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2045年問題   作者: 村田こうへい
第五章 暗躍編
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第五十五話:「妨害工作⑪」

ちょっと詰め込みました。

 驚いた俺は、スマートウォッチを使ってテレビ画面を表示させる。

若井さんの顔の右側に、テレビ画面が投影される。


「えっと……。どの番組でしょうか?」


 俺は投影されたテレビ画面をフリックしながら彼へ問う。

俺の指に連動し、表示されるテレビ番組が変わる。


「SBS放送ですね。ちょっと失礼しますね……」


彼はそう言うと、俺のスマートウォッチを遠隔操作してSBS放送の画面を表示させる。


 そこでは、ニュース番組が放映されており、俺が編集した動画が全画面で放映されていた。

ただし、動画に映っていたはずの彼女たちにはモザイクがかかっており、誰が映っているのかは判別できない。

 これを見ただけでは、彼女たちが桜井さんや齋藤静香だとは皆分からないだろう。


 番組内で動画が放映された後、この動画が先日の「カシャット!!」内の一幕だという紹介から始まり、この動画を巡ってのネットでの炎上具合や、動画運営サイト側の動画削除の早さなどがアナウンサーの口から皆に伝えられる。

 そして、すぐにコメンテーターやナレータたちの議論が始まる。

 彼女たちの動きはどのくらい凄いのか? という内容や、この動画のアップロード者側と動画投稿サイト側のイタチごっこ的な戦いから、なぜ動画投稿サイト側がこの動画の削除に必死になっているのか? といった内容まで踏み込んで議論をしていた。

 

 議論の中では、一人のコメンテータが彼女たちの人間離れした動きに疑問を呈していた。

しかし、『彼女たちはロボットや他の人種なのではないか』という、一歩踏み込んだ議論にはならなかった。

 多分、憶測で物事を語ると法律に触れる危険性があるからだろう。


 俺は、これを見ながら若井さんへ疑問を投げかける。


「SBS放送って……。ドッキリ番組を放映してくれたところですか。まさかわざわざ俺の編集した動画を報道のネタにするとは……」


 SBS放送は、警察から「カシャット!!」の放送を中止させられた身。

だから俺は、『彼らはこれ以上踏み込んだ報道はできない』と思っていたのだ。


 しかし、そんな状況でも、この話題を夜のニュースのネタにする彼らの度胸。

俺は彼らの行動力を目の当たりにして、驚きと感動を隠せなかった。


 しかし、若井さんは俺の顔色を伺いながら微妙な顔をする。


「まー。肝心なところは彼らは議論していないですからね。警察がどうとか、新人類(サイボーグ)がどうとか、彼らはそれらの単語を避けるように使っていないですから。俺が彼らに情報提供したので、もっと確信をついて報道してくれるのかと思いましたが、ちょっと残念です……」


 俺は、若井さんの話を聞いてはっとする。

確かに、肝心な部分には触れずに、するすると避けるように議論をしているのだ。


 しかし、議論している内容をよく聞くと、彼らは視聴者に上手く推測できるように話していた。

 彼らの話をよく聞けば、彼女たちは『人間ではない何か』だということと、『警察のような国家組織が彼女たちの正体を暴くのを邪魔している』といったことを推測できるだろう。


 まるで、事前に台本を用意していたかのようだ。

俺は、彼らの完成された話を聞き、そう感じてしまった。


 彼らの話を聞く中、若井さんから俺へ質問が飛ぶ。


「ちなみに、昭人さんが作られた動画や掲示板に投稿した内容にも、『新人類(サイボーグ)』とは書かれていなかったですよね。掲示板には、事務所の若手に動画を投稿した後に新人類(サイボーグ)という言葉を用いて彼女たちの正体を推計した内容を書いてもらったので、掲示板の議論もそっちに流れていきましたけど、昭人さんも核心は書かないようにしていましたか?」


