第五十六話:「河合エレクトロニクス」
第6章開始です。
今回の章は特に名前を付けずに行こうと思います。
革新党の勝利は、日本に留まらず、世界を揺るがした。
AIによる技術大国、日本で起きたまさかの政権交代。
しかも、新しい与党の方針は、「急速なAIによる自動化には反対」というものだった。
これに触発される先進国も目立った。
海を挟んだ米国、中国、ヨーロッパの各国。
どこも急速な自動化により国民が不平不満を述べていたところだった。
それらの国でもAIに反対するデモが加速し、一部の国では政権交代が発生した。
これにより、AI関連市場の輸出額は急速に衰えていく。
日本の企業達も例外ではなく、AI関連企業が次々に業績悪化を知らせる――ー。
そんな世界情勢の中、仙台に本社を構える日本のAI市場大手、「河合エレクトロニクス」も例外ではなかったようだ。
「はあ? 研究部門を潰して、大幅なリストラを行うだと? 俺達が今までどれほど会社に貢献してきたのかわからないのか?」
河合エレクトロニクス、本社横にそびえる研究棟。
俺はその一室で、スマートウォッチの画面越しに声を荒あげる。
その声を聞き、悲しそうな表情をする会社専務――土方幸太郎はモニター越しにぼそりと呟く。
「そう言われましても……。社長が決めたことですので。再就職先の斡旋はお願いしますね、小林課長。候補は後ほどメールでお送りしますので」
土方専務は口に蓄えた白髭を揺らしながら喋る。
そして、そのまま電話は切れてしまった。
スマートウォッチの上には、いつもと変わらない課長室のパーテーションが映し出された。
「はあ……。再就職先の斡旋だと……」
昭人はぼそりと呟く。
ぎいっと椅子を回すと、背面にあった窓ガラスをぼうっと眺めた。
今は2041年の2月。
仙台には強めの寒波が押し寄せ、太平洋側だというのに深々と雪が降り続けていた。
革新党が政権与党になってから丸1年が経とうとしていた。
正直、革新党が与党になった時は、俺はその結果に驚くと共に日本国民を恨んだ。
何故なら、「日本を理想卿にする」と豪語している新人類たちを、日本のリーダーに選んでしまったからだ。
俺が未来で見た情況から鑑みるに、彼らを日本のリーダーにするのは危ない。
しかも、警察にコネを回してまで俺達を襲ってきた奴らなのだ。
俺達の生存を脅かす存在だということは言うまでもないだろう。
しかし、俺もあの後家族で川の字になって1日寝ると頭がすっきりし、安心した。
なぜなら、革新党が与党になったとしても、参議院の第1党はいまだに親民党だし、革新党が衆議院で単独過半数を獲得した訳ではないからだ。
他の政党と安堵を取らなければ、法律も可決できない。
俗にいう、ねじれ国会というやつだった。
つまり、革新党は好き放題に政策を進められない。
あわよくば、政策を思うように進められず、国民から不平不満が募ってすぐに政権交代になるだろう……。俺は楽観的にそう考えるようになった。
翌日、俺はそれに気がつくと、心に余裕が生まれた。
あれから俺達家族が敵に襲われることもなかった。
この一年、俺達小林家は外に出る時は常にマスクを着けているが、そろそろ無くても問題ないのではと思う程だ。
このぐらい余裕に思える程、俺の身近では大きな事件は起きていなかった。
しかし、国会では革新党が着々と事を進めていた。
公約で掲げていた政策を、国会に提出したのだ。
しかしその政策は、親民党を中心に沢山の反対意見を浴び、議論が全く進展しなかった。
俺はこのニュースを見て、「革新党、早く失脚しろ」と祈っていたのだが、不自然な程早く状況が変わった。
時間が経つにつれて桜井さんの条文に折れる議員が増え、なし崩し的に桜井さんの条文がそのまま可決されてしまったのだ。
俺はこの状況を見て疑問に思うと共に、可決された条文に嫌気が差していた。
内容はこうだ。
①AIの販売を免許制にして、新規販売数を制限する。
②AIが導入されたロボットで作成された製品に、一定以上の課税を行う。
ある程度人手がかかった製品に競争力を持たせる。
③政府主導の工場を作り、雇用を創造する。
こんな法律を導入されてしまえば、AI関連企業の売り上げ減は必須だ。
しかも、追い打ちをかけるように世界のAI反対論争が巻き起こった。
海外への輸出も減少し、国内の需要も激減……。
AI関連企業は窮地に立たされていた。
これらが原因なのだろう。
先ほど、研究棟の管理課長である俺に電話がかかってきた、研究棟の大幅リストラ。
確かに、需要が激減しているAI関連製品を、新規で開発する余裕はこの会社にはない。
これから需要が見込めるのが、現在既存で存在する製品のメンテナンス業務ぐらいだ。
こんな状況だから、研究職の俺達が首を切られるのは明白だろう……。
「はあ、課長って本当に嫌な立場だよな……」
俺はこれから部下へ通告する内容に頭を痛める。
俺の管理下にある研究室の部下達。全員がリストラの対象なのだから……。
俺はブツブツと呟きながら、これから行わなければならない苦痛な業務に思いを馳せていると……。
ピロン♪
軽快な音が執務室に鳴り響き、新しいメールがパソコンに到着したことを知らせる。
俺は虚ろな目でメールに目を通す。
どうやら土方専務から、斡旋できる転職先リストが届いたようだ。
「……マジか」
メールを見て驚く。
転職斡旋先のリストには、革新党が新規創業した工場しか載っていなかった。




