14話 森本玲央VS令和の怪物①
『空振り三振! 二十歳の佐々山直樹、完全試合を成し遂げました!』
平均球速160キロと言われても、なんだか凄すぎてピンとこない。
日本プロ野球において速球派と呼ばれるピッチャーでも、ストレートの最高球速が160を超える選手など数えるほどしかいない。
それを千葉オウルズ所属の弱冠二十歳、佐々山直樹は平均で超えてくる。
佐々山は高校時代、163キロのストレートを投じたことで注目を浴び、令和の怪物と呼ばれるようになった。
彼を複数の球団がドラフト一位で指名。
交渉権を得るためのくじ引きに勝利したのは、千葉オウルズだった。
一年目はほとんど実戦で投げず、体づくりに努めた。
二年目はペナントレースの後半戦から一軍で投げるようになる。
早くもチームのエース格となり、クライマックスシリーズ出場に貢献した。
迎えた三年目となる今シーズン、初めてのシーズン開幕から一軍にいる怪物は、ついにその大器を開花させる。
開幕試合を完封勝利で飾ると、二試合目も七回一失点で勝利。
そして三試合目は伝説となった。
13人連続奪三振を記録するなど、奪った三振は19個。
出したランナーはゼロ――27人連続でアウトを奪う――最年少での完全試合の達成だった。
元々高校時代から知名度は高かったが、この完全試合で球界一のスターになったといい。
「うーん……」
陽翔は何度も佐々山の投球映像を見ていた。
映像を見ては唸っている理由は他ならない。
今日の対戦相手、千葉オウルズの先発ピッチャーこそ、佐々山直樹だった。
ストレートの平均球速は160キロ、それだけで厄介なのに、佐々山の武器はそれだけではない。
150キロ近い――他の投手のストレート並みのスピードで落ちるスプリット、この球こそ佐々山の第二の武器であり、打者にとっては脅威の球となっている。
「三浦さんは、対戦したことありますよね。どんな感じでしたか?」
隣ではカウボーイズ主砲の三浦も、佐々山の投球を食い入るように見ていた。
昨季、佐々山はカウボーイズと二回ほど対戦したそうだが、昨シーズン最終戦で昇格するまで二軍にいた陽翔は、佐々山の球を打席で見たことは無い。
カウボーイズとオウルズのファーム組織――いわゆる二軍も、ウエスタンとイースタンで別のリーグであったため、まったく対戦する機会がなかった。
「そうだな。一言でいえば化け物だな」
「それは映像で見てても分かりますよ……打席での感じを聞いてるんです」
「昨年の印象など意味ない。佐々山はあの時の時点で十分化け物だった、俺も2三振を食らったしな。だが、佐々山は今年はさらに進化をしている。昔のイメージでいったらやられてしまう。俺たちが今日対戦するのは去年までの未完の怪物ではない。間違いなく世界でもトップクラスのピッチャーだ」
陽翔は息を呑んだ。
日本最高のバッターである三浦にしてそこまで言わせるとは、しかし、今の佐々山が世界トップクラスであることには疑いようがない。
三浦は立ち上がって部屋を出ていこうとする。
その背中に陽翔は声を掛けた。
「なんか対策とかないんですか?」
「……160キロだろうが10キロだろうが、ストライクゾーンに入ってくる以上、バットの届く範囲にある。タイミングを合わせて振れば絶対打てる」
三浦はそう言って扉を開け廊下に出た。
陽翔は「それが出来たら苦労しねえよ」と心の中で突っ込んだ。
◇◇◇◇
千葉オウルズの本拠地、オウルズスタジアムは満員だった。
もちろん彼らの注目の大部分は、前回完全試合の若きエースに注がれる。
しかし今日の試合の注目は佐々山だけではない。
対するカウボーイズの先発は日本の大エース、森本玲央であるのだ。
現日本プロ野球最強のピッチャー森本と、次世代最強のピッチャー佐々山の対決は、大いに話題を呼んだ。
森本が現最強の貫録を見せつけるか、それとも最強の世代交代か、プロ野球ファンにっては大注目の試合である。
陽翔も当事者でなければ、この試合を楽しめただろうにと、残念に思う。
当の森本本人は、
「相手が誰であろうと意識せず、自分の仕事をするだけです。あと、ついでに完全試合を達成できたらいいです」
