22話 交流戦優勝決定戦VSウォーリアーズ①
カウボーイズとウォーリアーズの交流戦第三試合。
勝ったチームが交流戦優勝にぐっと近づく。
ウォーリアーズの絶対的エース、上菅雅己は絶好調に見えた。
カウボーイズの誇る一番島岡、二番パーキンス――三振が少なく、出塁率の高い二人を連続で三振に切ってとる。
『三番センター、五十嵐陽翔』
東京ドームを埋めるウォーリアーズファンから拍手が起きる。
一昨日と昨日の試合でも感じたことだが、古巣であるウォーリアーズのファンたちは、陽翔に対してまったく悪い印象を抱いていないらしい。
移籍の経緯については、陽翔はチームに見限られただけの被害者。
その後の大活躍は、昔の姿を知っているファンからすれば、喜ばしいらしい。
昔から陽翔のファンだったコアな女性ファンは皆、ウォーリアーズからカウボーイズのファンに鞍替えしたという噂もある。
むしろ陽翔を手放してしまったことは、チームの首脳陣、フロントの見る目の無さ、指導力の無さを証明してしまった出来事であり、ファンからの非難の的となっている。
セリーグの首位を独走していながら、ファンからチームへの批判は少なくない。
とりわけ陽翔が干された直接的な原因と噂される、森田監督への不満は大きい。
さらに移籍の要因となった宮本は、その五十嵐陽翔移籍の代償としては物足りない成績のせいで、ファンから野次が飛ぶことも多い。
「プレイ!」
球審が試合を仕切る。
上菅が阿田からのサインに首を振る、もう一回振って、うなずく、陽翔に正対する。
何が来る?
上菅が右足を出し、くるっと体を半身に。
左足を上げ、重心を下げていく。
踏み出した左足で地面を強くつかみ、体の回転を使って右腕を奮う。
「ボール!」
外角低めへの完璧なストレート。
球審によってはストライクと判定を下してもおかしくない、良い球だ。
センターの遥か後方に高くそびえるLEDビジョンに、158km/hという文字が光る。
上菅の自己最速159キロに迫る球だった。
二球目、上菅は寸分狂わず、まったく同じフォームで投球を繰り出す。
またも相手バッテリーはストレートを選択してきた。
ストレートが来ることを予測していた陽翔は、渾身のスイングで迎え撃ったが、打球は前に飛ばなかった。
「ファウル!」
高めの157キロのストレートは、バットの上っ面に当たった。
上菅の直球は、陽翔の想像よりも高い軌道を通っているということだ。
プロの投手が投じたストレートといえど、ボールは約十八メートルを進む間に失速し、軌道が垂れてしまう。
しかし、ボールの回転数が多いほど、ボールの失速は小さく、軌道は垂れにくくなる。
実際はどんなに回転数が多くともボールはキャッチャーのミットに収まるまでに失速し軌道が落ちてしまうのだが、他の投手よりその落ちの幅が小さければ、バッターにとっては浮き上がって見える。
バッターは知っている軌道――平均的ピッチャーの軌道が頭に刷り込まれている。
それを元にやってくる球の軌道を予想し、ここに来ると計算してそこへスイングを合わす。
他投手より失速が小さく、バッターの頭に刻まれたイメージより軌道が高くを通るならば、バッターにとっては浮き上がったと感じるわけだ。
プロ野球のピッチャーが投じるストレートの平均的な回転数は2200程度。
それに対して上菅のストレートの回転数はなんと2600という数値にもなり、プロ野球どころか、世界的にもトップクラスの数字である。
もちろん陽翔は、その情報を頭に入れて打席に入っていた。
ボールの伸びを予測し、ボールが全然失速しないことも、軌道が垂れないことも完全に計算に入れてスイングを行った。
それでも、バットがボールの下っ面を叩いたのは、自分の見通しが甘かったこと。
上菅の球は、陽翔の一枚も二枚も文字通り上をいっていたということだ。
三球目、上菅はスライダーで陽翔の内側を抉ってくる。
ストライクゾーンギリギリを掠めたそのボールに陽翔は反応できず、球審のストライクを宣言する声が高らかにあがる。
今の球も相当レベルが高い。
普通のピッチャーなら三振を取りに来る決め球――三つ目のストライクを取りにいく球に余裕でなり得る。
どんなピッチャーだって、三つ目のストライクを、一つ目、二つ目より良い球で取りたい。
それは上菅も例外じゃないだろう。
凡庸な投手であれば、こんな良い球で二球目のストライクを取ってしまえば、三振を取りに行く、いわゆる決め球に困るはず。
ところが、それは上菅にとっては存在しない問題だ。
