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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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15/43

15話 森本玲央VS令和の怪物②

 快音が鳴る。

 佐々山の160キロを超えるストレートを、陽翔のバットは捉えた。

 矢のような強烈なライナーは、スタジアムを包み込むオウルズファンの悲鳴を誘う。

 しかし、


「アウトっ!」


 二塁審の宣告が球場に響く。

 陽翔の痛烈な打球は、オウルズのセンター荻原の真正面へのライナーだった。

 荻原がしっかりボールを掴み、スリーアウトとなる。

 球場からオウルズファンからの安堵の声と拍手、それとカウボーイズファンの溜息が漏れた。


 陽翔は手を叩き、天を仰いだ。

 いい当たりだったが、ツキがない。

 ひとまずのところ、佐々山の連続奪三振は8でストップした。

 しかし四回終わって未だにランナーを出せていない。

 佐々山は前の試合から13イニングで一人も出塁させていないことになる。


 その裏のカウボーイズの守り、森本はこの回も三人で相手の攻撃を終える。

 佐々山の圧巻のピッチングに対しインパクトは劣るが、こちらも完壁な投球を続けていた。

 両者とも一歩も引かない、見るものを魅了する投手戦、陽翔は当事者でなければ楽しめるのになあと思った。


 五回の表、カウボーイズの攻撃は四番の三浦から。

 カウボーイズで一番のバッターに、チームメイトに首脳陣、それにファンが期待を寄せる。

 しかし、またしても三浦のバットは空を切った。

 世にも珍しい三浦の、同一投手からの二打席連続三振。

 佐々山の今日の試合、十個目の奪三振だった。


 カウボーイズダグアウトは皆、腕組みをしたり、眉間にしわを寄せながらマウンドの佐々山を見つめる。

 戦況は険しい。

 こちらのエースも快投を続けているのは幸いではあるが、打線が点をやってやらないことには意味がない。

 しかし、点を取るどころか、ランナーさえでないのだ。


「やはり――」


 三振を喫しダグアウトに戻ってきた三浦は、陽翔へ言った。


「ランナーもいない。後続もどうせ続かないという状況ではホームラン以外は無意味だと思って一発狙ってみたが、今の彼にそれはきついな」


 他の選手の発言ならば、言い訳やイキリだと思ってしまうが、三浦が言うのであれば、その通りなのだと感じる。

 グラウンドでは、佐々山が五番のロペスを三振に切って取った。

 まったく打てる気配のない打席だった。

 これを見せられると、三浦がシングルヒットや四球で出塁しようが、後の者が何もできないことは容易に想像できる。


「次は単打だけ狙う。五十嵐、この意味わかるな?」 


「……了解です」


 三浦は次の打席、単打しか狙わない。

 つまりそれは、単打で一点を取ることのできる場面を作っておかないといけない。

 ランナーを二塁か三塁の得点圏においた状況を、陽翔が作っておく必要があるということだ。


 六番もピッチャーゴロに倒れた。

 カウボーイズ打線では、陽翔以外で初めて前に飛ばした打球となった。


 ◇◇◇◇


 両投手の快投は続く。

 五回、六回、両チームのアウトがテンポよく積み重なっていく。

 三振に次ぐ三振。

 森本玲央と佐々山直樹の異次元の投球により、球場は興奮の坩堝と化していく。


 六回の攻防――というか両投手の投球ショーが終わり、七回が始まる前、森本玲央は陽翔へ言った。


「せっかく俺がノーヒットノーランやってんのに、あいつが完全試合やったら影が薄くなってしまうな」


 そう、前の試合に続きこの試合もランナーを一人も出してない佐々山に注目してしまうが、森本も未だオウルズにヒットを許していない。

 初回の三つの四球を与えた以外は、完璧な投球を続けているのだ。

 奪った三振も、佐々山は12個に対し、森本も11個。

 まったく引けを取らない投球といっていい。


「あいつの引き立て役はごめんだ」


