』のようですな」
ガシィッ!
ルナミス帝国最強の騎士と、レオンハート王国最強の獣が、熱い握手を交わした。
その周囲でも、帝国兵と獣人兵が肩を組み、「最高のライブだったな!」「ああ、パンの耳、いっぱい買ってやろうぜ!」と涙を流して抱き合っている。
血の一滴も流れない、平和的すぎる戦争の終結。
「ふふっ、見事な経済的制圧ですね、リクトさん」
キャルルが横に並び、人参ジュースを飲みながら微笑んだ。
「ああ。戦争なんて、金がなきゃできないからな。予算を全部アイドルに貢がせれば、平和になるって寸法だ」
こうして、三国を巻き込むはずだった未曾有の世界大戦は、極貧人魚アイドルの圧倒的なライブとスパチャによって完全キャンセルされた。
翌日から、ポポロ村は「不可侵の緩衝地帯」から「不可侵のアイドル聖地」へと格上げされた。
村には『リーザ親衛隊』と名乗る元エリート軍人たちが自主的に常駐して畑仕事(とライブ会場の設営)を手伝うようになり、村の経済は爆発的に潤った。
コタツで堕落する神と魔王。
村の治安を守るヤンキーウサギ。
そして、世界中の富を吸い上げる極貧人魚姫。
俺の自由すぎる【世界編集】スローライフは、ますますカオスな賑わいを見せていくのだった。