なぜなら彼の持ち球は全て決め球になり得るレベルの切れ味を誇り、どの球を一球目に使い、どの球を決め球に使って三振を奪うかなど些細な問題である。
球種の選択など、ただのストライクをどの球種で取りにいくかの順番を決める行為であり、キャッチャーとしてはこんなにリードが簡単なピッチャーはいないだろう。
そんな上菅の持ち球の中でも、最も打者にとっての脅威となるのが、スプリットである。
150キロ近いスピードで、バッターの手元で突然消失するかのように落ちていくボールは、日本球界にいる数多のスプリット使いの中でもトップクラスの球だ。
四球目、陽翔はスプリットを待った。
予想通り、バッテリーは、この球を選択した。
上菅の指から放たれたボールは、一直線に速度を持って進みながら、バッター手前で姿を消す。
陽翔は動体視力と事前のイメージで、ボールを追う。
バットを繰り出す。
テニスのラケットのように、沈んでいくボールを拾う。
音が鳴って、陽翔は走り出し、やがてスピードを緩める。
センターの足が止まり、差し出したグラブにボールが収まる。
「しゃあっ!」
上菅は、勝ち誇ったように陽翔へ向けてガッツポーズをした。
陽翔VS上菅の第一ラウンドはセンターライナー。
いい当たりだったものの、記録上の軍配は上菅に上がった。
◇◇◇◇
ショートの島岡がカウボーイズの先発、木佐糠に声を掛けるのが、中堅手の陽翔から見えた。
木佐糠は小さくうなずき、バッターと対峙する。
ノーアウト満塁、一回裏、カウボーイズはあっという間に大ピンチを作られてしまう。
先頭の吉村直之がセンター前ヒットでノーアウトランナー一塁。二番の松井哲郎がバントの構えからバットを引き、ヒッティング――バスターを試み、打球は簡単にレフト前へと転がっていく。
連続ヒットで無死一二塁、ウォーリアーズの三番、チームの主将にして攻守の要、坂根勇気を迎えた。
バッターとしては打ち気に逸るところだろうが、流石は坂根。
カウボーイズバッテリーとしては打ちにいって欲しい、ストライクゾーンぎりぎりのボールをあっさりと四つ見逃し、四球を選ぶ。
ノーアウト満塁――一つもアウトは取れていない、全ての塁が埋まっている。
ここで日本代表正捕手にして、セリーグ屈指の長距離ヒッター、阿田慎太郎が左打席に立つ。
守りが始まって五分も経っていないだろう。
カウボーイズはあっという間に失点必死の局面に対峙することになった。
阿田のバッターとしての弱点は、はっきり言って無いに等しい。
長距離バッターにありがちな、バットコントロールが悪いなんて弱点はない。
数年前には首位打者も獲得した彼は、打点を稼げるようなチャンスの場面ではミートに徹し、確実に投球を仕留めにくる。
キャッチャーとしての能力も高い。
阿田が四番捕手にどっしり座っているからこそ、近年のウォーリアーズ黄金期は築かれているといっても過言ではない。
木佐糠の阿田への初球、激しい打球音が響き、コンマ秒経った後、観客の歓声とため息が場内を包んだ。
「アウトっ!」
「あっぶね」
一塁審の右手が上がり、陽翔も安堵の息を漏らした。
木佐糠の投球を見事に捉えた阿田の打球は、痛烈に、快音を響かせ、一塁手、三浦のミットに収まる。
ファーストライナーで、ノーアウト満塁からワンアウト満塁。
少しだけ状況が好転する。
五番サード、岡村和也が右打席に立つ。
三年連続で三十本塁打を放った強打者への期待で、東京ドームに歓声の渦が巻く。
初球、快音が響き、またもウォーリアーズファンからはため息が漏れた。
打球の強さも、角度も十分で、本塁打に至らなかったのは、ただ少し方向がずれていただけ。
「ファウル!」
レフトスタンドを襲おうかという打球は、ほんの一メートルほどずれて、レフトのポールの左を通過した。
二球目、木佐糠の140キロ前半のストレートに、岡村は強振。
またもバットはボールを強く捉える。
しかし、
「ファウル!」
強く三塁線を抜けていった打球は、寸分の差で三塁線の外側を通った。
フェアになっていたら確実に二、三点は入っていただろう。
木佐糠、そしてカウボーイズにとってはまたも命拾いした。
「あぶね」
さっきからこういう独り言ばかり出てくる。
はっきりいって今日の木佐糠のピッチングでは、セリーグナンバーワンを誇るウォーリアーズ打線を抑えきれない。
陽翔は下唇を噛んだ。
なにはともあれバッテリーがツーストライクと追い込んだ三球目、事件は起きる。
木佐糠の投じた一球は、ボール二個分はストライクゾーンの外に外れていただろう。
判定をボールと確信した岡村は悠々と見送った。
が、
「ストライーク! バッターアウトっ!」
球審が宣告した。
