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35.月の欠片

 チェルさんの湖と言う言葉をきっかけに私はこの森のマップを思い出した。ドット絵で描かれた地図が目の前にあるように頭に浮かぶ。どうやら私の動ける範囲が増えると少しずつ記憶が増えるみたいだ。理屈はわからないがレベルがあがったらこんな感じになるのかなと思った。


「チェルさん。もしかしたら湖の場所がわかるかもしれません」

「どう言うことだ?」

「頭にこの辺りの地図が浮かんだんです。もしかしたら前世の記憶かもしれません」


 新しい記憶のことをチェルさんに伝える。頭の地図が確実に正しいとは言えないが、前世の記憶なら使える可能性は高い。

 チェルさんは私の言葉を聞いて、僅かに顔をしかめる。何か考えているのか視線は地面の方に移動していた。

 考えがまとまったのか、少ししてから私の方へ視線を移動する。


「姫。湖まで案内してくれ。この辺りの地形は把握している。もし違ったとしても迷っても問題ない」

「はい。わかりました」


 頭の中に地図を思い浮かべる。魔王城は右上にあった。そして湖は中央のあたり。今は扉からまっすぐ歩いているということは下に向かっている。途中で右に曲がる。目印は……切り株だ。

まずは切り株を探そう。記憶の地図では切り株は一つしかなかったから目立つ筈だ。


「何か探しているのか?」


 切り株を探しているせいか、自然と歩くペースがゆっくりになる。歩きながら疑問に感じたのか、チェルさんが私に声をかけた。


「切り株を探しているんです。湖に行く目印でして。あっ! そこにありました。そこで右に曲がります」


 話していたら私の視界に切り株が入った。そのままチェルさんに伝える。それから切り株に向かうと、そのまま右に曲がった。


「ここからまっすぐです」


 チェルさんが真剣な表情で先を見る。直ぐに「わかった」と呟くように言ったので、再び歩き出す。

 しばらく歩くと私達の視界に湖が入った。湖はとても澄んだ青色で流石にゲームで見ていた光景とは少し違うが、このエリアは湖が一つしかない。チェルさんの言っている湖はここのはずだ。

 まずはチェルさんにあっているか聞こう。チェルさんの方向を見た。


「ここです」

「そうだな。この森にはここ以外に湖はない。お前の記憶は正しそうだな」


 私の記憶の地図は信頼出来るようだ。安心したせいか。ため息が出た。


「みたいですね」

「まずは記憶を整理した方が良いな。敷物を出す」


 チェルさんが鞄の中から敷物を取り出すと草むらの上に敷いた。チェルさんはそのまま鞄を置き、敷物の上に座った。私も続いて座る。


「飲み物だ」


 座るとすぐにチェルさんがお猪口をくれた。お猪口の中には水が入っており、どうやらこの前と同じようにチェルさんが作った水のようだ。

 前回の力を見ていたらせいか戸惑いはなく、サバイバルをするには便利な能力だなと思った。


「ありがとうございます」

「大したことではない。それよりも姫。思い出したきっかけはわかるか?」

「おそらく湖という言葉です。この先に湖があると思ったら、突然頭の中に浮かびました」


 記憶は突然だった。それなのに最初から私の頭の中にいたかと思うくらいに今は馴染んでいる。


「頭の中に、か」


 チェルさんが顎に手をかける。私の記憶のことを考えているのか、苦い顔をしていた。


「はい。どうやら似たような光景を見たら思い出すみたいです。状態異常の付与もラビアさんが魅了をかけたのが一因ですし」

「そうだったな。それよりも体に異常はないか? 頭が痛いなどは」


 私をじっと見る。うろ覚えの記憶を思い出そうとした時に私の頭が痛くなった。だが今回は何もなかった。自然に思い出すのを待った方だ良さそうだ。


「ないです」

「それなら良いのだが。体調が悪くなったら言ってくれ」

「はい。ありがとうございます」

「お前に倒れられる方が嫌だからな。それより他に何かあるか?」


 チェルさんの言葉で再び地図を頭に思い浮かべる。

 ゆっくりと思い出す。頭の中に先程よりもはっきりとした記憶の地図が出てきた。それから少しして星のマークと魔物のような生物の影が出てきた。このマークも知っている。星のマークはアイテムが落ちている場所。そして影は魔物の位置。


