37.チェルの弱点
マフィンを食べてから、アイテムの整理開始だ。今回拾ったレアアイテム五十個ほどを棚へとしまっていく。
チェルさんが見たことがないアイテムは効果を確認し、効果ごとにわけて棚に仕舞っていく。全て棚に仕舞い終えるとソファーに座り、紅茶を飲んだ。
「今後について整理したい。まずは次の採取についてだな。今日取らなかったのは薬草が五個と毒消し草が三個だったな」
紅茶を飲み終わったチェルさんがお猪口を机の上に置くと口を開いた。
「はい」
「そうか。大方めぼしい物は採取出来たな。なら他の採取場所を考えた方が良さそうだな」
確かにこの辺りでアイテムが採取出来なければ他のエリアの方が良い。だが気に掛かることがある。リポップ…――アイテムの再生だ。
ロンディネにいた時城の庭で毒消し草の回収していた事があった。そして回収してしばらく経った後に再び毒消し草が発生していた。当時はラッキーとしか思っていなかったが、今から考えるとリポップされた可能性が高い。
「チェルさん。もしかしたらアイテムが同じ場所にまた出現するかもしれません」
「同じ場所に? 前世の知識か?」
チェルさんに伝えるとチェルさんは情報を整理しているのか、顔をしかめながら尋ねた。
「はい。ロンディネにいた時、同じ場所に薬草が生えていたんです。前世ではアイテムが同じ場所で再生成されると言う話もありましたので、もしかしたらアイテムが再生成されたかもしれません」
「そうか。考えられるな。再生成されるまでどれくらいの期間かかかるかわかるか?」
「半年以内と言うことはわかるのですが、詳しくはわからないです」
城から外にあまり出られなかったので回収出来るのも限られていた。最長で半年。再生成が半年は長いな。別の採取場所を探した方が良い。ここから近い場所を頭に浮かべる。
「そうか。一旦、二十四日後に確認するか」
地図を頭に浮かべているとチェルさんの呟くような声が聞こえた。二十四日。チェルさんから具体的な数字が出てきた。本にでも書いてあったのだろうか?
「二十四日?」
「作物が生育する期間だ。確証は持てないが試してみる価値はある」
普通に考えると作物がそんなに早く出来ないが、ゲームの世界と切り捨てよう。
作物が二十四日で生成される。それがアイテム生成期間と考えると納得がいく。二十四日後に再生成が今のところ一番可能性が高い。
「そうですね」
「あの量が月に一度手に入れば充分だ。魔王に目を付けられることも考えられる。次の外出は四週間後で良いな。湖で月の欠片があれば森で収集し、なかったら近隣の場所に採取に行く」
出来る限りリスクを減らしたい。再生成されるならこの森で採り続けるのが良さそうだ。ラストランジョンだし。だが一つ気になることがある。二十四日の情報源だ。
「はい。チェルさん。そう言えば二十四日は本に書かれていたんですか?」
チェルさんの情報を疑っているわけではないが、それでも不確定なもので動くのは考えてしまう。もしそれ以上に確実な情報があればそれを優先したい。
「いや。魔王から聞いた」
「魔王様から?」
魔王様は意外だった。魔王様も様々なことに詳しいみたいだ。
チェルさんが何を考えているかわからない魔物さんと言っているし、凄く頭が良い魔物さんだと思う。
私の知っているエピソードが少なすぎるせいか、突然シュークリームを持ってきた魔物さんとしか認識していない。しかもチェルさんに食べられていた。立場が弱い魔王城の王様だ。
「ああ。魔王は作物を育てている。どの作物も種を植えてから収穫まで二十四日かかっている」
二十四日の理由はわかったが、次の疑問がポンと出て来た。
畑だ。食堂の食材などもあるし、畑があるのはわかる。だが私の知っている魔王城周辺に畑はない。先程探索していたときも出てこなかった。この畑はどこにある? 考えているとチェルさんの声が聞こえた。
「どうした?」
「私の知っている地図には畑がないんです」
「お前の地図にない? あんなに大きなものが? それは妙だな」
「大きいんですか?」
その口ぶりからはこの辺りにあるのは明確だった。チェルさんも不可解だと言わんばかりに顔をしかめていた。チェルさんは私の方へ視線を移動するとゆっくりと口を開いた。
「場所からだな。この辺りに魔王城があるとする」
チェルさんは私の記憶を確認するように机の真ん中に指で丸を描いた。
「湖はこの辺りだな」