 俺はそれを聞き、悔しそうに口を開く。


「……そうですね。動画投稿と合わせて推測したことを書くと、法律に引っかかる可能性があったので。証拠があることしか書かなかったのは事実です」


「なるほど……。彼らも、報道に関わる身としてはこれが限界なのでしょう。だから、彼らを責めないでくださいね」


 俺は、彼の言葉に驚くとフルフルと首を振って喋る。


「……え? いえいえ、責めようとは思っていませんよ。むしろテレビで放映してくれるなんて、逆に感謝して……」


 俺が弁明する最中、若井さんは若干不機嫌な表情になると、かけた眼鏡を右手でくいっと上げ、言葉を割り込ませる。 


「……そうですか。なら良いんですけど」


 若井さんは、ぶすっとした表情で言い捨てた。







 その後、俺が動画投稿サイトからIPBANを食らうことはなくなった。

先ほどのテレビ放送から、視聴者から動画投稿サイトへ苦情が入ったらしい。

 その事を若井さんへ報告すると、彼は『動画投稿サイト側も、「言論の自由」の阻害を恐れていたのだろう』と語っていた。


 その通りならば、俺はこれ以上ネットカフェに張り付いて動画を上げ続ける必要はない。


 俺は警察側に勝ったという気持ちから少し安堵すると、有海に声をかけて自宅へと戻った。





「お父さん、お母さん。お帰りなさい!!」


 ニコニコ顔の海人に迎え入れられ、俺達は自宅の玄関をくぐる。

今時刻は21時。暖房の効いた空気が冷えた心と体を温めてくれた。


 海人は有海へ飛びつくと、彼女に抱えられたままリビングへと向かう。


 リビングでは、ホカホカのごはんが3つ机の上に並び、真ん中には鍋がぐつぐつと煮えていた。

 横のざるには、ネギや白滝、白菜などが並べられており、その横には肉が並べられていた。

 多分、すき焼きだろう。


「昭人様、有海様。おかえりなさい。お疲れだと海人様から聞いていましたので、すき焼きを作ってみました」


 キッチンで何やら煮込んでいるロボットのタクミは、俺達を見つけると報告を上げる。


「なんと、すき焼きだと……。タクミ、また料理のレパートリーが増えたか」


 驚いた俺は、タクミへと問いかける。


「Wifiに繋げばこの程度のアップデートなら簡単です。何でもお作りしますので、ご用命ください」


 タクミは、白い顔で淡々と喋る。

その発言を聞き、戦々恐々とした表情になったのは、有海だった。


「これじゃ、私が料理するタイミングがどんどん無くなりそうね……」


 ハハハと乾いた笑いを出しながら、彼女は自室へ荷物を置きに行った。




 20分後。俺達は机を囲んでタクミの用意したすき焼きを食べていた。

1日ぶりの家族だんらんを大事にしたいのか、普段なら率先してテレビをつける海人は、今日テレビをつけなかった。

スープは、しょっぱすぎる薄すぎずで完璧だった。


 俺の目の前の海人は、卵の衣を被った肉を一気に口に入れ、熱さでヒーヒー悲鳴を上げている。

それを見た有海は、わたわたしながら海人へ水を勧めていた。

 そんな中、タクミが俺に報告をする。


「……テレビで、各党の現在の支持率が話題になっています。ご覧になりますか?」


 それを聞き、海人の動きがピタッと止まった。


「頼む」


 俺が呟くと、パッとテレビ画面にニュースが放映される。

そこには、各党の支持率が円グラフで表されていた。


「現在与党の親民党は20%、野党の躍進党が25%、社会党が10%、革新党が35%、支持党が無い層が10%か……」


 高い支持率を維持する革新党を見て、俺が顔を曇らせる。

しかし、海人が俺に宣言する。


「お父さん! あれは午後2時現在の支持率だよ? つまり、例の報道はまだされてなかった頃の情報だよ? 今はもっと革新党の支持率は下がっているんじゃないかなぁ?」


 俺は、彼の話を聞き驚愕する。


「海人、今ニュースでやっている内容がわかるのか」


 彼は、俺に向かってえっへん! と胸を張る。


「そりゃとーぜん! 衆議院の解散総選挙ぐらい小学生でも分かるよ! 授業でも習っているからね! 後ね!」


彼は一瞬言葉を溜めると、俺へ向かって小声で呟いた。


「お父さんが、東京で何と戦っていたのか。それぐらいは僕にも分かるよ……」


「そ、そうか……」


 俺は彼の発言を聞きながら、俯きつつ肉を咀嚼する。