「アイテムの落ちている場所と魔物の出現位置がわかります」

「アイテム? 魔物?」

「あの辺りにレアアイテムが落ちている筈です。見てきます」


 湖の近くにある星のマークを頭に浮かべる。確か月の欠片が落ちていた筈だ。全ての弱体を回復してくれるレアアイテムだ。そのままコップを敷物の上に置き、立ち上がろうとするとチェルさんが「姫」と私に声をかける。


「俺も一緒に行く」


 チェルさんが立ち上がり私に手を差し出す。普通に敷物を敷いてお水を飲んでいたが、ここはラストダンジョンだ。ヴクさんの知性のない魔物という言葉が頭に浮かんだ。


「ごめんなさい。油断してしまいました」

「お前は弱いんだ。気をつけてくれ」

「はい」


 チェルさんの手を握るとそのまま湖の近くに行く。湖を見ていると何かが光で反射した。月の欠片っぽいな。


「あれですね」


 指を差してチェルさんへ伝えるがチェルさんが苦い顔をする。そのままチェルさんが私の指差した辺りに手を入れる。ぐるぐると水の中をかき混ぜた。

 湖に入れていた手を出し、濡れた手の平を見ると苦い顔をした。


「俺にはわからないようだ」

「私が取ります」

「気を付けてくれ。何か出てきたら直ぐに手を離せ」

「はい」


 恐る恐る水面に指をつつくと湖の光っている部分に手を入れる。直ぐに何かがくっつくように私の手の中に入り込むように手の平にはりついた。

 もしかしたら月の欠片かもしれない。落とさないようにそれを握ると急いで湖から手を取り出す。ゆっくりと手の平を開くとキラキラとした魚の鱗のような物が手の平の中に入っていた。

 じっと見ると”月の欠片”と言う文字が浮かぶように現れた。月の欠片で間違いないな。


「チェルさん。拾いました」

「これか?」

「はい。月の欠片です! レアアイテムなんですよ」

「月の欠片?」


 チェルさんの知らないアイテムだったようだ。チェルさんは私の手に乗っている月の欠片を掴むと空に透かして見る。虹のようにキラキラとしていて綺麗だった。


「これがそんなに凄いのか?」

「はい。状態異常の時にこれに触れると全て回復するんです。使用回数は十回で、使い終わると破壊されます」

「ん? どんなアイテムかわかるのか?」

「はい。勇者の時に良くお世話になっていましたので」


 ゲームに回復技はあるが魔力を消費してしまう。そのため攻撃技を使うためにはこう言った回復アイテムは役に立つ。

 特に魔王様は麻痺を頻繁に付与してくることもあり、月の欠片はあると心強かった。


「勇者の知識か」

「はい」

「そうか。俺が知らない回復薬があるのか。アイテムの出現位置も決まっているようなら、まずはお前の記憶から地図を作った方が良さそうだな。紙とペンを今度手配する」

「ありがとうございます」

「これからの戦いに必要なものだ。採取も地図が出来てからの方が効率が良いな。今日はこの辺り一帯の採取をして帰るか」


 一年あるとは言え計画的に動かないとあっという間に過ぎてしまう。なるべく効率良く動いた方が良い。


「そうですね」

「採取の前に頭を使い過ぎたな。まずは飯を食うか」


 採取に向かうと思ったらチェルさんはそのまま敷物の所に戻っていく。確かにお腹空いたし、チェルさんの空いている手を握り、敷物が敷かれている場所へと戻った。

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