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31.元勇者のお姫様

 

 私の力。気付いたときには使えていたからあまり意識していなかった。

 だがそれは説明が不足する理由にはならない。

 チェルさんへきちんと伝えるために自分の持っている力を思い出す。


「まずは採取からですね。じっと見ているとアイテム名が浮いてきます。状態異常はどこまで見えるかは不明です。今のところ、毒と魅了の付与はわかります」

「魅了。……ラビアの魅了に気付いていたのか?」

「はい。隠していてすみません」

「いや。普通は隠す。他はわかるものはないか?」

「他は」


 思い出しながらチェルさんを見る。

 状態異常はないと思うけど、何か思い出せないか。そう思っていると、ゆっくりとチェルさんの頭の右上に青いハートマークが現れた。


 なんだろう? 青いし魅了ではない。あっ、そうだ。思い出した。これは水属性のマークだ。

 見えるだけだけど、前世の知識がうまく補足してくれている。


 他は見えないかな。そのままチェルさんを見つめているが、それ以上は見えない。

 HPとかMPがありそうだが、ゲーム上の仕様とかだから見えないのだろう。


「何か見えたのか?」


 チェルさんの声が聞こえ、そのままチェルさんへ視線を移す。

 すぐに窺うような表情のチェルさんと目が合う。


「属性も見えるみたいです」

「属性? 聞いた事がない言葉だな」

「えーっと、魔力のタイプですね。この世界は水、火、風、土、無の五つのがあるんです。チェルさんは水属性です。あっ。水を出されてましたね」

「水? ああ、四大元素か? 四つと聞いていたが、五つあったのか。お前。見えるだけじゃないな」


 チェルさんが少し考える素振りをしてから呟いた。四大元素? 属性はそう呼ばれているんだ。


「はい。私にはこの世界の記憶があるんです」

「記憶?」


 チェルさんから面倒事と思われるのは容易く想像がついた。だがこれも話した方が良いのは確か。それでも続きを話して問題ないか考えてしまう。

 さりげなくチェルさんを見ると”とりあえず話せ“そんな表情をしていた。話さないと。話そうと決めたが緊張する。落ち着かせるように小さく息を吐いた。


「えーっと……説明が難しいのですが、私には前世の記憶があります。そこでゲー……これからこの城に来る、勇者と呼ばれる人の人生を追体験をしています」


 この世界をゲームで経験している。そう伝えたいが、説明が難しい。ゲームと言う言葉が伝わるかわからない。代わりの言葉を選んだつもりだが、更に良くわからなくなってしまった。


「勇者と呼ばれる者がこの城に来るのか。なるべく理解する。詳しく話してくれ」

「はい」


 だがチェルさんはそんな私の良くわからない言葉を理解しようとしてくれている。なるべく伝わるように私の知っていることを全て話していった。


 前世の記憶があること。前世は日本と言う国で庶民暮らしをしていたこと。そしてその時にこの世界に似た世界を追体験していたこと。

 最後にゲームの中での私の役割や私の未来…――勇者が私をさらいに来て、魔王を倒すこと。


 チェルさんは真剣に聞いてくれていたが、その表情はとても苦いものだった。

 面倒事に関わってしまった。そう言いたいんだと思う。口に出さなくても伝わる。


「そいつが魔王を倒しに来るのか」

「はい」


 私の話が終わるとチェルさんが呟くように言った。ちゃんと伝わったようだ。いや、理解してくれたと言った方が正しいかもしれない。

 信じてくれて嬉しいが、ここまですんなりと受け入れられるのは意外だった。


「どうした?」

「信じてくれると思っていなかったので」

「お前は幽閉されていて常識がない割に変な所で詳しかったからな」

「変な所?」

「チェーシュー。ラーメン。シュークリームはどこで食べたんだ」


 チェルさんが淡々と聞いた。心当たりがありすぎる。チェルさんが詮索しないからと調子に乗りすぎていた。


「前世、です」

「だろう。隙がありすぎる。俺相手なら問題ないが、気をつけてくれ」


 その言い方はずるい。

 チェルさんは私に好かれていることを少しだけで良いので自覚して欲しい。


 好きだからチェルさんに誠実でいたいだけなのに、口が軽いと思われるのは心外だ。


「わかってます」 

「ならいい。お前の力は危険だからな。毒がわかる鑑定能力。更にそれを最大限に発揮する知識。そして大まかな未来予知。大体の者が欲する力だな。聞いた俺が原因かもしれないが、姫は俺が利用するとは考えなかったのか?」

「チェルさんなら大歓迎です」


 寧ろ利用して欲しいと思っている。私はそれ以上に大切な幸せな気持ちをチェルさんに貰っていた。小さく笑いながら言うとチェルさんが苦い顔をした。


「俺が利用する前提で言うな。物の例えだ。利用するなど考えていない」

「知っています。ですが私はチェルさんには利用されても良い。そう思っているから伝えたんです」

「そうか。俺も利用しないとは言い切れないからな。極力利用はしないようにする。だが、もしかしたら使わせてもらうかもしれない」

「はい! どんと来いです!」


 チェルさんが頼ってくれるのは嬉しい。いつもよりも大きく返事をするとチェルさんは眉間にしわを寄せながら、ため息をついた。


「なんでそんなに喜んでいるんだ。俺に利用されるんだぞ。まあいい。姫。これで終わりか? まだ俺に言っていないことがあるだろう?」

「言っていないこと?」


 前世の記憶に鑑定能力。全てチェルさんに伝えているはずだ。

 なんの事だろう。私はチェルさんの言葉を待つようにじっと見た。

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