EP 5
満月の暴走!キャルルの『超回復ヤキ入れ』
満月が照らす、ポポロ村のキャベツ畑。
そこには、世界のパワーバランスの一端を担う、二大超大国の最精鋭隠密部隊が、無惨な姿で転がっていた。
ルナミス帝国の第8魔導隠密部隊は、人参マンドラの絶叫で鼓膜を破壊され、ハイテクヘルメットのセンサーが暴走。
レオンハート獣人王国の『シャドウ・ファング』は、ダイズラ豆にズボンとパンツを下ろされ、半ケツ状態でキャベツに秘密を暴露され、野性の誇りは粉々に砕け散っていた。
「……あ、あうぅ……」
「俺の……俺の検索履歴が……キャベツに……」
尊厳の破片を必死に掻き集める男たちの前に、真っ赤な瞳をした月兎族の少女、キャルルがダブルトンファーを構えて立ちはだかる。
「お前ら全員、姉御が直々に『治療』を入れてやんよォ!!」
「ち、治療……? 何を言って――」
獣人の隊長が、下ろされたズボンを掴みながら言いかけた、次の瞬間だった。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!
深夜の静寂を、音速(マッハ1)を超えた衝撃波が切り裂いた。
キャルルの姿が、残像すら残さず消失する。
「……え?」
獣人の隊長の視界が、ぐにゃりと歪んだ。
気づけば、彼はキャベツ畑から数十メートル吹き飛ばされ、村の防壁に激突していた。
全身の骨が砕けるような、凄まじい衝撃。
「ガ、ハッ……!? なんだ、今の……スピー――」
――ピカーン!
唐突に、彼の全身を温かい、緑色の光が包み込んだ。
月光を浴びたキャルルが放つ、月兎族特有の超回復魔法だ。
「……あれ?」
砕けたはずの肋骨が、メキメキッ!と音を立てて接合する。
体中にあった擦り傷が、瞬時にして消滅する。
痛みは……消えた。だが、激痛が走ったという『記憶』だけが、脳に鮮烈に残っている。
「治っ……た? う、撃て! ルナミスの奴らも構わん、あのウサギを撃――」
「終わらねぇぞォッ!!」
キャルルの声が、鼓膜が破れた帝国兵の頭上に、直接響いた。
空中を蹴り、軌道を変えながら迫る、キャルルの必殺キック。
『流星脚』!!!
ドカァァァァァァァッ!!
特注の強化靴が、光学迷彩を纏った帝国兵の胸板を直撃する。
ハイテク素材の防弾チョッキがひしゃげ、彼の体は面白いようにキャベツ畑の中をバウンドしていった。
「あぐぁぁぁっ! 呼吸が……肺が潰――」
――ピカーン!
「……はぁっ!?」
潰れたはずの肺が、瞬時にして元の形に戻る。
折れた背骨が、ピキピキッ!と繋がり、強制的に立たされる。
「治すなァァァァァァッ!! 治さないでぇーっ!!」
帝国兵は、恐怖に顔を歪ませて絶叫した。
殴られる。骨が砕ける。死ぬほどの痛みが走る。
だが、その直後に『完全回復』させられるのだ。
それは、死による救済すら許されない、終わりのない痛みのループ。
『ヤキ入れ』という名の、この世で最も残酷な拷問だった。
「次は、月影流 顎砕き!!」
バキッ、メキッ、ドゴォォッ!
「ピカーン!」
「あだぁぁっ! 顎が治ったのに痛いぃぃっ!」
「乱れ流星脚!!」
ドガガガガガガッ!
「ピカーン!」「ピカーン!」「ピカーン!」
「全身の骨が繋がる音で頭がおかしくなるぅぅぅッ!!」
キャベツ畑は、地獄と天国が同時に訪れる、カオスな処刑場へと変貌した。
帝国兵も獣人兵も、光学迷彩も透明化もかなぐり捨て、半ケツのまま、耳から血を流しながら、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、キャルルの前に這いつくばった。
「も、もう許して……! 姉御! いや、お代官様! 神様!!」
「俺が悪かった! キャベツに秘密をバラされてもいい! 唐揚げを盗み食いしたのも白状する! だから……だから、殴ってから治すのだけは止めてくれェェェッ!!」
最強の隠密部隊としてのプライドは、キャルルのダブルトンファーと、終わらない回復光の前に、完全に粉砕されていた。
彼らの瞳には、かつての冷徹なプロフェッショナルの輝きはなく、ただひたすらに「終わらない痛み」を恐れる、怯えた仔犬のような光しかなかった。
「……ふぅ」
一頻り暴れ回り、気が済んだのか。
キャルルはダブルトンファーを腰に納め、真っ赤だった瞳が元の優しい色へと戻っていった。
「……あら? わたくし、一体何を……?」
満月が雲に隠れ、ヤンキーモードが解除されたキャルル。
彼女は、自分がキャベツ畑で何をしていたのか、全く記憶になかった。
「キャルルちゃん、大丈夫ですかぁ?」
村長宅から、食後の苺パフェを食べ終えたリーザが、俺やルナたちを引き連れて様子を見に出てきた。
リクトが【世界編集】で展開した『快適度MAXのコタツ(フィールド展開版)』に潜り込みながら。
「あ、リクトさん! リーザちゃん! はい、なんだかわたくし、すごくスッキリした気分で――」
キャルルが振り返ると、彼女の後ろには、ボロボロになり、ズボンを下ろされたまま、真っ白な顔で硬直している両国の精鋭部隊が転がっていた。
「……? 皆さん、どうされたんですか? そんな格好で……。夜は冷えますから、風邪を引いてしまいますよ?」
キャルルは、元の優しい、少しとぼけた村長の笑顔で、彼らに声をかけた。
その瞬間。
硬直していた両国の精鋭たちが、一斉にキャルルの足元へ向かってスライディング土下座をかました。
「「「姉御ォォォォォォォォォッ!!!!」」」
「えぇっ!? な、ななな、なんですか!?」
「俺たち、一生ついていきやす! この命、姉御に捧げやす! だから……だから、もう二度と、あの『超回復ヤキ入れ』だけはしないでくださいィィィッ!!」
恐怖と尊敬が限界突破して混ざり合い、彼らはキャルルへの絶対的な忠誠を誓う「姉御の奴隷(信者)」へと変貌していたのだ。
ルナミス帝国のハイテク隠密部隊も、レオンハート獣人王国の誇り高き暗殺者も、今ここに、ポポロ村のヤンキー村長の軍門に下った。
「……ご主人様。なんだか、すごいことになってますね」
「ああ。世界のパワーバランスが、今、キャベツ畑で書き換えられたな」
俺はコタツの中で、みかんを剥きながら、キャルルと彼女を崇拝する(尊厳を破壊された)最精鋭部隊の構図を眺めていた。
だが、このポポロ村でのギャグじみた制圧劇が、超大国の本体――皇帝マルクスと王アーサーを動かす、本当の「大戦」の引き金になることを、この時の俺たちはまだ知らなかった。