はっきりいって、投球は間違いなくボール、つまり誤審と言わざるを得ない。
これには普段あまり感情を表に出さない岡村も、不服な表情を隠さなかった。
誤審に不服なウォーリアーズファンの野次が飛び交う中、六番バッター、ミレット・マホームズが打席に立つ。
マホームズが三球目を捉え、痛烈な打球を放つ。
しかし当たりはセンター真正面、陽翔が正面でボールを掴み、スリーアウト。
ノーアウト満塁でかつバッターは阿田、岡村、マホームズという強打者三人という失点確実な局面。
ラッキーにラッキーが重なり、カウボーイズは無失点で初回を終えた。
◇◇◇◇
長かったウォーリアーズの攻撃とは対照的に、二回表カウボーイズの攻撃はものの一瞬で終わる。
上菅の投球の前に、まともにバットがボールに当たらない。
先頭の四番、三浦こそ四球で出塁したが、五番のマイク・ハーパーは三球三振。
六番の前川は二球目をかろうじてバットに当てたが、打球に全く勢いはなく、ぼてぼてのピッチャーゴロ。
あまりに打球が弱く、ダブルプレーは免れた。
七番の田中はバットがボールに一回も触れることなく、空振りの三振で攻撃が終わる。
陽翔の体感で言えば、カウボーイズの攻撃は、ウォーリアーズの十分の一ほどの短さに思えた。
攻守入れ替わり、カウボーイズナインが守備に着く。
一回のピンチをなんとかゼロに抑えた木佐糠がこの回もマウンドに登る。
この回ウォーリアーズ打線は下位打線だし、なんとかテンポよくゼロで乗り切って欲しい。
そんな陽翔の願いとは裏腹に、この回も木佐糠は失点の危機を迎える。
先頭の七番ライト、秋定玲。
高卒三年目、有望株である長身左バッターの彼を、木佐糠は四球で歩かせる。
八番のセンター、松本はセンター前ヒットで、ノーアウト一二塁。
さらに、
「しゃあっ!」
レフト前ヒットを放ち、遠くの陽翔まで聞こえるかのような声で、上菅はガッツポーズをした。
九番、そして投手である上菅にまでヒットを打たれ、ノーアウト満塁。
一回の裏に続き、全ての塁が埋まる。
しかし、木佐糠の幸運は二回も続いていた。
一番の吉村が放った打球は、痛烈ながらもセカンド正面のライナーでまずアウトが一個増える。
快音が鳴り、すぐさまドーム中にため息が漏れる。
まるで一回の再現だった。
極めつけは、
「へ?」
センターの位置から、陽翔は素っ頓狂な声を出した。
二番、松井が見事にバットの芯で捉えた痛烈な打球は、木佐糠の足元を襲う。
木佐糠はそれに対し、自身の右足を投げだすと、右足はボールに当たった。
まるでサッカーだ。
木佐糠の足によって勢いを止められたボールは、進行方向を反転。
勢いよくカウボーイズのキャッチャー、坂本の方へと転がる。
坂本はホームベースを踏みながらボールを捕り、一塁へと送球した。
「アウトっ!」
ぎりぎりのタイミングながら坂本の送球は間に合った。
本塁、そして一塁でのホームゲッツーが成功する。
陽翔含め、ドーム中があっけに取られたのち、歓声が沸いた。
敵であるウォーリアーズファンからも拍手が起こる。
ピッチャーゴロかキャッチャーゴロかは分からないが、木佐糠の曲芸?によってまたしてもウォーリアーズのスコアにゼロが刻まれる。
上菅VS木佐糠という絶望的なマッチアップに、厳しい気持ちしか感じていなかった陽翔だったが、なんだか今日の幸運ぶりならいける、そんな気がした。
◇◇◇◇
148.牛を飼う名無しさん
今期成績
上菅 6勝1敗 防御率1.74 67イニング 71奪三振
木佐糠 0勝2敗 防御率7.29 12イニング 1奪三振
150.牛を飼う名無しさん
>>148
交流戦優勝決定戦でこのマッチアップ……
154.牛を飼う名無しさん
>>148
この試合のギャンブルのオッズぶっ壊れてそう
159.牛を飼う名無しさん
木佐糠のK/9 0.72は草
161.牛を飼う名無しさん
もう終わりだよこの試合
◇◇◇◇
512.牛を飼う名無しさん
奇跡キターーーーー
533.牛を飼う名無しさん
サッカーかな?
588.牛を飼う名無しさん
フ ァ ン タ ジ ス タ 木 佐 糠
589.牛を飼う名無しさん
二回連続ノーアウト満塁を無失点はラッキーすぎやろ
594.牛を飼う名無しさん
0に抑えたのはいいけどこんなの続いたら心臓もたなそう
612.牛を飼う名無しさん
なんか勝てる気がしてきた
617.牛を飼う名無しさん
>>612
一回冷静になれ
上菅打てる気配ないし幸運続きで二回0点に抑えただけだぞ
勝てる要素ゼロや
621.牛を飼う名無しさん
五十嵐と三浦のところでしか点取れんやろうな




