41.初めての戦闘
映像越しのビッグタートルで私は前世の記憶を思い出した。
ビッグタートルは亀の魔物だ。巨大な甲羅に覆われているためか防御力が高い。攻撃もかみつきのダメージは高く、勇者のレベルが低いと八割くらいダメージを受けてしまう。最初の難関だ。まともに戦うと敵わない。
ただ弱体。特に睡眠耐性がガバガバで眠らせれば後は袋だたきにして終わり。攻略方法がわかれば簡単に倒せる。攻略情報の有無で難易度が大幅に変わってくる。それは他の魔物も一緒だが。
中ボスクラスなので経験値が多く、たまにドロップする『タートルの血液』は体力全回復のレアアイテムでとても美味しい。勇者達からはカメ先生と呼ばれており、私も前世とてもお世話になっていた。
「どうした?」
じっとモニターを見つめているとチェルさんの声が聞こえた。
「予想通りでした」
「そうか。これ以上は何も言うな」
私の言葉でチェルさんが察してくれた。チェルさんは魔王様を警戒している。なので私の知識は魔王様には秘密だ。それ以上は何も言わず再びモニターへ視線を移動するとヴクさんがキングタートルと戦っていた。
「……」
とても歯痒い。私の情報を魔王様に隠すことが大事なのはわかる。だが正直ヴクさんを見ているとハラハラする。避けるのも攻撃するのも安定しているが、討伐するにはいまいち決定打に欠ける。
既に十ターンくらい経過していそうだ。きっと私の情報があれば楽に勝てる。だが勝手に言えない。チェルさんの頭の中に伝われば良いのに。
『ビッグタートルの情報か』
ひやひやしながら見ているとチェルさんの声が頭の中に響くように聞こえた。
チェルさんの声は耳ではなく頭の中に直接声をかけてくるようだった。思わずチェルさんを見る。
『変に動くな。魔王達が見ている』
私に話しかけているはずのチェルさんの口は動いていなかった。
『お前だけにしか俺の言葉はわからない』
じっと見ているとチェルさんの声が続く。テレパシーの類いだろうか。もしかしたら私の考えていることもチェルさんに伝わるかもしれない。チェルさんに伝わるようにじっと目を見る。
『口の変わりにまわりのものを使っているだけだ。お前の言葉はわからない。それよりも小さな声で言ってくれ、言葉を拾う』
テレパシーとは違うようだが凄い技術だ。
「ビッグタートルは睡眠耐性がないです」
チェルさんに言われた通り、自分でも聞こえないくらいの大きさでチェルさんに話しかけた。チェルさんの表情は変わらない。聞こえていたのか不安になる。
『わかった。俺がなんとかする』
少しの間の後、チェルさんの言葉が頭の中に響いた。どうやら私の言葉を拾えたようだ。良かった。後はチェルさんに任せよう視線をモニターへ戻そうとしたら、魔王様とは反対の方向から声がした。
「姫ちゃん。チェルくんと見つめ合っているみたいだけどどうしたの?」
ラビアさんの声がした。驚きながらも急いで声の方向を見るとすぐに視界に私に向かって手を振るラビアさんが入る。横にはチェルさんと同じくらいの背の高い男の魔物さんがいた。
赤い短髪に青い目をしていた。見た目は高校生くらいの男の人。顔立ちは整っているが、チェルさん達と並ぶとフツメンになってしまう。
クラスの女子にはモテそうだが、アイドルと並ぶと敵わない。そんな感じの男の人だ。
「ラビアさん?」
「最初からいたよ。ね。ニクス。僕たちに気付かないくらいに姫ちゃんは余裕がなかったんだね」
「ラビア。姫にそんな意地の悪い言い方をすんな」
ニクスさんと呼ばれた男性がラビアさんに言った。ニクスさん。確かラビアさんの配下の魔物さんだったはずだ。
ラビアさんへズバズバと言っているようだが、どちらかと言うと窘めている感じだった。
「ニクス。僕は事実を言っているだけ。だって初めての侵入者でしょ。怖がるなって言うのがおかしいよ。……だけどその割には姫ちゃんはキングタートルを真剣に見ていたね? 気をつけた方が良いよ。そんな目をしたら好戦的な魔物が黙ってはいないから」
ラビアさんがにやりと笑った。ラビアさんはよく見ている。気を付けないと。
気を引き締めようと息を吐くとチェルさんが私の肩に触れた。どうしたのかな。そっとチェルさんへ視線を移動するとチェルさんが口を開いた。
「姫。俺の背に隠れていてくれ」
そのままチェルさんがラビアさんの盾になるように私を背に隠した。
「はい」
「おいラビア。姫に変な事を言うな。困惑しているだろう。それに俺がいる。魔物など恐れるに足りない」
「そうだね」
チェルさんがラビアさんに話し掛けるなと言う視線を送る。それからチェルさんは魔王様の方向を見る。
「それよりも魔王」
「チェル。どうしたんだい?」
「あの亀は睡眠耐性が低い可能性がある。まだ検証は出来ていないから報告書には記載していない」
報告書? 気になる言葉が多いが、とりあえず魔王様には伝わった。
魔王城だ。ラストダンジョンだし、睡眠付与持ちの魔物さんはいるはずだ。とりあえずヴクさんに関しては一安心だ。
「睡眠耐性が低いのかい?」
「まだ確定はしていない。不確定な情報でケチを付けられたら腹立たしいからな。丁度良い機会だ。試してくれ。睡眠ならシルフィに任せれば良い」
「そうか。それは助かる。シルフィに頼んでくるよ。チェル達は他に魔物が来ないか警戒していてくれ」
「わかった」
チェルさんが魔王様へ返事をした。魔王様はそのまま奥の方へと向かう。よく見ると魔王様のいく手には扉があった。魔王様はそのまま扉へ向かうと扉を開け、そのままその部屋の中に入る。
魔王様が部屋の奥に行っている間、シルフィについて考える。
一つ聞き覚えのある名前があった。シルフィード。終盤の中ボスだ。
四大精霊の中の一体で風の精霊だ。四大精霊は他に水のウンディーネ、火のサラマンダー、土のゲノームスがいる。属性がバラバラでそれぞれデバフ、バフ、攻撃、防御に特化している。
しかも四大精霊戦はパーティーチェンジがなく、鬼畜仕様だったが、あれは楽しかった。
シルフィード達との戦闘を考えていると視線を感じた。ラビアさんだ。そのままラビアさんへ視線を移すとラビアさんと目が合う。ラビアさんは私を見ると笑った。
これは不味い。そのままチェルさんを盾にしてモニターへ視線を移す。
「ラビア。お前は映像を見ないのか?」
「そうだね」
チェルさんの一言でラビアさんのモニターへ視線が移る。極力何も考えないようにしようと思うが、魔物の記憶と一緒に好戦的な記憶も出てきた。
ちょっと前に思い出していたら、あんな怖がることはなかったのに記憶が戻ったせいか、先程まで固まっていた自分が恥ずかしく感じた。
「すぐに来てくれるようだよ」
ぼんやりとモニターを見ていると魔王様の声が聞こえた。どうやらシルフィードを呼んできたようだ。
その言葉の通り、数分後に人数が増えた。私くらいの年の女の子が二人と男の子二人。
多分四大精霊全員が集まっている。多分。なのは私の記憶のシルフィードとは違ったからだ。精霊達も人の姿をしていた。




