第五十八話:「新人類①」
「は……? 一般人を拉致して工場に運び入れるって……」
若井さんからの情報を聞き、俺は言葉を失う。
従業員の性格が変えられているような工場だ。
そんな工場に人間が運び入れられていうことを聞き、俺は悪い予感しかしなかった。
俺の反応を見て、落ち着いていた若井さんの表情が更に曇る。
「ええ、悪い予感しかしないですよね。ただ、拉致されて行方不明なった人は、1月もすると元の家に戻ってくるそうなんですよ。捜索願いが私達に出された後、行方不明者が自力で戻って何千件も取り下げられています。ただ、取り下げない捜索願も沢山あるんですが……」
「え……。その戻ってきている人たちの性格は変わっていたりするんですか?」
気になった俺は、若干くい気味に若井さんに問いかける。
「昭人さんの予想通り、性格は変わってしまっているようです。ご家族からの情報なんですけど、昔ほど感情を美味く表現できなくなっているようで……。これらは革新党の工場の従業員と似ていますね」
「はーーーー…………」
俺は、ため息をつきながら頭を抱える。
予想以上のことを聞かされ、頭の処理が追いつかない。
一体どうなっているんだ。背筋の寒気が止まらない。
「捜索願が事務所に届いているということは、警察にも何千件とそれが届いているんですよね。そちらはどうなっているんですか?」
俺は震える声で彼に問いかけると、彼は苦笑いしつつ答える。
「昭人さん。分かっていると思いますが、革新党に肩入れしている警察ですよ? 捜索願を出しても無駄に決まっているじゃないですか」
「俺、国民が行方不明になっているニュースを初めて聞いたのですが、それも警察が証拠隠滅しているんですか?」
「そうなんだと思います。ネットとかで誰々が行方不明になったというニュースがたまに流れたりしますが、それもあまり騒がれずにすぐ沈静化してしまいますので……」
予想通りの回答に俺は、渇いた笑いをこぼす。
まさか、ここまでだとは……。
もし、行方不明になった一般人と従業員が全員改造されて新人類となっているとしたら、この世界には最大10000人の新人類がいることになる。
なお、革新党の工場の従業員数は、ここに来る前に調べた限りだと合計4000人らしい。
このまま新人類が増加し、俺達人間に対して反乱を起こせば、時期は違えど俺が見た未来の惨状と同じことが起きてしまう。それでは、有海や海人を守ることができない……。
未来で見た事を起こさないために、せっかく6号君に対策を施したと言うのに、このままでは全てが水の泡となってしまう。
俺は頭を抱える。
家族を守るためにはどうすれば良いのだろうか……。
「昭人さん、そこでご相談なのですが……」
俺が自問自答している間に、若井さんがぼそっと俺に問いかける。
「……何でしょう?」
俺は若井さんをみつめる。心なしか、若井さんの顔がぼやっと見えた。
そんな最中、若井さんは俺に対して爆弾発言をした。
「工場に入り性格が変わってしまった人たちに何が起きているのか確認するために、彼らを捕らえて検査したいと思うんです。私達が彼らを捕らえてくるので、昭人さんの会社で彼らを検査してほしいんです。可能でしょうか?」
「は……? 人を捕らえる? 人を会社で検査する??」
俺は驚きのあまり目を見開く。
人を捕らえる。それは犯罪だ。彼らが普通の人だったら、佐藤探偵事務所は犯罪を犯すことになる。
もちろん、検査に加担する俺や会社の人たちも共犯だ。
「話が突飛過ぎるんですが…………。そもそもご家族に説明をして、彼らに検査をお願いできたりはしないのですか?」
俺は恐る恐る若井さんに聞く。できれば犯罪は犯したくない。
しかし、彼は下を俯きぽつぽつと呟く。
「……私達は、新人類の存在を知っています。だから、彼らの帰還と性格の豹変を聞いて真っ先に彼らの新人類化を疑いました。なので、彼らのご家族にお話をして、検査をお願いしたのですが……。何十件も拒否されました。ご家族は理解を示されて、本人を何日も説得したのですが、彼らが同意することありませんでした」
「はーーーーーー…………」
俺はため息をつく。
家族が説得に回っているのに、ここまで本人が拒否するのもおかしい。
検査をして、問題がないのならば家族も俺達も文句を言わなくなる。
何日も「検査しろ」と言われ続けるのならば、誰かは応じそうなものだ。
明らかにおかしい。
俺の常識が、そのように警鐘を鳴らしていた。
「……それで、仕方がなく行方不明者を拉致すると」
「はい。こちらには捜索願いが出ていましたので、行方不明者がどこに住んでいるのかは分かります。まだ掛け合っていない人を麻酔銃と強化鎧を使って襲撃して、連れ去ります」
「…………襲撃する人は殺さないんですよね?」
「当然です。麻酔銃を使って眠らせるだけです」
俺はそれを聞き考える。
なるほど。一線は越えない訳か。しかし、犯罪に加担するのは……。
そんな中、若井さんから押しの一言が入った。
「もうこれしか事を明らかにする手立てがないんです。全人類のためです。私達を助けてください」
「はーーー……」
俺はそれを聞き吹っ切れた。
確かに、考えてもそれ以上の手立てがないように見えた。
また、このことを明らかにしないと、俺の部下に転職先の斡旋も行えない。
「……わかりました。できるだけの協力をします」
俺は声を引きつらせながら、渋々了承をした。




