42.チェルの仕事
魔物との戦闘になりますので、残酷な描写があります。ご注意下さい。
魔王は仲間を呼んだ▼
四大精霊が現れた▼
私の頭の中でゲーム画面が思い浮かぶ。これは勇者の立場だったらコントローラーをぶん投げているかもしれない。魔王様直属の配下。ヴクさんだけでも強いはずだが、更に四大精霊まで出てくるなんて。これはキングタートルに悪いことをしてしまったな。
それにしてもなんで他の精霊達も一緒なんだろうか?
「ディーネ達も一緒なんだ。相変わらず仲良しだね。チェルくん」
ラビアさんの声が聞こえた。ディーネ。ウンディーネの事だろうか。シルフィードのこともシルフィと呼んでいる様だし、名前のようなものかもしれない。確かに私も人間と呼ばれるのは嫌だし。私もシルフィさん、ディーネさんと呼ぼう。他の二人はお名前を聞いてからにしよう。知る機会があるからはわからないけど。
それよりもシルフィさんとディーネさん達は仲良し。四体一緒。だから精霊戦はあんなに鬼畜仕様だったんだ。
そしてなんでラビアさんはチェルさんに話をふったんだろう。見上げるとチェルさんが話しかけるなと言いたげな表情をしていた。
「いつもの事だ。休みの日の話をよくしているからな」
それでもなんだかんだでちゃんと返す。律義だ。それよりも意外なのはチェルさんがシルフィさん達の事を知っていること。チェルさんは他の魔物さんには興味を持ちそうもない。珍しい。そんな事を考えている場合ではないが、気になってしまう。
「姫ちゃんはシルフィ達の事を聞いていないんだ? あの四体はチェルくんの配下だよ」
「チェルさんの?」
そう言えば以前ユンさんがシルフちゃんと言っていたことがあった。きっとシルフィさんの事だろう。そしてチェルさんから配下の魔物さん達がお菓子を持ち寄って集まると聞いていた。
チェルさんの配下の魔物さん達。その言葉を聞いた瞬間親近感が一気に湧いた。
「俺の配下がどんな魔物だろうと関係ない。姫の監視は俺だ」
「そうだったね」
チェルさんの言葉にラビアさんが納得する。チェルさんは他の魔物さんと関わることは好きではない。
私には関係ない事と言っている程なので、きっとシルフィさん達と話す機会はないだろう。
そう思いながら、再びモニターへと視線を戻す。キングタートルはシルフィさんの子守唄で眠っていた。
丁度ヴクさんが眠っているか確認している所だった。ヴクさんが恐る恐るキングタートルに近づいている。キングタートルが動かないことを確認したヴクさんはそのままシルフィさんが持ってきた槍で殻の中に向け一刺した。
その瞬間キングタートルの手足が僅かに上がり、直ぐに落ちた。槍からつたわる血の量から察する。どうやらヴクさん達は討伐に成功したらしい。
槍をつたって地面に血が溜まっていく。その血溜まりを見ているとチェルさんと握っている手に力が入る。
「お前は見る必要はない」
「いえ。大丈夫です」
小さく深呼吸して再びモニターを見る。血を見ると心臓のあたりがぞわぞわするが、今後もあるだろうし少しずつ慣れないといけない。小さく息を吐いて再びモニターを見る。
モニターの中のキングタートルは動く気配はない。死んでしまったようだ。
ゲームだとキングタートルを討伐した。その一言で片付けられてしまうが、実際は違う。生々しく垂れる血を見て、何とも言えない気持ちになった。
寝ている間に殴る。ゲームだと普通の戦法だが、実際に見るとえげつない。どちらが魔王かわからなくなる。
そのままモニターを見ているとヴクさんとシルフィさん達がキングタートルへ近づいた。キングタートルが死んだ事を確認したのか、キングタートルを持ち上げる。そしてどこかへと向かっていく。
鍋。先程話していた魔王様の言葉が頭に浮かんだ。
カメラからヴクさん達が消えるとモニターの電源が切れた。魔王様は切れたことを確認するとチェルさんを見る。
「チェル。睡眠耐性は何処で知ったんだ?」
「知ったも何も魔物の特性を調べるのは元々俺の仕事だ」
チェルさんの仕事。先程も報告書と言っていた。今日はチェルさんのことを知る機会が多い。
「そうだが。ならなぜ今まで言わなかった?」
「言っただろう。確証のないことは言えない。虚偽の情報で怪我をしたとケチを付けられたら面倒だからな」
チェルさんの言うことはわかる。それにそれが誤った情報だったら敵から足元を掬われる可能性がある。
淡々と事実だけまとめる仕事。チェルさんに向いていそうだ。
「まあまあ。魔王様。チェルくんが臆病なのはいつもの事でしょ」
チェルさんと魔王様を仲裁するようにラビアさんが入った。ここで魔王様と一緒にチェルさんを問い詰める方が良いはずなのに妙だ。
表情を読み取られないようにチェルさんの背に隠れて魔王様とラビアさんのやり取りを見つめる。
「ラビア。私はチェルと話している」
「魔王様。ラビアの言う通りですよ。それよりも侵入者は討伐しましたし、姫をそろそろ部屋に帰されてはどうでしょうか?」
今度はニクスさんだ。どうやらニクスさんは魔王様に対しては敬語らしい。ラビアさんと話している場面を見たばかりだったので少し意外だ。
それよりも意図的に私とチェルさんを部屋に戻そうとしているようだ。
私とチェルさんはあまり駆け引きになれていない。魔王様とラビアさん相手は無理だ。ここはニクスさんに乗ろう。
「部屋に戻りちゃ、いです」
声が裏返った。しかも噛んだ。駆け引きが下手くそ過ぎる。
恥ずかしくて思わず身を隠すようにチェルさんの背に顔を隠す。見えないが色々な所から視線が感じる。
「魔王。姫を早く部屋へ連れて行きたい」
何とも言えない沈黙の中、チェルさんがいつものように淡々と言った。そっと見上げると魔王様へ鋭い視線を送っていた。
「そうだな。撃退したとは言え、侵入者が来るとは予想がつかなかったからね。チェル。頼みがあるんだ。数日の間でいい。いつもよりも姫を気にかけてくれないか?」
「わかった。姫の部屋にいる」
「姫の部屋に? ……状況が状況だし、仕方ないか。姫を困らせるような事はやめてくれよ」
「わかってる。姫。部屋に帰るぞ。歩けるか?」
「はい」
帰りたいと言ったが、本当に戻って良いのだろうか? そっと魔王様を見る。私と視線があうと優しく微笑んだ。
「そうだチェル。今日の夕飯は私が持っていくよ」
食堂ではないのだろうか? チェルさんの方向を見るとチェルさんも怪訝な表情をしていた。心当たりがないみたいだ。そのまま視線を魔王様へ戻す。
「お前が? どうしたんだ?」
「今日は珍しい食材が入ったからね。食堂は混雑するよ。チェルは魔物が多い場所はあまり好まないだろう」
珍しい食材。頭の中に思い浮かぶのはキングタートルだった。
魔物と言われると少し戸惑ってしまうが、ユンさんの作った鍋なら食べたい。
だが魔王様へ苦い視線を送るチェルさんを見ていると夕ご飯が楽しみとは言い難かった。