 実は、俺は海人へ「何のために東京へ行っていたのか」を伝えていなかった。

それは、海人へ余計な心配をさせたくないという気持ちからだったのだが……。


 賢い海人に意味はなかったようだ。


 俺は海人の成長に驚くと共に、海人の推測により落ち着く気持ちから、罪悪感に苛まれた。






 翌日、選挙の投票日となった。

俺は最新の支持率が気になり、朝のニュースを眺める。

しかし、どこの放送局も昨日時点の支持率しか報じていなかった。

調査がまだ追いついていないのだろう。


 その後、俺と有海も海人の小学校に向かい、投票をする。


 無論、俺達は革新党の立候補者に投票をしなかった。

投票した政党は、躍進党。昨日の調査で支持率2位だった政党だ。


 俺の目標は、『革新党を与党にさせないこと』。

第二位の政党に投票することが一番良い選択だと考えていた。


 投票後、家へ戻ると、出口調査の結果がテレビで放映されていた。

俺はそれを見て、口角を上げる。


「親民党は25%、野党の躍進党が35%、社会党が10%、革新党が30%! 革新党が第二党になる予想か!!」


 興奮した俺は、テレビに釘付けになりながら、呟いた。


 それを小耳に挟んだ海人は、俺を見据えると口を開く。


「ネットで見る限り、SNS放送局で放映された昨日の放送が響いているみたいだね~。流石お父さん!!」


 海人は、きらきらした目で俺を見つめる。


「ははは……」


 俺は乾いた笑みでテレビを見つめ直す。


 海人には、俺が動画を作ってネットに上げたことを伝えていないはず。

だが、このような反応をするとは……。


 こいつ、実は何もかも感づいているのかもしれないな……。


 俺は彼の雰囲気を感じとり、背筋に寒いものが走った。




 その日の夜。開票となった。

テレビで放映されながら、開票結果がリアルタイムで更新されていく。


 夕食を終えた俺達は、リビングのソファに座りながらかたずをのんで中継を眺めていた。


「私達、頑張ったよね。頑張ったよね……」


 不安そうな表情をした有海は、俺を見つめながら問いかける。

俺は彼女の目を見つめると、言い切った。


「うん。十分に頑張ったと思うよ。だから、信じて結果を見届けよう」


 そう言って有海を励ました後、俺はテレビ画面を食い入るように見つめる。

現在の確定した議席だが、以下の通りだった。


親民党:51議席

躍進党:50議席

社会党:15議席

革新党:51議席


 衆議院の総議席数は450議席。まだ決まっていない議席は283議席だ。


 親民党、躍進党、革新党で競る状況となっていた。

俺はかたずを飲んで各党に増加していく議席数を眺める。


 3党がここまで競る状況を誰が予想しただろうか。

『カシャット!!』が放映される前は、革新党が第二党を10%以上の差をつけて第一党となっていた。


 この状況に、テレビのアナウンサーも驚きを隠せずにいるようだ。

随時変わる第一党に、興奮したアナウンサーは言葉を途絶えさせない。


 なお、革新党党首の桜井さんは、報道が響いたのか得票数が伸び悩んでいるようだ。

桜井さんは東京7区に立候補していたようだが、親民党の立候補者と300票差で競っているようだった。






 開票が進み、次第に攻勢がはっきりとしてくる。

接戦となっていた選挙区も、開票が終わり当選者が確定した。




 確定した各政党の議席数はこうだ。
















親民党:120議席

躍進党:112議席

社会党:53議席

革新党:165議席













 革新党が36%の議席数を獲得し、第一党となってしまった。

また、桜井さんは親民党の立候補者に競り勝ち、見事国会議員となった。














 日本という国が、AIもとい、新人類(サイボーグ)に乗っ取られた瞬間だった。















 俺の横ですすり泣く有海を見やりながら、俺は呟いた。








「バカ野郎。日本国民」

これで、暗躍編は終了です。

次から新章へ移ります。


3章からの伏線も無事回収です。


昭人……。家族を守り切れるのでしょうか?

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