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EP 9

みかん箱のステージ!絶対無敵のスパチャアイドル!

「ちょっと通りますよー! はい、そこ、寝ないで起きてくださいねー!」

ポポロ村の広大な農地。

ルナミス帝国と獣人王国の数万の兵士たちが、コタツの魔力で丸くなって寝たり、ポンポコ節でラインダンスを踊ったりしているカオスな戦場の中央に、一人の少女がズンズンと歩み出た。

人魚姫リーザは、小脇に抱えていた段ボール製の『みかん箱』を、両軍のちょうど真ん中にドンッ!と置いた。

そして、その上にピョコンと飛び乗る。

「あー、マイクテス、マイクテス。……皆さん、こんにちはーっ!」

リーザが地声で叫ぶが、数万の軍勢のざわめき(と寝息)にかき消されて、全く届いていない。

「……プロデューサー(リクトさん)! これじゃあ後ろのお客さん(兵士)に私の声が届きません! 照明も暗いです!」

「注文の多いアイドルだな。……まあいい、最高のステージを用意してやる」

俺はファミレスから持ち出したコーヒーを片手に、【世界編集ワールド・エディット】のウィンドウを空中に展開した。

カタカタカタ……ターンッ!

ーーー

【対象】みかん箱

【名称】みかん箱 → 【特設ドーム級ライブステージ(音響・レーザー照明・特効スモーク完備)】

【付与効果】対象エリア内の全兵士に『ペンライト(公式グッズ)』を強制装備。視線をステージへ強制固定。

ーーー

俺がエンターキーを力強く叩き込んだ瞬間。

カッ……!!!

深夜のポポロ村を、真昼のように照らす強烈なスポットライトが何十本も天を貫いた。

リーザが乗っていたみかん箱は、まばゆい光と共に、巨大なモニターと無数のスピーカーを備えた『超巨大特設ステージ』へと変貌を遂げた。

「な、なんだッ!?」

「まぶしっ……! ていうか、俺の手にあるこの光る棒は何だ!?」

コタツの幻覚でうたた寝していた兵士たちも、ポンポコ踊りをしていた兵士たちも、突如として出現した巨大ステージと、自分の両手に握りしめられた『推し色(水色)のペンライト』を見てパニックに陥る。

「Are you ready, my darlings!?」

ズドォォォォォンッ!!!

ステージの縁から特効の火柱が上がり、超重低音のスピーカーが戦場を揺らした。

まばゆい光の中、センターステージに立つリーザの姿が、背後の巨大モニターに大写しになる。

パンの耳をかじっていた貧乏くさい姿はどこへやら。彼女の瞳はプロのアイドルとしてキラキラと輝き、絶世の美貌が数万の兵士の視線を一瞬にして釘付けにした。

「ミュージック、スタートォッ!!」

軽快で、しかしどこか金欲(?)を感じさせるイントロが流れ出す。

リーザはマイクを握り締め、人魚姫特有の固有スキル『戦神の凱歌』――本来は死地に赴く味方の士気を限界突破させるバフ魔法――を、惜しげもなく歌声に乗せて放った。

『愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!♪』

『(Fu Fu!)』

『マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!♪』

『(Yeah!!)』

不思議な現象が起きた。

リーザの『戦神の凱歌』が乗った歌声を聞いた瞬間、歴戦の兵士たちの口が勝手に動き、完璧なタイミングでコール(合いの手)を入れてしまったのだ。

『朝に目覚ましがなったわ♪』

『私はまだ眠いわ♪』

『朝シャンしなきゃ、朝メニュー食べなきゃ♪』

『鏡の前でメイクをしなきゃ♪』

「なんだこれは……俺の口が、勝手に『おはよー!』と叫んでしまう……ッ!」

帝国兵が涙目でペンライトを振りながら叫ぶ。

『今日も私の為に世界が動く♪』

『全て上手くいくわ♪』

『愛も富も一つの物♪』

『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪』

「くそっ、この歌声……魂を直接揺さぶってくる……! あんなに清楚で美しいのに、要求がエグすぎる! だが、それがいい……ッ!」

獣人兵が、己の野生を完全に忘れ、恍惚とした表情でペンライトを振り乱す。

コタツで寝落ちしていた両軍のトップ、キュロスとハガルも、その凄まじい熱気に目を覚ましていた。

「な……なんだあの光の女神は……? 我らの殺意を鎮めたのは、あの娘の歌声だったのか……?」

「なんという美しさだ。野生の頂点に立つ俺ですら、ひれ伏したくなるほどの……!」

最強の武人たちが、完全に毒牙(アイドルの魅力)に当てられている。

さらに、リーザの歌は2番へと突入し、彼女の『リアルな極貧生活』の悲哀が歌に乗って溢れ出し始めた。

『夕方の鐘が鳴ったわ♪』

『お腹はもうペコペコよ♪』

『スーパーのシール見なきゃ♪』

『ポイントカードも出さなきゃ♪』

『家賃のために節約しなきゃ♪』

(あの子……あんなに綺麗なのに、スーパーの半額シールを狙って、家賃に苦しんでいるのか……!?)

兵士たち(と団長たち)の脳裏に、リーザの健気で悲惨な生活が勝手にフラッシュバックする(※戦神の凱歌による感情共有効果)。

『今夜も私の為に星が降る♪』

『全部手に入れるわ♪』

『夢も金貨も輝くもの♪』

『株券欲しい♪ お城も欲しい♪』

『貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける♪』

「うわああああんっ! 株券でもお城でも買ってやるぅぅぅっ!!」

「俺の口座残高、全部持っていってくれェェェッ!!」

『戦神の凱歌』のバフが最高潮に達した。

兵士たちの闘争心は、「敵を殺すこと」から「この貧乏で強欲で最高に可愛いアイドルを養うこと」へと完全に書き換えられた。

『だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの♪』

『綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ♪』

リーザがカメラ(ドローン)に向かって、上目遣いで極上のウインクを放つ。

『だから…もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?』

「「「ウオオォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」」」

ルナミス帝国軍と、レオンハート獣人王国軍。

数万の屈強な男たちの咆哮が、ポポロ村の夜空を震わせた。それはもはや、軍隊の雄叫びではない。極限まで訓練された『限界オタクの熱狂』であった。

「……よし、仕上げだ」

ステージの裏で腕組みをしていた俺は、ニヤリと笑って【世界編集】の最終コードを打ち込んだ。

兵士たちの視界の空中に、巨大な『L-Pay(QR決済)』の送金ホログラムが展開される。

「さあ、見せてみろよ。お前ら超大国の『経済力』ってやつをな」

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