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EP 8

委員長天使ヴァルキュリアの襲来と陥落

「ちょっとラスティア! 私の月人きゅん特製うちわ、勝手に使わないでよ!」

「うるさいわねルチアナ! あんただって私のポテトチップス勝手に食べたじゃない!」

『お前ら少しは静かにしろ! 太宰の『斜陽』が良い所なんだ!』

俺の屋敷の中庭に設置された巨大なコタツでは、神と魔王と兵器が、小学生レベルの陣地争いを繰り広げていた。

「はぁ……。ルナ、クロエ、お茶のおかわり淹れてくるよ」

「あっ、ご主人様! わたくしがやりますぅ!」

「いえ、ここは神狼たるわたくしが!」

俺とヒロインたちが微笑ましいやり取りをしていた、その時。

――ピシャァァァァァンッ!!!

空から、鼓膜を劈くような落雷の音が響き、中庭の芝生に純白の光の柱が突き刺さった。

光が収まると、そこには六枚の純白の翼を生やし、銀色のフルプレートアーマーに身を包んだ、銀髪の美しい天使が立っていた。

手には巨大な光の槍。そしてその顔には、銀縁の眼鏡。いかにも「風紀委員長」といった、クソ真面目で融通の利かなそうな表情だ。

「ル・チ・ア・ナ・様ぁぁぁぁぁっ!!!」

天使が、地獄の底から響くような声で叫んだ。

「ひぃっ!? ヴァ、ヴァルちゃん!?」

コタツの中で寝転がっていたルチアナが、ビクゥッ!と跳ね上がり、慌てて芋ジャージの襟を正して正座した。

「神界のシステムアラートが鳴り止まないと思ったら……! ガオガオンとの通信を絶ち、あまつさえ宿敵である魔王ラスティアと共にコタツで堕落しているとは! 貴女という神は……神はぁぁっ!」

「ち、違うのよヴァルキュリア! これは、その……敵のバグ(リクト)の強力な精神魔法にかけられていて……っ!」

ルチアナが必死に言い訳をするが、天使――ヴァルキュリアの冷ややかな視線は、ルチアナから俺へと向けられた。

「貴様がイレギュラーたるバグですね。神をたぶらかし、魔王を飼いならすとは。……万死に値します。私が、天の裁きを――」

ヴァルキュリアが光の槍を構え、膨大な魔力を練り上げようとした。

だが、俺には彼女のその構えが、どうにも「ぎこちなく」見えた。

俺は【世界編集ワールド・エディット】を展開し、彼女のステータスを覗き見る。

ーーー

【個体名】ヴァルキュリア

【職業】大天使(ルチアナの尻拭い担当)

【状態異常】『極度の過労(連続勤務日数:365,000日)』『慢性的な肩こり』『眼精疲労』『腰痛』

ーーー

「……うわぁ」

俺は思わずドン引きした。

1000年休みなし。ルチアナがサボるせいで、このクソ真面目な天使が天界の実務を全て(文字通り身を粉にして)こなしていたのだ。

「お前、休んだ方がいいぞ。肩、ガチガチじゃないか」

「敵の同情など不要! 私のこの肩こりは、ルチアナ様の怠慢の結晶! いわば名誉の負傷です! さあ、覚悟――痛ッ!?」

槍を振り上げようとしたヴァルキュリアが、ピキッ!と肩を押さえて顔を歪ませた。限界突破している。

「クロエ、あいつを出してくれ」

「はいっ! 『失敗作・全身粉砕マッサージチェア』ですね!」

クロエがリュックから、無骨な拷問器具のような椅子を取り出した。

座った者の筋肉をほぐそうとして、力が強すぎるあまり骨まで粉砕してしまうという恐ろしい失敗作だ。

俺は即座にキーボードを叩く。

カタカタカタ……ターンッ!

ーーー

【名称】失敗作(全身粉砕椅子) → 【究極の天界マッサージチェア】

【出力】骨折レベル → 【神のゴッド・ハンドレベルの絶妙な揉みほぐし】

【付与効果】座った者の疲労をゼロにし、二度と立ち上がりたくなくさせる

ーーー

俺が書き換えた瞬間、拷問器具は高級感あふれる革張りのふかふかマッサージチェアへと姿を変えた。

「【所有権の強制書き換え】。対象・ヴァルキュリアの『立ち位置』を、このマッサージチェアの上に」

「なっ……きゃあぁっ!?」

俺がコマンドを実行した瞬間、ヴァルキュリアの体が強制的に空間転移させられ、マッサージチェアに深く座り込む形になった。

と同時に、チェアのスイッチが『強』でオンになる。

ウィィィィン……! ギュムッ、ゴリゴリゴリ……。

「な、なにをする気ですか! こんな罠で私が屈すると……ああっ……!?」

ヴァルキュリアの悲鳴が、すぐに甘い吐息へと変わった。

錬金術と世界編集が生み出した、AI搭載の『神の手』ローラーが、1000年分の肩こりと腰痛のピンポイントを、絶妙な力加減で抉っていく。

「あ……あぁぁぁ……っ、そこ……羽の付け根の、一番凝ってるところ……っ。あ、ダメ、痛気持ちいい……っ」

ガシャン、と。

ヴァルキュリアの手から光の槍が滑り落ちた。

さらに俺は、七輪の上に【温泉(源泉掛け流し・疲労回復効果100倍)】を小さな魔法陣で展開し、彼女の足元にお湯を張った『足湯』をセットした。

「は、はふぅ……。つま先から……芯まで温まって……っ」

銀縁メガネが湯気で曇り、クソ真面目だった天使の顔が、完全にだらしなくとろけきっていた。

「どうだ? 天の裁きとやら、まだやるか?」

「……むり、ですぅ。もう……立ち上がりたく、ないです……。1000年、頑張ったもん……私、もう有給消化していいですよね……?」

「ああ。好きなだけ休め」

マッサージチェアに沈み込んだヴァルキュリアは、そのままスヤスヤと安らかな寝息を立て始めた。

「……あーあ。ヴァルちゃんも陥落しちゃったわね」

「まぁ、無理もないわね。あんたのせいよルチアナ」

コタツの中から、神と魔王がみかんを食べながらそれを見守っていた。

「というわけでご主人様! 今日も完全勝利ですね!」

「わたくしの錬金術がお役に立てて嬉しいですぅ!」

ルナとクロエが俺の腕に抱きついてくる。

こうして、ルチアナ魔王ラスティア、システム兵器ガオガオン、そして大天使ヴァルキュリア

この世界のパワーバランスの頂点に立つ者たちは、見事に俺の屋敷(という名のブラックホール)に吸い込まれ、完全に無害化されたのだった。

平和だ。これで本当に、誰も俺のスローライフを邪魔する奴はいな――。

『――ウオォォォォォォォォッ!!!』

その時。

遥か遠く、王都の方角から、空を黒く染め上げるような『禍々しい蟲の群れ』と、大地を揺るがす絶望の咆哮が響き渡った。

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