と、相手を意識せずと言いながら、かなり佐々山を意識したコメントを出していた。
ファン目線ではなく、この試合に勝つための目線で考えると、とにかく一点でいい。
それだけあれば、森本なら完全試合はともかく、ゼロには抑えてくれる。
最初の対戦は、相手の球を見切ることに費やすなどしてもいい。
序盤を捨ててでも、最後に一点を取りに行く。
それぐらいの意識でないと、今の絶好調の怪物からは点が取れない気がした。
「プレイ!」
大歓声の中、佐々山がマウンドに登り、試合が始まる。
カウボーイズ一番の島岡に対し、第一球を投じる。
しなやかかつ、高く足が上がる。
体重が沈み込み、腕を鞭のようにしならせる。
投球は光線のよう真っすぐ捕手のミットを打つ。
「ストライク!」
球審も力が入ったか、通常より声が大きい。
160キロの表示が出て、スタジアムが早速沸く。
フォームのしなやかさこそ、佐々山のストレートの源だ。
身長190センチを超える長身の彼だが、決して馬力だけでストレートを放っているだけではない。
類まれなる体の柔軟性により、その馬力を何倍にも増幅させ、世界トップクラスの速球を投げ込む。
天賦の才、速い球を投げ込むための才能を全て持っている。
二球目、またもストレートだった。
今度は島岡も狙っていたか、振りに行ったが、かすりすらしない。
あっという間に追い込まれる。
こうなってくるとバッターにとっては厳しい。
ストレート、スプリットを両方張っていくのは厳しい。
かといって勘でどちらかを狙い、それがたとえ当たったとしても、ヒットを打つのは難しい。
狙っていた方が来たとしても、空振りの可能性が大いにあるのが佐々山の球なのだ。
三球目、島岡は手を出すことすらできない。
高めから低めへと落ちていく、ストライクからストライクへと落ちていくスプリットを見送ることしかできない。
球審が力強く三振をしめす。
バッターボックスから帰ってきた島岡は、
「あんな球、どないせえちゅうねん」
とすれ違いざま陽翔に言った。
二番のパーキンスは初球ボールの後、二球目を打ち上げてキャッチャーフライ。
五球でツーアウトになり、陽翔の打順がやってくる。
『三番センター、五十嵐陽翔』
初球、佐々山の投じる球を見送る。
163キロであるその球は、陽翔の想像を超える軌道を描く。
「ストライッ!」
昨日から何度も対決のイメージを繰り返したが、全部消し去るべきなのかもしれない。
佐々山は映像と陽翔のイメージを遥かに凌駕していた。
二球目、ストレートが襲ってくる。
スイングの軌道は、ボールより少し低くかった。
打球は真後ろに飛んでいくファウルとなった。
ボールの下を叩いたということは、まだ佐々山の球の伸びと自分のイメージに相違があるのだろう。
まったく、どこまで凄いんだと溜息をつきたくなる。
三球目、スプリット――島岡が三振に取られたのと同様、高めから低めに落ちていく球だった。
何とか当てたが、打球は力の感じられないセカンドゴロに終わる。
カウボーイズは佐々山に対し、三者凡退と上々の立ち上がりを許すことになった。
◇◇◇◇
一回の裏、もうひとりの主役、森本玲央がマウンドに上がる。
いつも通りの落ち着いた様子で投球練習をこなし、オウルズの先頭バッターを迎えた。
良いスタートを切った佐々山に続くのを期待したいところだったが、
「ボールフォア!」
先頭バッターに4球連続でボールと、ストライクが入らない。
さらには二番、三番にも四球を与える。
コントロールの良い森本にあるまじき三者連続フォアボール、まさかのノーアウト満塁となった。
余りにも佐々山と対照的なマイナスなスタートに、球場はざわめきが止まらなかった。
状況的には喜んでいいはずのオウルズファンも、なぜか困惑をしてしまっている。
どちらのファンであろうと皆、佐々山と森本の素晴らしい投手戦を期待しているのだろう。
陽翔はセンターからハラハラで森本を見ていた。
しかし、ここからが彼のショーだった。
四番、五番、六番から連続の三振を奪取する。
三者連続三振――三人のランナーが残塁――ノーアウト満塁を無失点で終える。