私の視線が丸に移動したタイミングでチェルさんが続ける。チェルさんの手は言葉に合わせて左下部分を小さく叩いた。
「はい」
ここまでは地図通りだ。あっていると意味を込めて相づちを打つ。それからチェルさんが少しの間の後に魔王城の右上辺りを叩いた。
「ここで作物を育てている。お前の記憶ではどうだ?」
そこは地図外の場所だった。ゲームでは木々で隠されている。
まさか森の先に畑があるとは思わなかった。確かに魔王様の畑は勇者にとっては不要な情報だ。どうやらマップは制限されているようだ。
「畑は私の知っている地図から外れた場所です。私が知っているのはこの辺りですね」
チェルさんの描いていた地図に四角くなぞった。チェルさんが少しの間の後に口を開いた。
「探索エリアが限られているのか?」
「みたいです。勇者にとって意味のない場所は省いているみたいですね」
何もないエリアを増やすと作業感が増すからな。そこまで気にしていなかったが自分の未来が関わっているせいか、とてもありがたく感じた。
「採取場所も絞れるのか。まずはお前の記憶の地図を紙に写した方が良いな。紙を用意する」
「はい。そうだチェルさん。ロンディネからここまでの地図も思い出しました。一緒に書けます」
「そうか。なら作ってくれないか。勇者の位置を把握するのに楽になる。町や村の地図は道具屋で売っている。俺の方で手配する。お前は森の地図は紙に写してくれ」
「はい。ありがとうございます」
地図を作って採取をする。段々とやることが具体的になる。記憶が増えると範囲が広がる。これからの戦いで私がどこまで思い出せたかは鍵になる。とても大事なものだ。
「姫、他になにかあるか? 些細なことで良い」
残念ながら他にはない。だが私の記憶に関して気になった事がある。私の記憶は近いものを見ると思い出す。
魔物を見れば忘れているであろう魔物の記憶も思い出せるのでは? 魔物の対処法がわかればこの戦いは少し楽になるはずだ。
「思い出してはいないのですが、魔物を見れば魔物に関する記憶が戻ると思うんです」
「そうだな。だがしばらく待ってくれないか」
チェルさんが私から視線を外した。チェルさんもどうやら気付いていたようだった。待って欲しい。何かあるのだろうか。チェルさんの言葉を待っているとチェルさんがポツリと溢すように言った。
「……俺は寒さに弱い」
「寒さに?」
意外だった。チェルさんに弱点はないと思っていた。
そして警戒心の高いチェルさんがこんな簡単に教えてくれるのも意外だった。
「ああ。この辺りは魔王の領域だ。接敵する可能性は低い。だが近隣の洞窟などは魔物と接敵するかもしれない。そんなに大した魔物はいないと思うが用心に越したことはない」
「そうですね」
「まだ時間はある。俺もあまり無理をしたくない。少し待って欲しい」
「はい。こちらこそすみません。無理を言ってしまい」
「俺が言っていなかっただけだ」
「いえ。弱点は隠すものですし、私も言わせてしまってすみません」
チェルさんの弱点を知ってしまった。チェルさんに不利になるようなことはしない。この弱点は墓場に持っていく所存だ。
「ああそれは気にするな。魔王達には気付かれている。いずれお前の耳に入るのなら俺から言った方が良い」
「魔王様に知られているんですか?」
私ほどではないが、チェルさんも詰めが甘い気がする。
いや。魔王様がチェルさんの一枚上をいっているみたいだ。このままチェルさんと二人パーティーが最善か気になる所だが、魔王様のことをチェルさんは全面的に信頼していない。って余計なことは考えない方が良い。今はチェルさんの話だ。
「ああ。俺の種族の特性のようなものだからな」
「チェルさんの、種族」
一緒にいると忘れそうになるが、チェルさんも魔物さんだ。種族。そう言えばチェルさんはどんな魔物さんなのだろう。寒さに弱い。体温がない。
「なんでもない。忘れてくれ」
チェルさんをじっと見ていると低い声で言った。
その表情はとても苦々しく、これ以上聞くなそんな言葉が聞こえて来るようだった。
「魔物は気味が悪い」
呟くような小さな声で続けた。表情はとても真剣でチェルさんを見るとそんなことはないですと簡単には言えなかった。
その言葉が魔物と人間の間にある壁のように感じ、胸が痛くなる。
「人間も寒さは苦手なんです。春になってからの方が良いですね」
チェルさんから呟かれた気味が悪いと言う言葉に気付かない振りをして、いつものように明るい声で言った。