「そうなったら……悪いのは俺ら野手陣です」


「わかってるじゃねえか。今日俺はキャリア最高のピッチングをしてる。なのにあいつがそれ以上のピッチングをしたら困るな」


「そうっすね」


「そうすねじゃねえよ。安心してください。俺があいつを止めてきます、ぐらい言えよ」


「……まあ、やれるだけやってみます」


 陽翔は、三浦や森本のように自信に満ち溢れているわけではない。

 しかしこの試合に限っては、自分がやらなきゃ誰がやるという気持ちはある。

 カウボーイズ打線で一番佐々山を打てそうな雰囲気があるのは、自分であるのは間違いない。

 その自分に回ってきて、さらにランナーが一人出れば三浦に回るこの七回こそ、カウボーイズにとっては最大の好機になるはず。


 この回の先頭、島岡はあっさりとショートゴロ、二番パーキンスは三振に倒れる。

 佐々山に疲れは見えない。


 この回から打者三巡目、今日三回目の佐々山との対決である。

 通常であれば三回目の対決でれば、投手に疲労が出始める、バッターの目が慣れてきたということもあり、断然バッター有利となる。

 データでも投手の被打率は、三巡目に露骨に高くなっていく。


 ただ佐々山の場合はそういったデータや通説は当てにならないと考えていい。

 そもそもランナーを出すことなく球数も大して投じてないので、疲労もそれほど無いはず。

 また、あの異次元の球は、多少慣れたところで簡単にどうこうできるものではない。


『三番センター、五十嵐陽翔』


 左打席に立つ。

 スタジアムの一部、カウボーイズファンの声援が大きくなったのがわかった。

 陽翔に期待している、というか期待するしかないのだ。


 マウンドの佐々山、左足がふわっと、高く上がる。

 長身の体躯が体重を落としていき、重心が前へ。

 流れるような美しいフォームから、弾丸のようなストレートが放たれる。


「ストライーク!」


 ふと、今日の球審は全然“ボール”のコールをしていないと思った。

 森本と佐々山、どちらもボールを出さず、ストライクばかりだ。


 その点も佐々山の凄いところだ。

 若い速球ピッチャーにありがちなコントロールの破綻がない。


 二球目、ストレートが高めを襲う。

 陽翔はスイングで迎え撃ったが、打球は後ろへと飛んで行った。

 バックネットに当たるファウルとなり、二球で追い込まれる。


 三球目、相手バッテリーはスプリットで決めにくると思ったが、裏をかきにきたか、真っすぐな軌道で白球はやってくる。

 なんとかバットに当て、ファウルで逃げる。


 四球目はスプリットだった。

 真ん中から低めへと軌道を変える。

 バットの先にあて、ファウル。


 五球目は予想外の軌道を見せる。

 真ん中から食い込んでくるスライダーが、キレよく陽翔の内角を襲う。

 これもファウルにできた。


 今日ほとんど見せていないスライダーだ。

 ストレートとスプリットほどの完成度はない。

 もし佐々山がスライダーを凶悪な決め球へと昇華させたなら、想像するだけで恐ろしい。


 六球目、ストレートが真ん中へとやってくる。

 打ちにいったが、捉えられず、またもファウルだった。


 これまで全球、ストライクゾーンに佐々山は投げ込んできている。

 陽翔は、なんとも良い性格をしていると思った。

 佐々山と面識はないが、インタビューなどを見る限り、普通の好青年に見えた。

 しかしマウンドに上がると、度胸が良く、ピッチャー向きの性格をしているように見える。


 投球フォーム、身体能力、性格、すべてがピッチャーになるために生まれたような存在だと思った。

 生まれ変わるならこんなピッチャーになってみたいと、昔投手を少しやっていた陽翔は思った。


 七球目、外へのストレートを冷静に見極めボール。

 そして八球目、スプリット。


 低めへと落ちていく。

 ストレートのタイミングで待っていた体を少し止め、待つ。

 あとはドンピシャのとこでバットを振るう。


 感触は良くも悪くもなかった。

 しかし打球はピッチャーの横を抜け、センターへと抜けていくゴロとなる。

 陽翔は一塁に達する。


 カウボーイズにとっての初ヒットにして初のランナー。

