EP 7
ファンクラブ第1号の涙と、オタク同盟結成
「うわああああんっ! ツナマヨじゃ嫌だ オカカしかねぇ〜♪ って、わかる、わかるわ月人きゅんっ!」
中庭の上空。次元を裂くほどのプレッシャーを放っていた魔王ラスティアは、今や空中で両手で顔を覆い、ボロボロと涙を流すただの『限界オタク』と化していた。
彼女が連れてきたS級魔獣たち(魔炎竜やケルベロス)も、「えっ? 魔王様、世界滅ぼさないんスか?」「俺たちどうすればいいの?」と困惑したように顔を見合わせている。
「おいルチアナ。お前の飲み友達、完全に戦意喪失してるぞ」
「だって月人きゅんの歌声は魂を浄化するからね! あー、尊い……」
芋ジャージ姿のルチアナが、コタツの中からペンライト(赤)を振りながら満足げに頷く。
すると、スピーカーの音源に気づいたラスティアが、ドレスを翻して猛スピードで地上へと降り立った。
ズサァァァァッ!!!
地面に膝をつき、錬金スピーカーを愛おしそうに撫で回す魔王。
「ああ……なんてクリアな音質……! まるで月人きゅんが耳元で歌ってくれているよう……っ! ルチアナ、あんたなんでこんな神アイテム持ってるのよ!?」
「ふふん。私の新しい職場の主、リクト君が作ってくれたのよ。ちなみに映像付きもあるわよ?」
「えっ!? な、なんですって!?」
ラスティアが血走った目で俺を振り向いた。
「バ、バグの少年! 貴様、月人きゅんの映像を出せるのか!? 出せ! 今すぐ出さなければ次元ごと――」
「クロエ、あの『失敗作の水晶』あるか?」
「はいっ! 対象をリアルに映し出しすぎて、見た者が情報過多で発狂する『失敗作・精神破壊プロジェクター』ですね!」
「よし。俺がちょっと【編集】する」
俺は魔王の脅しを完全にスルーし、クロエから受け取った怪しい水晶に【世界編集】のカーソルを合わせた。
カタカタカタ……ターンッ!
ーーー
【対象】失敗作(精神破壊プロジェクター)
【出力情報】発狂映像 → 『朝倉月人 福岡ドームライブ(アリーナ最前列視点・1/1スケール・完全立体ホログラム)』
【付与効果】見た者の「敵意」を完全に消滅させる
ーーー
「ほらよ。お前らが求めてる『力(映像)』だ」
俺が水晶を中庭の中央に置いた瞬間。
カッ!と光が弾け、何もない空間に『超絶リアルなイケメンアイドルの立体映像』が浮かび上がった。
汗の粒、マイクを通す息遣い、そして客席(こちら側)へ向けた極上のファンサービス・ウィンクまで、完全に再現されている。
「「――――ッ!!!」」
魔王ラスティアと、創造神ルチアナが、同時に息を呑んだ。
そして。
「キャアアアアアアアアアアアアッ!!! 月人きゅぅぅぅぅぅぅんっ!!!」
「こっち向いてぇぇぇっ! ルチアナだよぉぉぉぉっ!!」
世界を統べる神と、世界を滅ぼす魔王が、仲良く肩を並べて黄色い悲鳴を上げ始めた。
ラスティアに至っては、どこから取り出したのか『月人 命』と書かれた特製うちわを両手で振り回し、本気のオタ芸を打っている。
「……なぁ、クロエ」
「はい、ご主人様……」
「今日の夕飯、あいつらの分も増やしといてくれ。しばらく帰る気ないだろ、あれ」
「分かりましたぁ……。なんだか、神様や魔王様って、案外ちょろ……いえ、親しみやすいのですね」
ルナも「ご主人様の魔法は、魔王さえも笑顔にしてしまうのですね!」と謎の感動をしている。いや、俺じゃなくてアイドルの力なんだけど。
――数時間後。
ライブ映像(全3時間)を完走し、喉を枯らしたラスティアは、燃え尽きたように中庭の芝生に大の字になっていた。
彼女が連れてきたS級魔獣たちは、すっかり大人しくなり、ガオン(メカライオン)の指導のもと、屋敷の庭の草むしりを手伝わされている。
「……最高。最高のライブだったわ」
ラスティアが虚ろな目で宙を見つめながら呟く。
「だろ? で、魔王さんよ。まだ俺を次元ごと斬り伏せる気はあるか?」
俺が上から見下ろすと、ラスティアは勢いよく立ち上がり、俺の両手をガシリと握りしめた。
「リクト様!!」
「……様?」
「この屋敷、地球のアイドルグッズが錬成し放題で、しかもこんな超高画質のホログラムまで見放題……! 決めました! 今日からここを、魔皇国認定『朝倉月人ファンクラブ・辺境第一支部』と定めます!」
「いや、俺の家なんだが」
「細かいことは気にしない! ルチアナ、ちょっとそっち詰めて! 私もコタツ入るから!」
「えー、ラスティアでかいから狭いわよー。ガオン、あんた犬小屋行きなさい」
『俺はライオンだ! それに法律上、先住権は俺にある!』
魔王がドレスのままコタツに潜り込み、芋ジャージの神様と、太宰治を読むライオンと、陣地争いを始めた。
こうして、俺の自由気ままなスローライフに、また一つ、とんでもなく厄介で、とんでもなくチョロい居候が増えたのだった。