佐々山とはまた違う、こちらも圧巻のスタートだ。
カウボーイズナインがダグアウトに戻っていく。
二回表の先頭バッターである三浦が、森本へ言う。
「最初からそれやれ」
「うっせえ。早く打席いけ」
森本と小バトルした後、三浦は打席の準備へ向かう。
同期入団で同い年の二人だが、仲はすこぶる悪いらしい。
「最初どうしたんです? ハラハラしましたよ」
陽翔が言うと森本は、
「わりいわりい。ちょっと興奮しちまってな」
「興奮?」
「あいつとの投げ合いはやっぱ意識しちまうな」
「やっぱり、負けたくないからですか?」
「それもあるが、一番はあいつを見ているとワクワクする。直樹の才能は、俺を超える」
佐々山のことを下の名前で呼ぶということは、それなりに親交があるのだろう。
「俺はあいつに世界一の投手になって欲しい。だからこそ、俺の技術経験をこの試合を通じて直樹に感じ取って欲しい。俺は来年メジャーに行く。もしかしたら直接投げ合うのはこの試合が最後になるかもしれない。だからこそ、俺はこの試合に直樹にすべてをぶつける」
陽翔は驚いた。
単純な勝ち負けではなく、後進の育成という次元で試合を考えていたなんて、球界のトップの考えることは凄い。
森本は続ける。
「もちろん負ける気はしないけどな。絶対勝つつもりだ。それには不甲斐ない野手陣が点を取ってくれるのが前提だが」
グラウンドでは、カウボーイズの四番、三浦が空振り三振に倒れていた。
それも、二回の空振りを喫しての三振である。
日本で一番空振りしないバッターである三浦が、一回の打席で二回の空振りをしたのはいつぶりなのだろうか。
少なくとも陽翔は、今シーズン、三浦のそのような姿は記憶になかった。
「三浦でさえああとなると、なかなか厳しいな」
森本がマウンドの佐々山を視界にとらえ呟く。
続けて言う。
「一点でいい。お前らには酷な要求かもだけどな」
「いえ、真っ当な要求です」
どうにもこうにも、なんとか一点取って森本が完封する。
それ以外の勝ち筋が見えないのは確か。
しかしホーム――オウルズスタジアムの佐々山相手では一点取るのすら期待値的に厳しい。
今シーズン未だにホームで失点ゼロ、昨シーズンから続くホームでの連続無失点は25イニングにも及ぶ。
キャリア通算でもホームでの防御率はゼロ点代。
オウルズスタジアムでの佐々山は、難攻不落だ。
◇◇◇◇
二回、三回はスタジアム大興奮の奪三振ショーだった。
佐々山は二回、三回共に三者連続三振を見せる。
対する森本は二回、三回ともに二つずつ三振を取る。
両者ともに三回終わって七個の奪三振、今日の試合の合計アウト18個のうち、14個を三振という展開に、投手戦を期待していた観客のボルテージは最高潮だ。
三回表、一番の島岡、二番のパーキンスともに三振に終わる。
二回の先頭バッター三浦から始まった連続三振は、パーキンスで八人連続となった。
ここまでノーヒットで、まるで佐々山の前回登板をなぞっているような展開だった。
そして陽翔は打席に立つ。
九人目にならぬようにしたいところが、当てにいってはいけない。
しっかりと振らなければ、ヒットは打てない。
今日の佐々山はコントロールミスも期待できないため、フォアボールも期待できない。
打てる球がきたら、しっかり振り抜く。
前の打席のイメージを携え、佐々山に対峙する。
初球、佐々山のストレートがうなりを上げ襲ってくる。
陽翔は全力のスイングで迎え撃った。
芯がボールを喰う。
快音が鳴り、陽翔は走り出した。
◇◇◇◇
912.牛を飼う名無しさん
8人連続wwwwww
どうやって打つんだよこの化け物
934.牛を飼う名無しさん
160キロを超えるストレート
150キロ近い落差あるスプリット
コントロール抜群
早くメジャーにいって
954.牛を飼う名無しさん
今日唯一前に飛ばした五十嵐に期待するしかない
ヒットとはいわんからとにかく前に飛ばして
966.牛を飼う名無しさん
五十嵐は速い球にめっぽう強いから一番期待できる
988.牛を飼う名無しさん
お
991.牛を飼う名無しさん
いけ
999.牛を飼う名無しさん
あ