 佐々山の完全試合を打ち砕き、三試合をまたいで続いていた彼の連続イニングパーフェクトは18イニングでストップした。


 歓声と悲鳴、ため息が入り混じり、スタジアムの異様な雰囲気を演出する。

 陽翔は、大きく手を叩いた。

 あとは、簡単だ。


 三浦が打席に入ると、佐々山は執拗に陽翔へ牽制を入れてきた。

 盗塁を警戒しているのだろうが、問題はなかった。

 佐々山からヒットを打つことに比べれば、盗塁を決めることなど簡単に思える。


 三浦への初球、陽翔は走った。

 地面を強く蹴り、スライド大きく走り、二塁へ足から飛び込む。

 タッチより早く、右足はベースへと届いた。


「セーフ!」


 陽翔はチャンスを作り、三浦との約束を果たした。

 あとは三浦の単打ヒットを待つだけ。


 三浦に対し、佐々山は今日初めて制球を乱した。

 二球ボールが続いた後、三球目のストレートを三浦は打ちにいく。

 鈍い音が鳴ったが、打球はセカンドとライトの間に落ちた。


 おそらく、三浦の狙い通りだろう。

 わざと打球を詰まらせて、内野と外野の間に落とす。

 達人の技だ。


 バットとボールが当たったと同時にスタートを切っていた陽翔は、悠々とホームへと生還した。

 均衡を破る一点が、スコアボードに刻まれる。

 七回表、カウボーイズはついに先取点を手に入れた。


 ダグアウトに帰った陽翔を、森本は出迎えた。


「よくやった二人とも! あとは俺に任せろ!」


 その言葉通り、後は森本の投球劇で、七回、八回、九回とパーフェクトに抑えた。

 すなわち、ノーヒットノーランを達成したのだ。

 佐々山との最強を巡る戦いに勝利、新世代の引き立て役にはならなかった。


 この劇的な試合を機に、カウボーイズは加速した。

 好調を維持し続け、四月は一回も首位を明け渡すことなかった。

 長いシーズンの最初の一か月、チームは最高のスタートを切った。


◇◇◇◇


 334.牛を飼う名無しさん


 4月首位とかいつぶりなんだ?


 336.牛を飼う名無しさん


 >>334

 12年ぶりらしい


 337.牛を飼う名無しさん


 >>336

 ファーーーーーー


 342.牛を飼う名無しさん


 >>337

 ちな12年前は5月以降失速し余裕の最下位


 345.牛を飼う名無しさん


 >>342

 縁起悪くて草


 352.牛を飼う名無しさん


 五十嵐陽翔 .352 7本 16打点 OPS 1.112

 三浦豪成  .340 6本 20打点 OPS 1.050

 森本玲央  4勝0敗 1.50 30回 41奪三振


 4月のチームMVPは誰?


 355.牛を飼う名無しさん


 >>352

 ワイは陽翔

 森本と三浦は想像通りの活躍やし予想以上の活躍でチームに勢いをつけたのは陽翔や


 356.牛を飼う名無しさん


 >>352

 五十嵐


 357.牛を飼う名無しさん


 >>352

 全員MVPだけどしいて言うならやっぱ五十嵐


 358.牛を飼う名無しさん


 お前ら五十嵐好きすぎやろ

 ワイも好きやけど


 362.牛を飼う名無しさん


 >>358

 育成上がりで人的補償だった体格的に恵まれてない選手がホームランバッターになるとかロマンありすぎやししゃーない


 367.牛を飼う名無しさん


 こんなに好調で体感毎日勝ってるのに2ゲーム差でピッタリついてくるシーホークスなんやねん

 怪我人多いしそんなに調子予想に見えんのに


 370.牛を飼う名無しさん


 ちょっとでも負けこむと一瞬でシーホークスに抜かれそうで怖い

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― 新着の感想 ―
[良い点] 4月で7本もHR打って守備もいい盗塁もできる若手センター贔屓に居たら毎日応援楽しいだろうなぁ 1シーズンしか書かれないのがもったいないくらい 楽しみながら読んでます [気になる点] ここ…
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