30.姫のスキル
私の監視がラビアさんに変わるという事はなくなったが、まだ一つ大切なことが残っている。
高額な毒消し草だ。チェルさんは今の所何も聞いてこない。きっと部屋に戻ってからだろう。
私の監視は大事な仕事と言ってくれているので、面倒事だから監視をやめる。なんてことはなさそうだが、やっぱり部屋に戻るのが怖い。
そんな風に思っていても時間は止まることはなく、すぐに部屋に着いた。
いつもなら仕事に行くチェルさんを見送るのだが、今日は仕事へは行かずに「邪魔する」と言いながら、私の部屋に入る。私も続いて部屋に入ると、部屋の鍵を閉めた。密室。いつもと違う意味でドキドキした。
私のそんな気持ちを知らずにチェルさんはいつものようにソファーに座った。
「姫。コップが欲しい。二つ」
棚からお猪口を取り出し水入れの取っ手に触れるとチェルさんが私の事を呼ぶ。
「コップは空のままで良い」
水を入れなくて良い? どう言うことだろう? チェルさんにお猪口を二つ渡すとチェルさんがそっと触れると水が出てきた。呼吸をするように魔力を使うのはやめて欲しい。
お猪口を私の目の前に置く、私の分を用意してくれたようだが、これは飲んで大丈夫なのか疑ってしまう。
チェルさんに視線を移動すると普通に飲んでいた。大丈夫そうだ。そっとお猪口に口をつける。味はただの水だが、飲んでいると不思議と気持ちが少し楽になった気がした。
先に飲み終わったチェルさんがお猪口を机の上に置いた。
私を飲み終わるのを待っているのか、チェルさんの視線を感じる。まだ残っているが机の上にお猪口を置く。そしてチェルさんを見上げた。
「……姫」
チェルさんはどこか寂しげな表情をしていた。なんて返事をすれば良いかわからない。そのまま言葉を待っているとチェルさんがためらいがちに言った。
「言いたくないかもしれないが、答えて欲しい。毒消し草はどうやって手に入れた?」
「拾いました」
「それはないだろう。毒消し草はそんな簡単に手に入る物ではない」
チェルさんが私の瞳をじっと見る。
嘘をついていないか確認しているみたいだ。それほどチェルさんには信じがたい事なのかもしれいない。城の庭に生えていたものを拾った。嘘はついてはいない。
だが先ほど言っていた高額なものが気にかかる。あんなに落ちているものがどうして高額なのだろう?
「城の近くに生えていたんです。それを拾って」
「それが理解できない。毒消し草はそんな簡単に拾えるものではない」
結構落ちていた。ロンディネで大量発生しているのかもしれない。考えているとチェルさんが言葉を続けた。
「……そうか。予想はしていたが」
そのままチェルさんを見つめていると、チェルさんが小さくため息をついた。
「まずは毒消し草がなんで高額なのか。からだな。毒消し草はお前の言う通り自生している物を採取する。だが採取出来る奴は限られている」
「限られている?」
「大体の奴はそこら辺の草と毒消し草の見分けがつかない。だから見分けがつく奴らは鑑定士と呼ばれ重宝されている」
「鑑定士?」
鑑定士? 聞き覚えのない言葉だった。チェルさんの続く言葉を待つように見る。
「ああ。毒消し草は鑑定士しか採取が出来ない。俺はさっきお前が持っていた物を毒消し草だとは知らなかった。だがお前はそれを毒消し草と言った。毒消し草とわかると言うことだろう」
「……はい」
知らなかった。どうやらチェルさんもラビアさんもこれが毒消し草と知らなかったようだ。だから本物と聞いたんだ。
「俺もどんな力か詳しくはわからない。鑑定が出来る奴を見たのは初めてだからな」
「初めて!」
初めて見たと言うことはこの城で毒消し草と鑑定が出来る魔物さんはいない。魔王様もわからないようだ。毒殺されないありがたい力とは思っていたが、思っていた以上にレアな力だ。
「ああ。それほど貴重だ。だから毒消し草の採取は限られ、自然と高額になる。正規のものは決まった道具屋でしか扱っていない。たまに道具屋以外で格安で売っていることもあるが、それはだいたいが偽物だ。最初ラビアが疑っていたのはそれだ。オレが買ったと言えば問題ないはずだ」
鑑定が珍しいのなら、少しくらいは儲けても問題ない。相場はいくらだろう? この世界の貨幣はわからないし。前世の金額で予想しよう。五百円くらいかな。
「チェルさん。毒消し草はいくら位なんですか?」
「そうだな。一枚でシュークリームが三十個くらい食べられる」
「えっ! シュークリームが三十個!」
おかしい。毒消し草は結構生えている。いくら珍しい力とは言え、ぼりすぎだ。これは鑑定士が値段を操作しているな。
「どうした」
「高すぎです!」
「それほどまでに毒消し草が珍しいのだろ?」
「いえ。チェルさん。ちょっと待っていて下さい」
もう少し安く出来るはずだ。チェルさんに声をかけると急いでクローゼットに向かう。ロンディネから持ってきた毒消し草と薬草を取り出す。そしてチェルさんの元に戻り、机の上に置いた。
「こんなに持っていたのか?」
「はい。薬草もありますが、半分くらいは毒消し草です。そこら辺に生えてます」
「人は欲深いな」
チェルさんが毒消し草を見てため息をついた。そこまで珍しい物ではないと思ってくれたようだ。
「やはりお前は鑑定が出来るんだな」
「出来る? 気付いていたんですか?」
「飯に毒が入っているか調べていただろう。あの時は関わりたくないからあまり気にしないようにしていた」
チェルさんが言い切った。確かにあの時のチェルさんだったら面倒事と一蹴していただろう。
あの時よりも距離が縮まっていると実感し口元が緩みそうになる。だが今は大事な話の最中だ。ときめくのは後にしないと。チェルさんの続く言葉を待つ。
「今は気になる。お前の鑑定について全て教えてくれ」
「……」
「嫌か?」
「いえ……面倒だからってラビアさんと変わらないで下さいね」
「ラビアの名前を出すな。お前の監視は俺だ。それよりもどうなんだ?」
チェルさんの言葉に考える。私の事をチェルさんに伝えて問題ないか? 言わない方が良いのは確かだが、この世界で一番信頼できるのはチェルさんなのも確かだった。
「……嫌かもしれないが」
「いえ、何から話したら良いか考えていたんです」
「鑑定だけではないのか? まあいい。とりあえず話してくれ」
考える必要はなかった。誤魔化すように笑うとチェルさんが苦い表情をしながら言った。




