15話 森本玲央VS令和の怪物②
快音が鳴る。
佐々山の160キロを超えるストレートを、陽翔のバットは捉えた。
矢のような強烈なライナーは、スタジアムを包み込むオウルズファンの悲鳴を誘う。
しかし、
「アウトっ!」
二塁審の宣告が球場に響く。
陽翔の痛烈な打球は、オウルズのセンター荻原の真正面へのライナーだった。
荻原がしっかりボールを掴み、スリーアウトとなる。
球場からオウルズファンからの安堵の声と拍手、それとカウボーイズファンの溜息が漏れた。
陽翔は手を叩き、天を仰いだ。
いい当たりだったが、ツキがない。
ひとまずのところ、佐々山の連続奪三振は8でストップした。
しかし四回終わって未だにランナーを出せていない。
佐々山は前の試合から13イニングで一人も出塁させていないことになる。
その裏のカウボーイズの守り、森本はこの回も三人で相手の攻撃を終える。
佐々山の圧巻のピッチングに対しインパクトは劣るが、こちらも完壁な投球を続けていた。
両者とも一歩も引かない、見るものを魅了する投手戦、陽翔は当事者でなければ楽しめるのになあと思った。
五回の表、カウボーイズの攻撃は四番の三浦から。
カウボーイズで一番のバッターに、チームメイトに首脳陣、それにファンが期待を寄せる。
しかし、またしても三浦のバットは空を切った。
世にも珍しい三浦の、同一投手からの二打席連続三振。
佐々山の今日の試合、十個目の奪三振だった。
カウボーイズダグアウトは皆、腕組みをしたり、眉間にしわを寄せながらマウンドの佐々山を見つめる。
戦況は険しい。
こちらのエースも快投を続けているのは幸いではあるが、打線が点をやってやらないことには意味がない。
しかし、点を取るどころか、ランナーさえでないのだ。
「やはり――」
三振を喫しダグアウトに戻ってきた三浦は、陽翔へ言った。
「ランナーもいない。後続もどうせ続かないという状況ではホームラン以外は無意味だと思って一発狙ってみたが、今の彼にそれはきついな」
他の選手の発言ならば、言い訳やイキリだと思ってしまうが、三浦が言うのであれば、その通りなのだと感じる。
グラウンドでは、佐々山が五番のロペスを三振に切って取った。
まったく打てる気配のない打席だった。
これを見せられると、三浦がシングルヒットや四球で出塁しようが、後の者が何もできないことは容易に想像できる。
「次は単打だけ狙う。五十嵐、この意味わかるな?」
「……了解です」
三浦は次の打席、単打しか狙わない。
つまりそれは、単打で一点を取ることのできる場面を作っておかないといけない。
ランナーを二塁か三塁の得点圏においた状況を、陽翔が作っておく必要があるということだ。
六番もピッチャーゴロに倒れた。
カウボーイズ打線では、陽翔以外で初めて前に飛ばした打球となった。
◇◇◇◇
両投手の快投は続く。
五回、六回、両チームのアウトがテンポよく積み重なっていく。
三振に次ぐ三振。
森本玲央と佐々山直樹の異次元の投球により、球場は興奮の坩堝と化していく。
六回の攻防――というか両投手の投球ショーが終わり、七回が始まる前、森本玲央は陽翔へ言った。
「せっかく俺がノーヒットノーランやってんのに、あいつが完全試合やったら影が薄くなってしまうな」
そう、前の試合に続きこの試合もランナーを一人も出してない佐々山に注目してしまうが、森本も未だオウルズにヒットを許していない。
初回の三つの四球を与えた以外は、完璧な投球を続けているのだ。
奪った三振も、佐々山は12個に対し、森本も11個。
まったく引けを取らない投球といっていい。
「あいつの引き立て役はごめんだ」
「そうなったら……悪いのは俺ら野手陣です」
「わかってるじゃねえか。今日俺はキャリア最高のピッチングをしてる。なのにあいつがそれ以上のピッチングをしたら困るな」
「そうっすね」
「そうすねじゃねえよ。安心してください。俺があいつを止めてきます、ぐらい言えよ」
「……まあ、やれるだけやってみます」
陽翔は、三浦や森本のように自信に満ち溢れているわけではない。
しかしこの試合に限っては、自分がやらなきゃ誰がやるという気持ちはある。
カウボーイズ打線で一番佐々山を打てそうな雰囲気があるのは、自分であるのは間違いない。
その自分に回ってきて、さらにランナーが一人出れば三浦に回るこの七回こそ、カウボーイズにとっては最大の好機になるはず。
この回の先頭、島岡はあっさりとショートゴロ、二番パーキンスは三振に倒れる。
佐々山に疲れは見えない。
この回から打者三巡目、今日三回目の佐々山との対決である。
通常であれば三回目の対決でれば、投手に疲労が出始める、バッターの目が慣れてきたということもあり、断然バッター有利となる。
データでも投手の被打率は、三巡目に露骨に高くなっていく。
ただ佐々山の場合はそういったデータや通説は当てにならないと考えていい。
そもそもランナーを出すことなく球数も大して投じてないので、疲労もそれほど無いはず。
また、あの異次元の球は、多少慣れたところで簡単にどうこうできるものではない。
『三番センター、五十嵐陽翔』
左打席に立つ。
スタジアムの一部、カウボーイズファンの声援が大きくなったのがわかった。
陽翔に期待している、というか期待するしかないのだ。
マウンドの佐々山、左足がふわっと、高く上がる。
長身の体躯が体重を落としていき、重心が前へ。
流れるような美しいフォームから、弾丸のようなストレートが放たれる。
「ストライーク!」
ふと、今日の球審は全然“ボール”のコールをしていないと思った。
森本と佐々山、どちらもボールを出さず、ストライクばかりだ。
その点も佐々山の凄いところだ。
若い速球ピッチャーにありがちなコントロールの破綻がない。
二球目、ストレートが高めを襲う。
陽翔はスイングで迎え撃ったが、打球は後ろへと飛んで行った。
バックネットに当たるファウルとなり、二球で追い込まれる。
三球目、相手バッテリーはスプリットで決めにくると思ったが、裏をかきにきたか、真っすぐな軌道で白球はやってくる。
なんとかバットに当て、ファウルで逃げる。
四球目はスプリットだった。
真ん中から低めへと軌道を変える。
バットの先にあて、ファウル。
五球目は予想外の軌道を見せる。
真ん中から食い込んでくるスライダーが、キレよく陽翔の内角を襲う。
これもファウルにできた。
今日ほとんど見せていないスライダーだ。
ストレートとスプリットほどの完成度はない。
もし佐々山がスライダーを凶悪な決め球へと昇華させたなら、想像するだけで恐ろしい。
六球目、ストレートが真ん中へとやってくる。
打ちにいったが、捉えられず、またもファウルだった。
これまで全球、ストライクゾーンに佐々山は投げ込んできている。
陽翔は、なんとも良い性格をしていると思った。
佐々山と面識はないが、インタビューなどを見る限り、普通の好青年に見えた。
しかしマウンドに上がると、度胸が良く、ピッチャー向きの性格をしているように見える。
投球フォーム、身体能力、性格、すべてがピッチャーになるために生まれたような存在だと思った。
生まれ変わるならこんなピッチャーになってみたいと、昔投手を少しやっていた陽翔は思った。
七球目、外へのストレートを冷静に見極めボール。
そして八球目、スプリット。
低めへと落ちていく。
ストレートのタイミングで待っていた体を少し止め、待つ。
あとはドンピシャのとこでバットを振るう。
感触は良くも悪くもなかった。
しかし打球はピッチャーの横を抜け、センターへと抜けていくゴロとなる。
陽翔は一塁に達する。
カウボーイズにとっての初ヒットにして初のランナー。
佐々山の完全試合を打ち砕き、三試合をまたいで続いていた彼の連続イニングパーフェクトは18イニングでストップした。
歓声と悲鳴、ため息が入り混じり、スタジアムの異様な雰囲気を演出する。
陽翔は、大きく手を叩いた。
あとは、簡単だ。
三浦が打席に入ると、佐々山は執拗に陽翔へ牽制を入れてきた。
盗塁を警戒しているのだろうが、問題はなかった。
佐々山からヒットを打つことに比べれば、盗塁を決めることなど簡単に思える。
三浦への初球、陽翔は走った。
地面を強く蹴り、スライド大きく走り、二塁へ足から飛び込む。
タッチより早く、右足はベースへと届いた。
「セーフ!」
陽翔はチャンスを作り、三浦との約束を果たした。
あとは三浦の単打を待つだけ。
三浦に対し、佐々山は今日初めて制球を乱した。
二球ボールが続いた後、三球目のストレートを三浦は打ちにいく。
鈍い音が鳴ったが、打球はセカンドとライトの間に落ちた。
おそらく、三浦の狙い通りだろう。
わざと打球を詰まらせて、内野と外野の間に落とす。
達人の技だ。
バットとボールが当たったと同時にスタートを切っていた陽翔は、悠々とホームへと生還した。
均衡を破る一点が、スコアボードに刻まれる。
七回表、カウボーイズはついに先取点を手に入れた。
ダグアウトに帰った陽翔を、森本は出迎えた。
「よくやった二人とも! あとは俺に任せろ!」
その言葉通り、後は森本の投球劇で、七回、八回、九回とパーフェクトに抑えた。
すなわち、ノーヒットノーランを達成したのだ。
佐々山との最強を巡る戦いに勝利、新世代の引き立て役にはならなかった。
この劇的な試合を機に、カウボーイズは加速した。
好調を維持し続け、四月は一回も首位を明け渡すことなかった。
長いシーズンの最初の一か月、チームは最高のスタートを切った。
◇◇◇◇
334.牛を飼う名無しさん
4月首位とかいつぶりなんだ?
336.牛を飼う名無しさん
>>334
12年ぶりらしい
337.牛を飼う名無しさん
>>336
ファーーーーーー
342.牛を飼う名無しさん
>>337
ちな12年前は5月以降失速し余裕の最下位
345.牛を飼う名無しさん
>>342
縁起悪くて草
352.牛を飼う名無しさん
五十嵐陽翔 .352 7本 16打点 OPS 1.112
三浦豪成 .340 6本 20打点 OPS 1.050
森本玲央 4勝0敗 1.50 30回 41奪三振
4月のチームMVPは誰?
355.牛を飼う名無しさん
>>352
ワイは陽翔
森本と三浦は想像通りの活躍やし予想以上の活躍でチームに勢いをつけたのは陽翔や
356.牛を飼う名無しさん
>>352
五十嵐
357.牛を飼う名無しさん
>>352
全員MVPだけどしいて言うならやっぱ五十嵐
358.牛を飼う名無しさん
お前ら五十嵐好きすぎやろ
ワイも好きやけど
362.牛を飼う名無しさん
>>358
育成上がりで人的補償だった体格的に恵まれてない選手がホームランバッターになるとかロマンありすぎやししゃーない
367.牛を飼う名無しさん
こんなに好調で体感毎日勝ってるのに2ゲーム差でピッタリついてくるシーホークスなんやねん
怪我人多いしそんなに調子予想に見えんのに
370.牛を飼う名無しさん
ちょっとでも負けこむと一瞬でシーホークスに抜かれそうで怖い




